沖縄で今、多様な財源を組み合わせて、地域により大きなインパクトを生み出そうという挑戦が始まっています。2023年に沖縄初のインパクトファンドを立ち上げた株式会社うむさんラボ 代表取締役CEOの比屋根隆氏。「株式会社沖縄県」のコンセプトを掲げ、投資だけでなく、補助金、寄付、融資などあらゆる財源を駆使して、セクターや世代の分断、資金の出し手と受け手の壁を超えていこうとする挑戦の日々に前・後編にわたって迫ります。
(聞き手:認定NPO法人日本ファンドレイジング協会 事業推進ディレクター 久保 匠)
前編はこちら
久保:社会課題解決を推進するためには、寄付・会費・助成金などの支援性資金に加えて、助成金・補助金・事業収入・投資・融資など多様な財源を組み合わせながら必要な財務基盤を構築していく必要があります。
それを行うには、まさに営利・非営利の垣根を超えて、多様な財源に関する深い知識と経験を身につけていく必要があると感じています。うむさんラボは、多様な資金調達・資金拠出を行いながら、先駆的な取り組みをローカルで実現していますが、どのような資金メニューがあるかについて、あらためて教えていただけますか?
比屋根:多様な金融をうまく繋げていきたいと考えています。国の予算で実施する起業家の育成プログラムを経て、スタートアップに進む段階では沖縄県のスタートアップ支援事業の補助金を使わせてもらいます。次の起業のタイミングでカリーファンドから出資をしたり、繋がりのある県内の金融機関と協調で融資してもらったりということで、現時点では、補助事業や助成事業、金融機関の融資と投資を繋げて資金拠出を行っています。
うむさんラボがつくるソーシャルビジネスのエコシステム(画像提供:株式会社うむさんラボ)
久保:投資、融資、助成金、補助金。聞いているだけでも多種多様ですね。これらに加えて寄付(うむさん基金)もありますよね?
比屋根:そうですね。うむさん基金はこれから本格的に稼働させていくところですが、今後はカリーファンドとは別に、うむさん基金から助成金を出すこともできるので、それらを上手く組み合わせていければ、すごくいい流れになってくると感じています。
久保:各財源の特徴を教えていただけますか?
比屋根:カリーファンドは、県内企業を中心に企業・個人から出資という形で資金をお預かりしています。
久保:投資ということですね。
比屋根:そうです。いずれも沖縄を良くしていきたいと思う企業や個人の方が出資しています。全体の出資数が28で、うち県内17・県外11という内訳です。県外の出資者も、沖縄の応援団であったり、すでに沖縄のスタートアップに関わっている方たちですね。
久保:沖縄のインパクトのために、28もの出資者を集めるというのはものすごいことですね。うむさん基金はどうですか?
比屋根:うむさん基金は、個人と企業の寄付を想定しているのですが、まだ積極的に動けていないため、現時点ではうむさんラボが支援している企業から、「今年利益が出たのでうむさん基金に入れます」といった形でのご寄付が多いですね。なかには出資できないけど、寄付はしやすいという企業もいるので、受け皿としてカリーファンドとうむさん基金の両方を持つことは企業にとっての選択肢にもなるという気がしますね。
久保:投資だけ、寄付だけを集めるのではなく、出し手の視点で寄付と投資で出しやすいほうを選んでもらえることは大きいですね。 ひとつの地域の中にその選択肢があるということは、なかなかない気がします。金融機関との連携というのは、例えば、投資したプレイヤーに一緒に協調融資をしませんかと提案するなどでしょうか?
比屋根:そうですね。沖縄県内のほぼ全ての金融機関との連携ができているので、きちんと情報共有をする中で融資を相談したり、あるいは沖縄振興開発金融公庫は創業間もない企業にも出資ができるので、協調で出資していくことも今後出てくるかなと思います。
7つの財源をプレイヤーに合わせて最適に組み合わせながら、総合的な視点で必要な支援を獲得していくことが求められる(出典:日本ファンドレイジング協会)
久保:営利と非営利、寄付と投資など、幅広い領域をカバーする専門性やネットワークを持った支援者は全国的にも稀だと思います。多くの支援機関にとって「なりたいけど、難しい」と感じる部分だと思いますが、うむさんラボは、なぜそのような役割を担うことができているのでしょうか?
