投稿日:2020年4月1日

日本の広告業界の在り方に切り込む!NPOのデジタルマーケティングを支援する現場から見えてきたチャレンジ「スペシャルパートナー対談」

スペシャルパートナー特集第二弾は、株式会社ワンチーム(元株式会社ジャックアンドビーンズ)の谷田脩一郎氏をお迎えしてお届けします!NPOのデジタルマーケティングを支援する谷田氏が、広告業界の未来をどのように見ているのか、これからのチャレンジをお伺いしました!
※株式会社ジャックアンドビーンズの広告運用事業及び広告運用者育成事業(デジマメ)を総称したデジタルマーケティング事業について、更なる事業の発展を目的として、2020年4月1日をもって新たに設立する『株式会社ワンチーム』(コーポレートサイト:https://o-team.co.jp/)へ事業を移管しております。

プロフィール

株式会社ワンチーム 谷田 脩一郎

聞き手

日本ファンドレイジング協会 代表理事 鵜尾 雅隆

「デジタルマーケティング」の切り口でNPOの活動を支援するチャレンジ

鵜尾:まずは御社のNPO業界での歩みから伺いたいと思います。どのようなきっかけから参入されたのでしょうか?

谷田:実は、2016年3月に私がNPO業界向けの企画を提案して、弊社に入社したことがきっかけの一つです。

鵜尾:谷田さんの提案と入社をきっかけとして、ゼロからサービスモデルを考えた。面白いですね。最初に谷田さんがやろうと思ったことはどういうことだったのでしょうか?

谷田:NPO向けのインターネット広告であるGoogle Ad Grants(グーグルアドグランツ)の運用代行です。Google Ad GrantsはNPO向けのサービスで、毎月10,000ドル分の広告を無償で掲載することができます。とても魅力的なサービスですが、一定の知識を持っていないと運用が難しいという大きな課題がありました。そこで、会社として検索連動型広告の運用実績があり、前職ではNPO業界に関わってきたという自分の経歴を活かして、運用代行サービスを始めました。

鵜尾:最初は月1万円で運用代行サービスをはじめられて、契約団体数が40団体ほどに増えたタイミングで、無料版をリリースされていますよね。さらにその後には、映像制作などのサービスも展開されていますが、これはどのような戦略だったのでしょうか?

谷田:当初は、月1万円という安価なサービスなので、すぐに150~200団体へと拡がると見込んでいました。しかし、サービスを拡げていくために想定以上の時間がかかり、NPOの多くは、インターネットの領域に非常に慎重であることが明確になりました。

そこで、どうしたらインターネットに参入するハードルを下げられるか、どのように団体との関係を構築するかということを社内で検討した結果、「サービスの無償化」を実施することになりました。基本パッケージは無償で提供して広く活用して頂き、必要であればアップグレードしてさらに活用してもらう方が、拡がりやすくなると思ったからです。また、このサービスを活用する団体が増加すると、それに伴ってデータを用いて新たなサービス開発をするチャンスが見えてきます。

現在、広告運用をしているのは250団体以上で、月間で300万~400万人程度の社会課題に関心のある方々の人の動きが見えるようになっています。

鵜尾:次の流れとしては、どのようなところを目指しているのでしょうか?

谷田:これまで250団体以上を支援させていただいて、私たちが提供できるものと、団体が期待しているものに齟齬が生じつつあることに気付き、新サービスとして「デジマメ」をリリースしました。「デジマメ」は、主に企業向けに展開していた、デジタルマーケティング専門家育成研修をNPO向けにカスタマイズしたものになります。WEB研修と対面でのリアルな研修を組み合わせ、知識を付けながら実践的に体得して頂けるプログラム構成になっています。

このサービスで私たちは団体に知見を提供し、実務をまわすのは団体にやってもらう、という役割分担をすることで、私たちが持っているデジタルマーケティングの知見を非営利組織にご提供するサービスです。「ファンドレイジング・日本2019」に合わせて、2019年9月にサービスインさせました。

鵜尾:研修は団体ごとに展開されているのですか?

谷田:はい。各団体によって目的や課題が違うので、原則的にOne to Oneです。ただ、フェーズで課題が同様の場合などには、複数の団体に一緒に受講して頂くこともあります。

原動力は少しでも社会を良い方向に。広告業界の流れを変えたい。

鵜尾:谷田さんの原動力はどこからきているのでしょう?ご自身の知見を活かし、日本のNPOの現状に向き合い、諦めずにサービスを進化させ続けて丸3年強、会社の事業としてという面もあるとは思いますが、かなり谷田さん個人のイニシアティブを感じます。

谷田:その原点は、苛立ちだと思います。日本の広告業界では、プロモーションのために年間6兆円という大きなお金が動いています。その中のメッセージを抽象度あげて表現すると、3つの言葉に集約されると思います。「消費しなさい」「投資しなさい」「貯蓄しなさい」というメッセージです。毎年カンヌで行われる国際的な広告フェスティバルを見てみると、世界では社会をより良くする方向のメッセージでプロモーションしている一方で、日本では未だに「消費」「投資」「貯蓄」を促すメッセージが多いのが現状です。約7兆円のプロモーションで人を動かして550兆円のGDPが生まれていることを考えると、その数%が社会を良くするためのプロモーションになれば、社会が少しでも良い方向に向くと思っています。

