投稿日:2025年1月14日

寄付、投資、補助金、融資。多様な財源をつなぎ地域にインパクトを生み出すために必要なスキルとは?【前編】

沖縄で今、多様な財源を組み合わせて、地域により大きなインパクトを生み出そうという挑戦が始まっています。2023年に沖縄初のインパクトファンドを立ち上げた株式会社うむさんラボ 代表取締役CEOの比屋根隆氏。「株式会社沖縄県」のコンセプトを掲げ、投資だけでなく、補助金、寄付、融資などあらゆる財源を駆使して、セクターや世代の分断、資金の出し手と受け手の壁を超えていこうとする挑戦の日々に前・後編にわたって迫ります。

(聞き手:認定NPO法人日本ファンドレイジング協会 事業推進ディレクター 久保 匠)

比屋根 隆氏(株式会社うむさんラボ 代表取締役CEO)

株式会社うむさんラボ 代表取締役CEO。沖縄国際大学在学中にIT企業を起業する。その後独立し、1998年に株式会社レキサスを設立。2008年、沖縄の学生をシリコンバレーに派遣する Ryukyufrogs を創立するなど人材育成事業にも尽力している。

セクターの分断を乗り越えるための「株式会社沖縄県」

久保:ファンドレイジングとひと言で言っても、さまざまな財源があり、財源ごとに特徴が異なります。特に地域におけるファンドレイジングでは、一つの財源を獲得するだけではなく、他の財源と組み合わせていくことが大事なポイントになってくると思います。
うむさんラボのように、行政や金融機関と連携し、寄付も投資もと、まさに営利・非営利を横断しながら、地域社会にインパクトを創出するための資金循環の仕組みを創造しているプレイヤーは全国的にも少ないのではないかと思い、今回お話を聞かせていただきました。まずは、株式会社うむさんラボの取り組みやコンセプトとして掲げていらっしゃる「株式会社沖縄県」についてお話を聞かせてください。

比屋根:うむさんラボは、沖縄で主に社会起業家を発掘・育成するビジネスを行っています。同時に、起業家が一人で成長していくのは難しいので、沖縄県全体で起業家、あるいは社会課題を解決するエコシステムやコミュニティを作ろうという事業も行っています。その中で、2023年7月に立ち上げたのが「カリーインパクト&イノベーションファンド(以下 カリーファンド)」です。

このインパクトファンドは、ビジネスの仕組みを通じて社会課題を解決しようとする社会起業家やスタートアップに投資をすることで、社会課題の解決や社会価値の向上・創造(=インパクト)と経済的リターンの両立を目指しています。2024年には、このファンドからすでに4社に出資しています。

比屋根:私自身が21歳のときに起業して、その後起業家支援をしたり、補助金を活用させてもらい沖縄で活動する中で、これは行政がやることだ、これは補助金でやればいい、これはNPOがやっているよねといった具合に沖縄の中でセクターが分断していることを感じていました。

企業もまずは自社のことというのが当たり前の中で、これから新しい経済や社会の形が求められていくときに、個々の会社や、一人ひとりも大事ですが、「自律共創でともに作っていく」というマインドを県内企業や県内のリーダー、あるいは県民一人ひとりが持ち、その精神で新しい沖縄を作っていこうよというような状態を作りたい。そのためにも、セクターの枠、企業の枠、世代の枠を超えて、県民を巻き込んで一緒に作っていこうという流れを作りたいという想いを「株式会社沖縄県」というコンセプトで表現しました。

地域でインパクトファンドを作るということ

久保:地域の中でインパクトファンドを作るのは簡単なことではないと思います。社会起業家の発掘やアクセラレーション、ファンド組成に向けた出資者集めなどを地域密着で行うことは難易度が高く、多くの人がやりたくてもできないというのが現状ではないかと感じます。なぜそれを始めようと思われ、なぜ沖縄においてそれができているのかを教えていただけますか?

聞き手:久保 匠(認定NPO法人日本ファンドレイジング協会 事業推進ディレクター)

大学卒業後、福祉系NPO法人に就職し、障害者支援に携わる。2018年4月より日本ファンドレイジング協会に参画し、社会課題解決に取り組む法人のファンドレイジング戦略策定支援を担当する。その後独立し、ソーシャルビジネス、インパクトスタートアップの資金調達、事業創造、社会的インパクトマネジメント、クロスセクター連携創出を行っている。また、融資、助成金資金提供業務、Social Impact BondやPay for Successを活用した成果連動型の公民連携事業にも取り組む。株式会社すくらむ 代表取締役CEO。
比屋根: 私が起業した30年前は、スタートアップという言葉すらまだ一般的ではない時代でした。30年が経って、起業を通じて世の中を変えていこうとする若者が沖縄で増えてきていて、それを応援する人や企業も増えてきたことは間違いなく土台になっていると思います。私が、うむさんラボとは別の会社で2008年に立ち上げた沖縄の次世代の起業家を発掘するプログラム「Ryukyufrogs(琉球frogs)」も、100名以上の卒業生を輩出しています。


