【報告】ファンドレイジングセミナー第6回「ファンドレイジングが社会を変える」講師:鵜尾雅隆
【報告】ファンドレイジングセミナー2010 第6回(最終回)「ファンドレイジングが社会を変える」
講師:鵜尾雅隆(日本ファンドレイジング協会常務理事・事務局長)
「支援者リレーション・マネジメント 成功のための5つのステップ」も最終回を迎えました。
まずは二人一組になって、自己紹介のアイスブレイクから。話すテーマは「私は、今日、◯◯を期待してきました」隣の席の方とお話が弾み、以下のような意見が会場から出ました。「これからNPOを立ち上げるにあたって、資金調達を学びに来ました」「老舗のNGO、保守的になってしまった内部の意識を変えていきたい」
講演初めに鵜尾は「私には11歳になる息子がいます」と話し始めました。この10年ふと思い返した時に、毎日仕事が忙しく、彼に何をしてきたか考え申し訳なくなったことで、今年の夏に200キロ歩く事を決意38度を超える猛暑のせいか、始めて一時間で後悔した事も告白、しかも初日から財布を落とすという大ピンチ・・・!一方、息子さんはどっしりと構えて「なんとかなるよ」と。
毎日9時間歩くうちに息子の顔つきに、そして自分の心にも大きな変化があったと語る鵜尾。息子は既に成長して大人になりつつある・・・では自分が親としての役割は何か?それは「よい未来を作り残していく」事。社会起業家などが活躍し社会を変える為『信じて託す』社会にする必要があると力強く述べました。
そして、既に変わりつつある日本社会についてデータを使って説明。
1.60~64歳の約6割がNPOに関心ありと回答。
日本の個人資産約1400兆円のうち、860兆円を60歳以上が保有しており、
NPOへの遺贈寄付なども拡大しつつある。
2.ワークライフバランス意識の変化「あなたにとって一番大切なものは何か?」
という質問に対する回答として『家族』を挙げる人がかなり増えている、
少し前までの時代では考えられなかった事。
3.若者を中心に、社会貢献に興味のある人が増えている。
しかし、NGO職員の給与を増やす為の研究会で大学生が発言
『小学校からずっと教育で社会貢献をする事を教えられているが、
実際、就職先は全くないです』という声も。
ここでNHKのニュース番組映像を紹介。ティッシュや飲料水、洋服等。寄付付き商品が増え続けている。中には売り上げ前年比80%増になった会社も。多くの消費者が手軽に社会貢献を出来る事を評価している現状が、確実にある。
このような新しい手法を「コーズリレーティッドマーケティング」と言うと説明。代表的なものは「VOLVIC」の「1L for 10L」等。しかし実はアメリカでは1980年代から存在しており、日本では過去、電通も研究していたが全く広がらなかったとのこと。
しかし今後はコーズリレーティッドマーケティングの可能性が高いのではないか?なぜなら日本はこれまで「釣り銭型寄付」であったから。それが「社会変革型」の寄付に少しずつ変わっていく為、自分で選択し、満足感がある「寄付付き商品購入」というプロセスを経ることの意味は大きい。
そして「新しい公共」がついに始まる との話。制度改正では、寄付控除の拡充/認定NPO要件緩和/仮認定制度の導入 この認定の制度としては、3年間で3000円の寄付を100人以上集めること。ただしこれだけではまだ寄付の広がりに不十分。
同時にメカニズムの構築では、日本版プランドギビング/年末控除での寄付控除これらの制度が整うことで、NPOが一般の人に寄付の声かけをする数が圧倒的に増え、社会全体の空気が変わることを期待するという話。
プランドギビングとは?→米国にある12兆円残高の寄付信託。効果として、シニアの方が安心して寄付できる/老後の生活が充実して幸せになる/寄付控除による寄付創出効果が加速化 等が見込まれている。なぜなら、プランドギビングの運用益は大きく税控除になり、年金として受け取ることができる為。そして亡くなった場合は寄付となる。既存の信託に比べ、税控除の適用/寄付先を決めることができる/生きているうちに感謝される/寄付先がわからない人への支援 等のメリットがある。
これが実現すれば、全国の信託銀行窓口で『寄付』という運用が提案されることになり、日本の信託銀行に760兆ある資産が有効に動き出す。
ここで「世界が平和になるには、ボランティアや寄付により、一人一人が役に立つ社会を作っていくしかない」。
再びワークショップの時間に。これまでセミナーに参加したことがある人には「一番の気づきあるいは実践してみたいこと」を、初めて参加した人には「支援者との関係発展で悩んでいること」を話し合い、それぞれ発表がありました。
会員が3000人いる大きなNPOでは「20年前からの会員に対して新しい活動のアプローチを始める必要を模索している」やある方からは「ファンドレイジングはNPO活動の経営において重要なこと全てを含んでいると思った」という嬉しい声も。
ここで鵜尾が、これまでのセミナーの重要な点、ファンドレイジングについてのステップを振り返りました。
◆第1回講師:池田氏「まずは魅力を高めていく事、未来や社会のことに人々を導いていく力こそがデザイン」
◆第2回講師:蔭山氏「リポートトークは一方的な発信、ラポールトークは人を巻き込んでいく空気を作る話し方」
◆第3回講師:久米氏/鎌倉氏「ソーシャルメディアは中小NPOにとってこそ活用可能性がある。身近な人ともっと深くつながる、身近な人から広くつながる、バーチャルとリアルの融合、行き来するコミュニケーションが必須」
◆第4回講師:吉田氏「支援者データベースの管理の発展が欧米と日本の大きな差。一人一人を大事にするための日本的なデータベースが大切。
◆第5回講師:佐藤氏「Just Giving Japan」の活動を紹介。「寄付を下さい、ではなく一緒に集めましょう、の方が大きな共感を得ることができる。チャレンジタイプの寄付」
これらを踏まえて「SOFII.org」という。世界中のファンドレイジングの手法を集めたホームページを紹介。折り紙付きの寄付DMやレゴの寄付箱を使った成功事例など。世界最古の寄付依頼の手紙は日本のものであるようだ。
また、会員制度の設計で重要であるとされたのは、実利感/仲間感/共感感×見せ方/ステップアップ導線/きっかけ/継続の仕掛け一度会員になってくれた人が二年目に継続してくれるかどうか。会費の振込は大変なので、講座引き落としのマンスリーサポーターという仕組みも活用できるなど。「CANPAN」も会費のクレジット払いに便利。
ステークホルダーのピラミッドには、毎年段階を上がっていく関心者と降りてしまう関心者がおり、その増減バランスをどうとっていくか。
最後に、「小さな積み重ねから、信じて託し合う社会へ、インフラが整い
確実に変わり始めています」との言葉で鵜尾の講演は終了しました。
●「大学や教育機関への寄付について、何故一般の意識が低いのか?」
⇒回答「ファンドレイジングの発展において大学は重要であり可能性がある。アメリカでは学生のうちに満足度の高い教育などでお世話になったになったと感じることから、後輩の為に自分たちも大学に寄付するようだ」
●「ボランティアの参加者が寄付者になる可能性は?」
⇒回答「その通り。接点が重要、人は人を知ることで 寄付するようになる可能性が高い」
●「個人への応援と組織への共感の違いは?」
⇒回答「まずは人への共感が最初。その後に、組織のビジョンへの共感に繋がっていく。」
記録:永田賢介(ボランティアスタッフ)