比屋根:知識に関しては、やりながら、必要だから身につけていったというのが現実的な話かと思います。県内でのネットワークは、私だけじゃなくてチームのメンバーも一緒に、何年にもわたって関係性を築いてきている部分になります。最近では、沖縄のスタートアップエコシステムができてきたので、全体での一体感みたいなものが出てきたなという気がしています。それは間違いなく追い風になっていると思います。
久保:専門家の方同士を、うむさんラボ自身がハブとなって繋ぎながら、エコシステム作っているということですね。
比屋根:あと、去年は勉強会を年3回やっているので、そのときに金融機関にも声をかけたり、そういうところでリアルに繋がる、情報を伝え合う場をつくることを意識しています。コミュニティを作るというのはそういうことですね。
久保:ファンドレイザーは、お金を介して出し手と受け手を繋ぐ役割も担っています。勉強会のお話もそうですが、資金の出し手とうむさんラボの間で、あるいは出し手と受け手の間でどのようなコミュニケーションを意識されていますか?
比屋根:カリーファンドはまだ1年目ですが、出資者と投資先の皆さんとのコミュニケーションの場をオンライン・オフラインで作っています。そうすると「うちの会社でこういうプロジェクトを一緒にやってみよう!」ということが自然と起きたりします。
投資先企業から出資者への報告会の様子(報告会のあとに懇親会も行われる)
比屋根:他のファンドの方からは、「そこまでやるの?」と言われることもあります。通常、出資者は出したら出しっぱなし、年1回レポートを受け取る程度なのですが、カリーファンドでは、「コミュニティにしていこう」ということで、出資者にも勉強会に参加してもらったり、飲み会を行ったりして、関係性を深めることを意識しています。特に地域でやるには、そういう場が大事なのではないかと思います。
久保:VCを含めてそこまでやっているところをなかなか見たことないのですが、なぜコミュニティにしてくことが大事なのでしょうか?
比屋根:その方が楽しいじゃないですか(笑) お金だけの関係ではないと思っていますし、同じ未来をより良くしていこうという仲間だと思うんですよね。仲間なのでコミュニケーションをたくさん取って、同じ方向を向いているという「共感の確認」をすることで熱量も高まりますし、一体感も出ます。そしたら「次こんなことやるよ!」というときに、また一緒にやろうとなると思います。計算してやっているというより、単純にその方が楽しいから、一緒にやっていくのが楽しいから、みんなと仲良くなりたいという感じですね。
久保:確かに出資者もそのほうがお金を出していて楽しいですよね。資金の受け手も投資家と繋がって、その人の想いに触れると嬉しいですよね。なるほど、ありがとうございます。
久保:沖縄でどんどん変化が生まれてきていると思うのですが、比屋根さんが起業された頃と今とで、沖縄の社会の中に変化のようなものは感じていますか?
比屋根:今はまだ、支援する側とされる側のコミュニティの密度や熱量が上がってきた段階だと思います。スタートラインに立って、まだ1、2年というところです。こういうコミュニティのあり方って大事だよねとか、沖縄らしいねという感覚が共有され始めてきたのが今の状況だと思います。さらに、そこから数年すると、起業家が生み出したインパクトが見える化されてくるわけですが、それにはさらに3年5年10年という時間がかかると思います。
久保:そうですね。本当にインパクトが出てきたとか、社会課題が良くなったとかは、10年単位の長いスパンで見ていくことが求められるなと今聞いていて感じました。一方で、通常のファイナンスでは、短い期間で高い利回りを求められることが多い中で、なぜうむさんラボでは長期的な視点に立って、皆で支えていくことができるのでしょうか?
比屋根:今ないものを作っていこうという、しかも一つのプロダクトではなくて、社会の仕組みそのものを変えていこうというときに、やはり短期的な目線では難しいと思います。そもそも長期的にならざるを得ない。ただ、その中で、一つの企業が急速に伸びていくことで、時間軸を短縮するような成功事例は生まれるかもしれません。でも、それは起業家の役割で、私たちはインフラを作り、社会そのもののアップデートしていく役割なので、そもそも時間軸は長く持ってます。
久保:インパクトマネジメントを県内企業に広げていこうとされていることの意味も、長い視座を共有することにあるのでしょうか?
