──2002年の創業以来17年、かものはしプロジェクトはどのような道のりを歩んできたのでしょうか?
「かものはしプロジェクト」は、子どもが売られる問題の解決のために活動しています。国際労働機関の統計によると、100万人の子どもたちが「商業的性的搾取」(※子どもたちがお金やモノと引き換えに性的な行為を強要され、搾取されてしまうこと)の被害にあっています。活動を始めた当初は、特にカンボジアでの被害が増加していたこと、10歳未満の子どもたちも被害にあっていたという深刻な状況から、カンボジアで事業を始めました。
当初、私たちは、都市部の貧困層が児童買春の被害にあっているのだと考え、孤児院に保護された子どもたちを対象に、IT教育による自立支援事業をプノンペンで立ち上げました。しかし、実際の児童買春被害の多くは、農村部の貧困層が対象になっている背景が段々と明らかになってきました。そこで、農村部での職業訓練と雇用を行うコミュニティファクトリー事業を立ち上げていくことになりました。
また、コミュニティーファクトリー事業とあわせて、買う人を減らすという加害者側への対策としての警察支援も始めていきました。具体的には、警察の意識と能力の向上です。例えば、それまでの被害者が保護されていない状態や、加害者や仲介業者の逮捕が出来ていなかった状況の改善支援を行いました。働きかけの結果、同国での法整備も進みました。様々な人たちの努力が実り、カンボジアでの被害件数は減少していきました。2018年にカンボジアでの支援事業を終了し、カンボジア事務所は独立して別法人となりました。かものはしプロジェクトは、インドでの支援活動に注力していくことになります。
──団体の立ち上げから、支援活動を拡大していく中で、組織として困難な局面が多々あったかと思います。これまでにどのような課題を乗り越えてきたのでしょうか?
カンボジアでの支援で、IT事業からコミュニティファクトリー事業への移行期が、組織として、一つ課題を乗り越えた時期だったのではないかと思います。「子どもが売られる問題をなくす」というミッションに照らし合わせたとき、IT事業だけでは実現が難しいという現実がありました。ミッションに沿った事業の組み直しを行うか、現場事業を尊重し、ミッションを見直すか。この時期、組織内でもかなりの議論が積み重ねられました。
私たちが取り扱う課題は、短い周期でトレンドが移り変わるという側面もあり、自分たちが掲げたミッションに基づき、現状の事業を変えていこうという結論に至りました。結果、組織のセオリーオブチェンジ(※課題に対する変革を行うためロードマップ)の再作成も行いました。
──かものはしプロジェクトは、サポーター(※マンスリーサポーター)が非常に多いことでも知られています。ファンドレイジングという側面から、工夫されていることなどを教えて下さい。
扱う課題が深刻な人権問題のため、日本国内で理解を得ることは、活動初期は特に難しかったです。特に企業との連携などは、様々な事情で支援を得ることが難しい局面がありました。そのような背景から、この課題の解決に共感してくれる「個人」からの支援を、まずは集めようという認識が組織内で共有されていきました。個人サポーター制度は、2004年にスタートし、対面で課題についてお話を聞いていただく講演の機会やオンラインからの動線で、少しずつ支援していただける方が増えていきました。お陰さまで、今では1万人の方々がサポーターとして支援してくださっています。少数の方達から多額のご支援をいただくことと、少しずつのご寄付を多数の方達からご支援をいただくことは、どちらが良いとは一概にはいえませんが、私たちの課題は国内でも未だ理解が十分とは言えないため、多数の支援者の方の理解を得て、より多くの方にこの問題を知っていただくことは大変意味のあることだと感じています。
──ご支援に対し、成果を出せたと感じるのはどのようなときでしょうか?
個人的には、被害を受けてもそれを乗り越えてきた「サバイバー」の人たちが、やがて被害者のメンターとなったり、地域の中で啓発活動をしている瞬間に立ち会ったときに、そのことを実感します。本当に強く優しい人たちだと。彼女たちの中には、アドボカシーに取り組み、法律の整備のために国会議員と活動を行った人たちもいます。
あるサバイバーは、10代半ばに被害を受け、自分の家に戻ってきました。そのとき、誰も彼女の話を聞いてくれず、穢れを持った人間としてコミュニティで扱われました。私たちの支援を受ける中で、徐々に回復していきましたが、ある時「これからは人の役に立つ仕事をしたい。昔の自分のような想いを誰にもさせたくないから」と笑顔で言ったのです。それを聞いたときハッとさせられました。私にはこのようなことが、自分の身にこの年代で起きたら果たして言えるかなと。こういう強く優しいサバイバーの方たちの成長を感じた時、活動していて良かったと実感します。
──最後に、日本ファンドレイジング大賞を受賞されて、改めて本賞を受賞されたことの意義など教えていただけますでしょうか?
ファンドレイジングは、現場を支える、普段は日の当たらない地道な活動です。ここに光を当てていただける賞は他にはなく、ファンドレイザーにとって非常に励みになります。私たちが取り組んできたファンドレイジングを評価し、光を当てていただいたことを大変有難いと感じています。
また、この賞はファンドレイザーの投票によって最終的に決定されたと聞いています。仲間であり、ファンドレイジングの実践者であるファンドレイザーから評価されたことは、大変光栄で嬉しく、また感謝しています。
受賞後、支援者の方々からも喜びの声をいただきました。ファンドレイザーと支援者がともに評価され、表彰していただいたと感じています。この受賞を励みに、さらに国内でも理解者を増やしていく活動を展開していきたいと考えています。
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