投稿日:2019年3月31日

全4回シリーズ①:実践者との対話と学びで見えてきたコレクティブ・インパクトの行間

清水 潤子Junko Shimizu
准認定ファンドレイザー

昨年から、日本国内でもコレクティブ・インパクトに関する著書やジャーナルがいくつか紹介されるようになりました。当協会でも、日本財団の助成を受け、9月・10月・2月とNPO法人ETIC.と共同で、実践者向けのコレクティブ・インパクトの研修を行ったり、コレクティブ・インパクトを提唱した米国FSGでマネージング・ディレクターを勤め、自身も社会課題解決にコレクティブ・インパクトのアプローチを用いているフィリップ・サイオン氏を招聘し、フォーラムを開催しました。

2011年にコレクティブ・インパクトが提唱されてから、7年。研修やフォーラムにおいて国内外で社会システムに働きかけ、社会課題の解決を目指す実践者がコレクティブ・インパクトに関する沢山の疑問やもやもやをサイオン氏や仲間と共有し、議論した中には、様々な発見がありました。これから4回にわたり、その対話から生まれた問いや考え方、議論の一部を紹介します。

4回のテーマは、

①コレクティブ・インパクト=万能な社会課題解決のアプローチなのか?
②コレクティブ・インパクトは誰と起こすべきか?
ー共通のアジェンダを模索するひととの協働

③共通のアジェンダ作りからはじめるのは、誤り。その前にしなければならないこと。
④コレクティブ・インパクトの実現に必要なエッセンス:協働という鏡に映る自分

です。また4回にわたりジャーナルを通してお伝えするのは、ひとつの「考え方」であり、コレクティブ・インパクトやそのアプローチを定義しようとしたものではありません。ジャーナルの中でも述べますが、複雑な社会課題にどう立ち向かうかという点で、ヒントや視点の提供を目的としています。今回のテーマは、「コレクティブ・インパクトアプローチは万能な社会課題解決方法なのか」です。

コレクティブ・インパクトの向き・不向き

今回の研修やフォーラムを通して、「コレクティブ・インパクトと他の協働とは何が違うのか」という問いを、多くの方から投げかけられました。しかし、「何のためのコレクティブ・インパクトなのか」ということを考えたときに、特に受益者や実践者にとって重要なのは、それがコレクティブ・インパクトにとってもたらされたかというよりも、実際に求めている変化が起きたかということや、いかに課題が解決されたか、ということではないでしょうか。

サイオン氏をはじめ、コレクティブ・インパクトの研究や伴走支援を行ってきた人たちは「より根本に近いところで、システムに変化をもたらし社会課題を解決するためにコレクティブ・インパクトを指向するのであれば、コレクティブ・インパクトの特徴として知られているテクニカルなところから始める前に、この見極めや準備が大事である」と語っています。なぜそのようなことを言うのでしょう。

社会課題の解決にはいくつかの種類があるといわれていますが、たとえばマニュアルなどを用意すれば対応できるような課題、より高度・専門的な知識やスキルを必要としつつも、それがあれば解決できるような問題、そして複雑に入り組んでいて、ひとつの解決方法では解決できないような問題があります。コレクティブ・インパクトを必要とする状態は、そんなルービックキューブのように1つ動かすと他の様々な面に影響しあう、複雑に入り組んでいる課題を単体としてではなく、システムの課題として捉え、そんな社会課題の解決に向かう時であると言われています。逆にそうしなくても解決が可能である場合は、コレクティブ・インパクトを志向する必要も無いと考えられ、同時にこのアプローチ自体が他の協働の在り方を否定するものでもないといえ、万能かどうかという問いについては、何を解決していくものなのかによって変わるということが言えると思います。

コレクティブ・インパクトの特徴がマニュアル化する懸念

「コレクティブ・インパクト=5つの特徴を網羅すればいい協働」という解釈は大きな誤りで、2018年のジャーナルでも記載したとおり、あくまでも過去に社会システムの変化を通じて社会課題の解決を試みた事例を分析した結果、コレクティブ・インパクトを起こすことに寄与していた5つの特徴として提唱されています。しかし、すでに2011年にそれが提唱された後も、その5つの特徴だけではシステムの根本解決ができないのではないか、他に必要な要素があるのでないか、という議論の最中にあるものです。(例:コレクティブ・インパクト3.0) インパクトをコレクティブに起こすプロセスは実に多様であり、コレクティブ・インパクト自体が、マニュアルやフレームワーク、モデルではないということを認識する必要があります。ルービックキューブを完成させるのにルールブックやお手本が無いように、コレクティブ・インパクトの推進には、複雑な社会課題を解決するための答えを求める、から、私たちの答えを創るというモードへの変化が必要であることを問いかけているように感じます。特徴に当てはめることに注力しようとすると、手段と目的が混線することになりかねません。

研修に参加している実践者との議論の中で、コレクティブ・インパクトは複雑な社会課題の解決へ立ち向かっていくにあたり、「エッセンスを満たしていないから、コレクティブ・インパクトとは言えない」とか「すべてを満たせないからコレクティブ・インパクトではない」と判断するのではなく、この特徴や背景にある考え方、協働を生み出す人の姿勢から学び、協働を阻むバリアをどう超えるを考えるときに、コレクティブ・インパクトの事例や、5つの要素が共通の特徴として挙げられた理由から学ぶことがあるのではないかという議論が印象的でした。皆さんの日々の協働を考えたときに、コレクティブ・インパクトに「当てはめる」というより、システムに働きかけ、社会課題を解決するということを考えたときに、コレクティブ・インパクトを起こしてきた事例やそのプロセスから何を学ぶか、エッセンスとして取り上げるかということを起点に、コレクティブ・インパクトを起こす協働について考えてみることも出来るかもしれません。

 

次回は、「コレクティブ・インパクトとは誰とすべきか?ー共通のアジェンダを模索するひととの協働」について、実践者との対話の中で見えてきたことをお届けします。

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