【ご報告】 第2回ファンドレイジング・セミナー2009
第2回 ファンドレイジングセミナー2009
コーズ・リレイテッド・マーケティングは救世主になれるか!?
9月12日午後1時半から4時まで、東京赤坂の日本財団ビルで、第2回ファンドレイジン グセミナー2009を開催しました。今回のテーマは、「コーズ・リレイテッド・マーケティングは救世主になれるか!?」。土曜日の午後にもかかわらず、会 場には130名を超える人たちが集まりました。
第一部では、Causebrand Lab.代表の野村尚克氏が、基調講演を行いました。野村氏は、「世界を救うショッピングガイド」の著者で、日本におけるCRM普及とコーズブランド研究 の第一人者。今回は、流行となっているコーズ・リレイテッド・マーケティング(以下、CRMと略す)の背景とさまざまな事例、そして、NPOから見た協働 のヒントについて語られました。
野村氏は、CRMは、収益の一部がNPO等への寄付を通じ、社会的課題の解決のために役立てるマーケティング活動であり、その原則として、マーケティングの成果が問われるものであると述べました。
昨今、CRMが流行している背景としては、まず、企業においては、CSR担当部門では、積極的なCSR活動(企業の社会貢献活動)が求める声が高まってい る中で、不況下において、その費用対効果の高いものへ活動をシフトする必要があること、加えて、売り上げ低迷のなかで、マーケティング部門が、効果的な マーケティング手法として採択しているといった点を挙げました。
他方、消費者においては、寄付付き商品というコンセプトの新しさが購買意欲につながっていること、社会貢献意識の高まり、経済的な不安感の中で「お金のか からない社会貢献」を求める傾向があることなどを、各種消費者調査の結果をもとに示しました。さらに、NPOにとっても、不況下で新規支援者の獲得が困難 な中で、獲得資金の拡大、他のNPOとの差別化のチャンスとしてCRMの対象となることから、CRMは企業・消費者・NPOが「三方よし」の結果を生み出 していると述べました。
また、野村氏は、CRMの各種事例をあげ、CRMにも様々なタイプがあることを解説しました。
それらを踏まえたうえで、野村氏は、CRMに関してNPOが押さえておくべきポイントとして、以下の5点を挙げました。
1.CRMの第一要件は「消費者の参加」であることから、消費者、すなわち「生活者」から支持される団体(わかりやすい・共感されやい)を目指すこと。
2.対象企業としては、差別化効果がでやすい食品、飲料、日用品を扱うで企業にアプローチすること。
3.商品としては、団体の受益者、活動内容にマッチするものを選ぶこと。
4.一般に外資系の大手NPOがCRMに強いのは、そのブランド力が、消費者よりも社内説得時に有効だからであること。逆にいえば、それがクリアできれば国内NPOでもできる。
5.小さいNPOでは無理というのではない。なぜなら、消費者への訴求点は団体名ではなく、その内容「売り上げの一部を寄付して何々をつくる・・・」という点にあるから。
さらに、ユニセフがCRMの対象になることが多いのは、社内説得時に安心感を与えること以上に、何よりも、日本一と言われるほどの寄付収入がありながら、その8割が個人ドナー(企業にとっては見込み客となる生活者)であるという点が評価されているからだと述べました。
最後に、野村氏は、CRMについては、日本では始まったばかりであることから、NPOも企業に後れを取らないように学んでほしい、また、その際に、今一 度、自団体のアイデンティティ、すなわち、使命、顧客、価値、計画、成果などを再考して、ブランドづくりを実施してもらいたいと述べ、基調講演を締めくく りました。
第2部は、パネルディスカッション。
登壇者は以下の4氏。ファシリテーターは、当協会の鵜尾雅隆が務めました。
(50音順)
・森永製菓株式会社 菓子マーケティング部
ブランドマネージャー 櫻木孝典氏
・NPO法人野生生物保全論研究会(JWCS)理事 戸川久美氏
・アメリカン・エキスプレス・インターナショナル, Inc.個人事業部門
マーケティング担当 副社長 中島好美氏
・Causebrand Lab.代表 野村尚克氏
はじめに、森永製菓の櫻木氏が、同社のCRM「1チョコ for 1スマイル」の事例を発表しました。
「1チョコ for 1スマイル」は、年間を通じての利益の一部と合わせて、年に2回、森永のチョコレート1個につき1円が教育支援に寄付されるというキャンペーンを実施するもの。
