投稿日:2021年7月30日

情報(データ)の活用で加速する日本のファンドレイジング|特集・世界のファンドレイジングの今〜AFP ICON2021からの学び

相澤 順也Junya Aizawa
認定ファンドレイザー
株式会社ファンドレックス

米国で毎年開催される世界最大のファンドレイジング大会「AFP ICON」、今年6月にオンラインで開催されたAFP ICON2021に参加した5人のファンドレイザーが、それぞれの視点で世界のファンドレイジングの今を伝えます。

情報(データ)の活用で加速する日本のファンドレイジング
株式会社ファンドレックス 相澤 順也(認定ファンドレイザー)


世界中が新型コロナウィルス感染症の猛威に晒された2020年、ソーシャルセクターはどう影響を受けたのか。AFP ICONでも様々なセッションで触れられていました。そのなかで驚いたことは、講師の話には「情報(データ)」が根底にあること。つまり自らの「経験」に客観的な「情報(データ)」を融合させていたことでした。

実はこの「情報(データ)」に基づいた話は、パンデミックをテーマにしたセッションに限ったものではありません。AFPで公開されたセッションは約110コマあり、そのうちの実に1割にあたる11コマが「情報(データ)」を扱ったセッションでした(タイトルなどから推測できるものだけでもこの数でした)。

ここで疑問が浮かびます。なぜ「情報(データ)」に基づいたファンドレイジングがこれほど浸透しているのか?

ソーシャルセクター向けの「情報(データ)」を調査・活用する仕組み

その一端は『2020年のファンドレイジング統計』というセッションで垣間見えました。内容は、ソーシャルセクター全体の成長率(金額や人数の前年比)など客観的かつ多様な「情報(データ)」に基づき、コロナ禍での活動をディスカッション形式で考察し「洞察」を得るものでした。

例えば、寄付者数の中央値は2019年よりも減少している(図表1を参照)一方で、新規ドナーの獲得率が増加しているという「情報(データ)」があります。これを基にした議論では、新規層が伸びてきている裏には、パンデミック前に団体としてオンラインコミュニケーションの準備をしてきたかが鍵である、といった「洞察」が出てきました。

▼図表1「情報(データ)」があることで洞察が得られる

このように一つ一つの洞察も興味深かったのですが、特に注目したいのは「情報(データ)」を調査・分析した「ファンドレイジング・エフェクティブネス・プロジェクト(The Fundraising Effectiveness Project:通称「FEP」)」の存在でした。

「FEP」とは、2006年にAFPを中心に、データベース提供企業やコンサルティング企業が加わった協働プロジェクトとして発足し、ファンドレイジングの有効性に関する調査・研修が行われています。例えば、2万団体のデータをもとに四半期ごとの寄付者の人数・金額や継続率などを公表するとともに、「フィットネス・テスト」というツールを通じて各団体は自分たちの数字(継続率など)と比較ができるようにしています。また各指標の統一基準を定めた「用語集」を作成し、セクター全体の共通認識をはかっています。

▼ 図表2「FEP」の業務範囲

このように、業界をあげて「情報(データ)」をファンドレイジングに活かそうという動きが海外にはあります。

さらに、別のセッション『支援者コミュニケーションに役立つファンドレイジング・データ』では、「FEP」のレポートを含めて、なんと17にも及ぶソーシャルセクター専門の調査レポートが紹介されていました。日本でも馴染みのあるsalesforce社が公開している非営利向けレポート(英語のみ)もあがっていました。こう見ると、「情報(データ)」を活用する動きはますます加速し業界全体に広がっている、そんな印象を受けざるを得ませんでした。

▼ 図表3 ソーシャルセクター向けの「情報(データ)」がまとめられたレポート

団体が活用するデータにはマクロとミクロレベルで変わる

こうした動きと並行して、例えば『データを活用して大口寄付を効率化する方法』『文化・芸術団体によるデータに基づいた意思決定』といったように、「情報(データ)」の活用に触れたセッションも数多くありました。活用方法は、手法や業態によって変わってきますが、様々なセッションを見ると、おおよそ以下の論旨かと思います。

団体としては、「FEP」などの公開情報を基に自団体の概況を理解し、方針を見定めます。例えば、寄付者の人数や金額など、市場全体の増減に対して、自団体はどの程度かを比較し、優先事項などを考えます。

ただ、これだけでは戦略・施策レベルで、ファンドレイジングに活かし難い場面がでてきます。そこで、自団体でも情報を収集・分析します。例えば、文化・芸術系の団体であれば、来館者や来場者といったチケットを購入した人、そのなかで寄付した人がいます。団体は彼らについて調査・分析した上で具体的な施策を練ります。

ポイントは、目的や場面によって活用できる情報が変わることです。セクター全体の情報はマクロ的な視点で活用し、ミクロ的な視点が求められる施策レベルではより仔細な情報を活用します(実はAFP ICONでは、ミクロ的な情報を収集するための「ドナーリサーチ」に関するセッションも複数ありました)。

▼図表4 マクロとミクロ

このように「情報(データ)」を活用することで、個々の団体は質の高い施策を実施でき、組織を成長させています。今日では、こうした団体が数多くでてきてセクター全体として大きな飛躍に繋がっています。またこの背景には、「FEP」のように「情報(データ)」を収集・分析して展開する動きや、団体に寄り添って「情報(データ)」の活用を伴走支援する動きなどもあり、これらが有機的に組み合わさっています。

日本での可能性

海外のAFP ICONを見ていると、「情報(データ)」の活用が当然として話されており、その裏には調査・活用に取り組む人達がたくさんいること、そして彼らは多大な時間と労力をかけてファンドレイジングの発展に真摯に向き合い、邁進していることが分かってきました。

私は、「情報(データ)」の活用は、日本のファンドレイジングが加速する一つの可能性だと捉えています。AFP ICONを通じて、この可能性を切り開いていきたいと改めて強く実感しました。

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相澤 順也 Junya Aizawa

認定ファンドレイザー
株式会社ファンドレックス

長野県出身。大学卒業後、出版社を経て2012年にファンドレックスへ入社。主にファンドレイジングを中心とした、非営利組織・大学・文化芸術施設などソーシャルセクター全般におけるコンサルティング業務に従事。実現性の極めて高いファンドレイジング戦略の策定、また具体的な成果を生み出すために施策の実行までをサポートする伴走支援を得意としている。大規模案件ではチームマネージャーとして関わることも多い。近年は、データ分析がファンドレイジングに与える効果を最大化する手法「データ・ドリブン・ファンドレイジング」に力を入れている。

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