沖縄の学生を対象とした次世代リーダーの発掘・育成プログラム。選抜された学生が、自分が生涯をかけて解決したい社会課題を見つけ、それを解決するサービスを生み出す

比屋根:徐々に沖縄の中でも、起業やスタートアップという素地ができてきた中で、数年前、沖縄県が県としてもスタートアップを盛り上げていくために一定の予算を投じることになりました。今の沖縄は、あちらこちらに起業家支援プログラムがあり、起業家を目指す人がいて、本当に多様なセクターの人がスタートアップエコシステムを盛り上げる土台ができています。

スタートアップの素地ができてきた中で、私たちがやりたいことは、いわゆるソーシャル文脈での起業家を増やしていくことです。県の大きな流れに乗りながら、社会起業家を増やしていこうと、ボーダレス・ジャパン代表の田口一成さんの力を借りて、2019年からアカデミーをスタートしました。毎年アカデミーを続けてきて起業家の芽がたくさん出てきた中で、いよいよそこに対して資金を投じようというときに、インパクトファンドが沖縄に合っているのではないかということで立ち上げるタイミングが来ました。

28社が出資した背景にある15年の信頼関係

久保:社会的インパクトの創出と、事業的成長の両立を理念に掲げているのがインパクトファンドの特徴ですが、ファンドレイズを行う際に大切にしたことはありますか?

比屋根:沖縄でインパクトファンドを立ち上げるにあたって、私としては県内企業にインパクトファンドの価値を理解し、共感してもらった上で、経済的リターンを求めるだけではなく、一緒に沖縄らしいインパクトを作るというプロセスに入っていただきたいと考えました。企業でもこれからはインパクト経営が必要になってくると思うので、インパクトファンドに出資し起業家を応援するプロセスを通じて、インパクトマネジメントを学びながら、自社の経営にも生かしてもらいたいという意図をもって県内の企業にお声がけさせていただきました。

琉球frogsを立ち上げた15、16年前から、補助金だけに頼らず民間資金で子どもの未来に教育投資をしようということで、多いときで70社の企業に協賛金を出してもらってきました。何もない中でインパクトファンドを立ち上げるのは難しかったと思うのですが、15年以上かけて県内企業の皆さんと、志ベースの信頼関係を作ってきたことがあったからこそ、カリーファンドを立ち上げることができたんじゃないかなと今振り返ってみて思います。


沖縄県内外28の企業や個人から総額1億7500万円を調達したカリーファンド(2024年2月、出資者も参加して行われた記者発表の模様)

久保:スタートアップ投資の場合、上場や売却といった分かりやすいゴールがあるわけですが、インパクト投資の場合はそのようなファイナンシャルリターンと合わせて、ソーシャルリターンの設計を行うことが重要になります。ですが、日本国内ではソーシャルリターンに価値を見出して投資を行う文化は、まだまだ発展途上だと思います。うむさんラボの場合は、社会起業家を応援する文化を沖縄で作ってきた15年の積み重ねがあったからこそ、今、花開いたということなんですね。

比屋根:もともとは2017年にインパクトファンドを作りたいと動いていたのですが、そのときはやっぱりまだ早いよねということで、結局立ち上げられたのは2023年でした。それだけの期間、種まきもしてきたということですね。今やっとスタートラインに立ったという感覚です。(後編につづく)

(後編の内容)
・補助金、投資、融資、寄付。多様な金融をつなげる
・目に見えるインパクトが生まれるまで10年かかる
・「沖縄県民の意志」をもった財源をつくる など

比屋根 隆さんが登壇する、FRJ2025注目のセッションはこちら!
セッション
地域内資金循環2.0!多様な資金で加速するローカルインパクト最新事例
セッション日時2025年1月18(土) 17:15-18:25
スピーカー
古里 圭史氏(株式会社リトルパーク 代表)
比屋根 隆氏(株式会社うむさんラボ 代表取締役CEO)
掛川 昌子氏(中小企業庁 創業・新事業促進室長)
久保 匠(日本ファンドレイジング協会 法人連携推進パートナー)ファシリテーター
FRJ2025
日本最大のファンドレイジングの祭典
FRJ2025〜今、必要とされるファンドレイジングのすべてを〜

対面イベント日時2025年1月18日(土) 9:30-20:00
会場TOC有明
オンデマンド視聴期間2024年12月20日(金)〜2025年2月28日(金)

※対面イベントのチケット販売は、2025年1月8日(水)に終了しました。対面イベント当日のセッションのライブ配信・アーカイブ視聴は予定されていません。

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