私は常々、「社会をより良くするためのデータ・トリガー・ムーブメント」と言っているのですが、一つの団体一つのテーマでだけで行うのではなく、多様な団体多様なテーマの団体と「誰に何をどう伝えれば、何がおこるのか」を試行錯誤し、「データ・トリガー」を貯めることで、「社会をより良くするためのコア」を見つけ、それぞれのNPOが成長する武器が作れるのではと考えてます。そして、企業にとっても「社会をより良く」というメッセージを発信するプロモーションを行う際のキッカケになるかもしれない。それを発見するためにインターネット広告からアプローチを始めています。

鵜尾:なるほど。面白いですね。ひとつひとつのNPOを超えて、プロモーションの価値の再定義、進化を促していく。今後、5年10年先の展望について聞かせてください。

谷田:インターネット広告に関して言うと、もっとユニバーサルにしていきたいと思っています。一般的な「ユニバーサル」という言葉には様々なとらえ方がありますが、私はこの言葉を、「最も多様な人々にご活用頂けるサービス設計」という意味で使っています。6兆円が動いているプロモーションの世界は、THE資本主義となっており、予算が潤沢な企業に向けてサービスを提供しています。しかし、今テクノロジーがあらゆるものを民主化しているのに、広告業界はまだまだ民主化されておりません。

私が4-5年NPOと向き合ってきた結果、弊社でどんなことが起こったかというと、NPO支援で始めたことは、他業種にも展開可能だということに会社として気が付いたということ。企業でもNPOも同じで、今は資本がないけれども社会に何かしたいという人に向けて、想いを事業のドライブにできるようなサービスを提供したいと思っています。現状ではそこに広告業界がマッチしていません。会社としても個人としてもこのサービスのユニバ―サル化が大きなも目標です。

成功体験の共有が当たり前という空気感を創りたい

鵜尾:御社は、2017年の「ファンドレイジング・日本」からご協賛いただき、寄付月間、そして2019年度はスペシャルパートナーとして協業頂いています。弊協会へのご期待を是非教えてください。

谷田:マーケティング業界では「あれ、俺がやったんだぜ」という主張が多いんですね。ちまたではそれを「アレオレ詐欺」と呼ばれていたりしますが(笑)。個人的には、この主張は良いものだと捉えています。話題になったプロモーションには「あれ俺がやったんだぜ」と言っている人が本当に多い。その中には、良い成功体験が隠れていて、彼らは成功体験を共有しているのです。それに対してNPO業界は「アレオレ詐欺」が少ないと思います。NPO関係者も、もっと自慢していい、もっと調子にのって語ってほしいと思います。
貴協会には、みんなの「アレオレ」を言う良い空気感やプラットホームをもっともっと作っていって拡大していってほしいと思っています。多少誇張が混じっても(笑)、みんなで市場を成熟させるために「アレオレ」をやってほしい。「この成功体験を多くの人に知ってほしい。これを伝えずにどうする?」という空気感を貴協会とともに私も創っていきたいです。

鵜尾:成功体験を語る人を見てインスパイアされ伝承していく。FRJをはじめた時に、まさに、「ファンドレイジング・日本」を成功体験を語る場にしたいと思いました。「こうすべき」ということを伝える場でなく、ベストプラクティスを伝える場にしたかった。「苦労して苦労して、やっと今ここまできました」と輝いて語っている人の話は聞いていてとても面白い。それを見て感動した人が頑張って、翌年はその人が壇上に立つ。このサイクルがまわっていくと、主催者の予見を超える面白さが生まれる場になると思っています。

鵜尾:御社と御社のNPO向けサービスは、今後はどのように展開していくのでしょうか?

谷田:弊社の中で、NPOに向けてのサービスを一人ではじめて、やがてユニットになり、Div(部署)になりましたが、もう今はその部署はありません。NPO部門は、ひとつのユニットやDiv(部署)だけでなく、全社を挙げて行うものという認識になったからです。Div(部署)は解散して、会社としての社会貢献をそれぞれのリソースや得意分野を活かして事業推進していこうという考え方に変化しました。私は旗を振ってメンバーをアテンドし、Div(部署)に分配するという交通整理の係です。主に、デジタルマーケティングのユニバーサル化に取り組んでいきます。

鵜尾:大変興味深い組織の変化のモデルですね。谷田モデルを全社で行うということですね。この業界はよほどのパッションがないとサービス提供を続けることができない。我々も、サービス提供側と使うNPO側とが共感的につながり、よりサービスを良くするために一緒に作っていく、こういうコミュニティを日本に作っていきたいと思っています。

鵜尾:最後にジャーナルの読者の皆さんにメッセージをお願いします。

谷田:私はNPOの法人格が大好きです。なぜかというと、他の法人格に比べると多様なありかたが許されているからなんです。そんな多様な皆さんを、デジタルマーケティングで引き続き力強く応援したいと思っています!

鵜尾:今日はありがとうございました!

株式会社ワンチーム [OneTeam Co.,Ltd.]

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