比屋根:企業だけでなくて、沖縄の経済活動の中にインパクト測定・マネジメント(IMM)という考え方をしみ込ませていきたいと考えています。補助事業も、助成金も、クラウドファンディングも、それがどんなインパクトをどれだけ出そうとして、実際どのようなインパクトに繋がったのかという視点を持って、意志をもつお金の出し方・受け方をしっかりやっていきたいと思っています。小さな事例をつくり、それをいいねと言ってくれる人が増えて、そこに対するお金の出し方を変えていこうというのは、長く時間のかかる取り組みです。
でも、いい事例ができると、世の中の流れも早く変化するのではないかなと思っています。そのために、中小企業庁のローカル・ゼブラの実証事業で今やらせてもらっているのが沖縄の課題マップを作る「沖縄みらい地図アクション」という事業です。まずは貧困と起業に関する領域の課題マップを作ろうとしています。そこにどんな課題があり、どういう風に繋がりあって構造化されているのか、その構造の中にどういったリソースがあり、どこでどう繋がっているのかということが見える化されたとき、この課題はもっと民間の力で何とかできるんじゃないかとか、ここは補助事業を入れてブレークさせた方がいいんじゃないかとか、共通の対話ができるようなってくると思います。
久保:セクターや法人格による分断の話が最初にあったかと思いますが、NPOとスタートアップのコミュニティが交わる仕組みが整っていないことや、接続するプラットフォームによって受けられる支援が偏ってしまうことが課題だと感じています。うむさんラボでは、そこを両方カバーして対話しながら、必要な支援を本当に必要としている人に届ける仕組みができているのはなぜでしょうか?仲間とそういうことをやりたいローカルプレイヤーは何から始めればいいですか?
比屋根:そもそも私自身が沖縄を良くしたいという広い視点で見ているということがあります。企業経営の傍らで、NPOが取り組んでいる課題にも関心があり、何か一緒にやっていきたいと思っています。行政と話していても、もう少し効率的な補助金の出し方があるんじゃないかなと思ったり。それぞれで考えていることを、うむさんラボという場で繋げていこうという意志を持ってやっているだけかもしれません。
久保:うむさんラボのコミュニティには、スタートアップとNPOの関係者が両方いて、交流していることがすごいなといつも思っています。
比屋根:リアルで年に3、4回交流する場を作っていたことが、結果としてセクターを超えた関係性作りになってきたんだろうと思いますね。あとは、やはり沖縄はそういったことをやりやすい場所だと思います。お互いを知っているよといった感じで、絶対的な距離感の近さがあると思います。
「裸のこころで ハグをしようよ」をテーマに開催されたうむラボの集い
久保:これから取り組んでいかれる「県民ファンド」のお話を最後に聞かせていただけますか?
比屋根:「株式会社沖縄県」というコンセプトを掲げて、小さく実践を重ねてきましたが、いよいよ今年からリアルに県民や沖縄のファン・応援団が集まる場を作っていきます。沖縄が良くなっていくんだという実感や、セクターを超えた繋がりにはこんな可能性があるんだとか、こんな起業家がいるなら応援したいとか、そういうリアルな体感を生み出すカンファレンス&フェスティバルを2025年2月から「ミチシルベ」いう名前で毎年開催していきます。
「ミチシルベ2025」特設サイト:https://michishirube.okinawa/
比屋根:スタートアップや観光といった領域を超えて、この1年で沖縄がトライしてきたことや来年に向けてやっていくことを伝え、セクターを超えた大きな繋がりを生み出すことで、沖縄の状況はまた一つステージが上がっていくと感じています。
その流れを上手く活用しながら「県民ファンド」というものを立ち上げていきたいと考えています。これは県民が一人毎月100円、年間1,200円寄付をする仕組みです。100円であれば高校生でも出せると思うので、それを基金にしてインパクト投資をして、経済的リターンと社会的インパクトの両方を生み出していきます。そして経済的リターンが出たら基金に戻し、次の起業家に投資をしていくという、沖縄で県民の意志を持った新しい財源を作っていきたいと考えています。多様な金融の一つとして、県民の意志を持って、県民一人ひとりが月100円という単位で未来に貢献していく文化を作っていきたいと思っています。
久保:このファンドができたら、まさに日本初の事例になりますね。本当に沖縄から社会を変えていくことにつながると思います。
うむさんラボのように多様な財源を駆使して地域にインパクトを生み出す人材がローカルからどんどん生まれて、日本社会の課題解決を推進していくような仕組みを作っていきたいと思います。今日は、貴重なお話を聞かせていただき、ありがとうございました!
※対面イベントのチケット販売は、2025年1月8日(水)に終了しました。対面イベント当日のセッションのライブ配信・アーカイブ視聴は予定されていません。
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