櫻木氏は、このCRMプロジェクトが、同社の長年のCSR活動を踏まえての試みであること、ただし、マーケティング部門の責務として、無償の寄付ではな く、会社の利益への還元が前提となっているプロジェクトであると述べました。また、この取り組みによって、消費者が森永のチョコレートを通じて社会とつな がる満足感を得てもらえたら嬉しいとも語りました。櫻木氏は、これまでの取り組みを振り返って、このプロジェクトが消費者の社会的責任消費を喚起できるよ うなコーズになっているだろうか、他社との差別化が図れているだろうか、ブランドの価値の向上をどのように検証したらいいのか、などを常に考えながらプロ ジェクトの推進を図っているとのことでした。
続いて、野生生物保全論研究会(JWCS)の戸川久美氏が阪神タイガースのCRMによる「トラカムバック」について発表しました。
このプロジェクトは、昨年、阪神タイガースが、シャプラニールのフェアトレード商品によるトートバッグを売り、その売り上げの一部が、同団体の野生のトラ を保護するための「トラ基金」に寄付されたというもの。シャプラニールにとっては、収入がネパールの女性支援になり、阪神タイガースは、女性ファン向け公 式グッズとして好評を博したとのこと。このプロジェクトの発端は、2006年に岡田監督が個人としてトラ基金をサポートしたのがきっかけ。小さな支援が全 社的なCRMに発展した好事例で、販売が終了しても、このプロジェクトを機に、「一勝したらトラ基金に500円」といったファンの募金活動も始まったとの こと。
事例発表では、阪神球場に昨年流れたインドのトラ保護NGOの阪神へのお礼と応援のビデオも映し出され、戸川氏は、CRMによって、同団体の認知度アップと支援拡大につながったことが良かったと述べました。
アメリカン・エキスプレスの中島好美氏は、同社が、尊敬されるサービスブランドになるべく、米国での創業以来社会貢献活動を続けており、そのなかで、同社 では、CRMを「社会貢献型マーケティング」として位置付けていると話されました。事例としては、会員がカード使用で得られる「ポイント」を寄付するとい うもの。「世界の医療団/子ども3人分のポリオワクチン費用」(1500ポイント)、「JHP・学校を作る会/学校づくり」(500万ポイント)といった 具体的な成果を示して寄付を募っているとのこと。さらに、加盟店が協力して、対象店舗で会員がカードを使うごとに100円が「世界の医療団」に対する寄付 になり、しかも、購入金額が5%安くなるといった会員特典付きのキャンペーンも実施したそうです。このキャンペーンでは、買い物をしたカード会員にサン キューカードを渡すなど、支援した実感を感じてもらう工夫もしたそうです。
中島氏は、このプロジェクトの成功の3要素として、同社とカード会員と加盟店が連携した社会貢献事業だったことを挙げました。成果の報告と継続性によっ て、3者が「More than just a Card」、「この一枚だから出来ること」を実感する場を提供した点に成功のカギがあると述べました。
その後、会場からの意見、質問等を受け、ディスカッションを行いました。
今のCRMは一過性の流行かとの議論では、マーケティング手法としてブームになっているのは確かだが、費用対効果が見えやすいCSRのひとつとして定着する可能性が高いとの意見が出ました。
また、CRMは短期のキャンペーン型のものが多いため、NPOにとって資金計画がうまく立たない、使途が限定されるという難点もあるが、そういう点については、企業とあらかじめよく相談したうえで実施していくことが重要だという指摘もありました。
他方、CRMの対象になりにくい、人権問題のような社会問題や、新しく生じてきた社会の課題については、無理にCRMに組み込まず、CSRによって課題解 決に参画し、一般社会での認知度や理解が高まってから、CRMに入れていくことになるだろうとの考えも示されました。さらに、あくまでもマーケティングな ので、消費者調査や顧客リサーチなどで支援先を決めて、顧客の関心の高いものをテーマにせざるを得ないが、CRMにおいては、それに反した内容で実施した ら、プロジェクト自体が無駄なものになってしまう、CRMは寄付の分野のほんの一部であると考えるのが妥当だろうとの意見も出ました。
最後に、各パネリストから、「お客様の潜在的な善意のためにも、いいCRMを行っていきたい。」(中島氏)、「今後も、野生動物保護という成果の見えにく いテーマを企業、さらに広く社会の皆さんに理解してもらうために努力していきたい。」(戸川氏)、「お客様が求めているのは商品購入を通じた社会参画。 NPO・顧客・会社が”三方よし”となることを目指したい。」(櫻木氏)、「消費者にとっても、CRM商品を購入することが、ボランティアや寄付の入り口 になると思われる。CRMの昨今のブームを、NPOの皆さんは好機ととらえ、積極的に関わっていただきたい。」(野村氏)とのコメントを得て、2時間半に わたるセミナーは終了しました。
(報告:日本ファンドレイジング協会 徳永洋子)