投稿日:2015年4月10日

第1回 さあ、はじめよう!ファンドレイジング

徳永 洋子Yoko Tokunaga
認定ファンドレイザー
日本ファンドレイジング協会 理事

ファンドレイジングとは

ファンドレイジングという言葉を初めてお聞きになった方もいらっしゃるでしょう。「ファンドレイジング」を直訳すれば「資金調達」。NPOが活動する上で必要となる資金を集めること・・・それがファンドレイジングです。
実は、母国語をこよなく愛するフランスでも、NPOの資金調達は「Fundraising(ファンドレイジング)」という英語で称されるそうです。以前、日本ファンドレイジング協会が招へいしたヨーロッパファンドレイジング協会副会長のロバート・カワルコ氏は、「Fundraising(ファンドレイジング)は世界の共通言語。この言葉を世界のNPOのファンドレイザーが使って、その知見やノウハウを共有することで、NPOセクターが発展していく。」とおっしゃっていました。
また、「NPOのファンドレイジング」といった場合は、一般的には、NPOへの支援の意思が込められた寄付や会費、助成金といったNPOならではの資金の調達を意味します。

なぜ寄付や会費が重要か

NPOの資金源には、寄付金、会費、助成金・補助金、事業収入、融資の5つがあります。それぞれに特色がありますが、なかでも使途の自由度が高く、団体への支援の意思が込められた寄付や会費は、NPOにとって重要なものです。
そもそも、寄付とは何なのでしょう?NPOにとって、寄付を集めることは単に活動資金を集めることではありません。NPOの本質は団体が単独で社会の問題解決に取り組むことではなく、その活動を通じて社会的な課題を人々に知らせ、理解してもらい、その課題解決への参加者を増やして社会をより良くしていくことです。寄付を募る過程で、団体と人々がつながり、支援の輪が広がることで問題解決が促進するのです。
また、寄付者にとっては、寄付をすることは自分自身が動いて社会を変えたり、社会のニーズに直接応えられなくても、確実に行動してくれる誰かに「思い」と「お金」を託す未来への投資だと言えます。寄付という行為による社会参加と自己実現、自分の善意が生み出した成功体験の喜びは、人間が生まれながらに持っている利他の精神を満たして、幸福感をもたらすものでもあります。

日本の寄付の現状

このように、集める側にも出す側にも意義のある寄付ですが「欧米に比べて日本には寄付文化が無い」という声を聞きます。本当でしょうか?
確かに、「日本人の年間平均寄付額が3千円足らず、米国の100分の1だ」というような調査結果(2002年内閣府調査)をみると、「寄付文化が無い」と嘆きたくもなるでしょう。
最近の日本の市民社会の変遷を顧みたとき、その躍進の契機が阪神・淡路大震災でのボランティアの活躍であったことから「社会貢献は無報酬」というイメージが定着してしまったように思えます。震災の時、皆が行政や企業、地縁や血縁でも解決できない事態を目の当たりにしました。そのなかで力を発揮したボランティアの姿を通じて、NPOの価値が確認され、震災に限らず、豊かな社会の実現のためには多様な社会の課題やニーズに応えるNPOが重要だとされましたが、その活動資金への理解が進んでいない原因は、案外、こんなところにあるのかもしれません。
しかし、2011年の東日本大震災では日本には寄付の文化が確実にあることを認識させられました。未曾有の複合的な震災は甚大な被害をもたらし、多くの犠牲者が出て、被災者の多くが今もなお困難な生活を強いられています。そうした中、被災者支援、復興支援のために多くの寄付が寄せられました。
当協会の調査(「寄付白書2012」)では、日本人の8割近い人たちが震災関連の寄付をしたこと、3千円以上寄付した人が6割に及び、6千億円の寄付が寄せられました。日本人は決して、「寄付をしない人たち」ではないのです。
たしかに、日本には、神社・仏閣への寄進、地縁・血縁に基づいた共助の精神など、寄付を厭わぬ精神性が古くからありました。日本には寄付の土壌があるのです。
では、日本人に共助の精神が無いわけでもなく、誰かのためにお金を出す習慣が無かったわけでもないのに、NPOへの寄付が促進していないことを解決するためには、どうしたらいいのでしょう。

さあ、はじめよう、戦略的ファンドレイジング!

NPOの皆さん、「どうせ無理…」と諦めてしまってはいませんか?まずは、組織一丸となって積極的に寄付集めをすること、寄付集めの過程で人々とのコミュニケーションを図って共感してもらう努力をすることが現状打開には必要ではないでしょうか。
とは言え、ただ闇雲に寄付集めに取り組んでもコストと時間がかかるばかりです。そこで、戦略的な寄付集めの手法が求められます。
その戦略的な寄付集めに欠かせないのが、寄付者に対するファンドレイジングを「サイクル」と捉えることです。そうでないと、寄付は一過性の収入となり、不安定で、極めて割の合わない資金源にとどまってしまいます。
「ファンドレイジング=ファン『度』レイジング」だという名言があります。団体へのファン度を上げていってもらい、繰り返し寄付をしてもらう。サイクルが回転していく中で、その輪が広がって支援者が増える…そんなサイクルをつくるにはどうしたらいいでしょう?

FRcycle

この連載では、ファンドレイジングの過程を「7つのステップ」にわけて、それぞれのステップでするべきこと、注意することなどをご説明していきます。
ファンドレイザーは、より良い社会を実現するために、団体と支援者をつなぐ「かけ橋」です。ご一緒に、自信と誇りをもって戦略的なファンドレイジングに取り組んでいきましょう!

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第1回 さあ、はじめよう!ファンドレイジング(今回)
第2回 Step 1 組織の潜在力の棚卸
第3回 Step 2 既存寄付者・潜在的寄付者の分析
第4回 Step 3 理事・ボランティアの巻き込み
第5回 Step 4 コミュニケーション方法や内容の選択
第6回 Step 5 ファンドレイジング計画の策定
第7回 Step 6 ファンドレイジングの実施
第8回 Step 7 感謝・報告・評価
第9回 ファンドレイジングサイクルをスパイラルアップさせるには

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Profileこの記事を書いた人

徳永 洋子 Yoko Tokunaga

認定ファンドレイザー
日本ファンドレイジング協会 理事

東京都出身。大学卒業後、三菱商事に勤務。1998年から日本フィランソロピー協会で視覚障害者向け録音図書のネット配信事業「声の花束」を担当。2000年よりシーズ・市民活動を支える制度をつくる会で、おもにNPOのファンドレイジング力(資金調達力)向上事業に従事。そのプロジェクトの一環として、日本ファンドレイジング協会設立を担当し、2009年2月、同協会設立と同時に同協会事務局次長となり、2012年6月より2014年末まで同協会事務局長をつとめた。現在、同協会理事。2015年2月にファンドレイジング・ラボを立ち上げた。

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第3回 Step 2 既存寄付者・潜在的寄付者の分析

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第2回 Step 1 組織の潜在力の棚卸

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