投稿日:2024年4月23日

国際協力NGOのファンドレイジングに求められる「寄付倫理」

世界各地で相次ぐ紛争や災害を背景として国境を越えた支援のニーズが高まる一方で、日本の国際協力NGOの多くが資金不足を課題として挙げています。「特集・国際協力NGOのファンドレイジング〜“遠く”の社会課題に関心と参加を生み出す方法〜その最前線を探る」と題して、国際協力NGOのファンドレイジングの第一線で活躍する4人のファンドレイザーに対談形式でお話をお聞きします。

第2回のテーマは「寄付倫理」です。現場との距離の遠さという特有の背景がある国際協力NGOのファンドレイジングにおいて、受益者の尊厳をどのように考えられるべきか、実践の現場にそのヒントを探ります。

(聞き手は認定NPO法人日本ファンドレイジング協会 国際協力エコシステムプロジェクト リーダー・井川定一さん)

【特集】国際協力NGOのファンドレイジング〜“遠く”の社会課題に関心と参加を生み出す方法〜その最前線を探る

第1回「国際協力NGOのファンドレイザーに求められる「伝える力」
第2回「国際協力NGOのファンドレイジングに求められる「寄付倫理」」
第3回「国際協力NGOのファンドレイジング、カリスマ頼みはダメですか?


「かわいそうな人たち」というステレオタイプの功罪

五十嵐豪さん(以下、五十嵐):ファンドレイジングを行っていく上で、寄付倫理という課題もありますよね。特に、国際協力の文脈では、受益者との距離の遠さゆえに、その人たちのプライバシーや人権が後回しにされがちです。

鈴木亜香里さん(以下、鈴木):寄付倫理というのは、受益者の同意なしに写真を使ってはいけないといったことですか?

五十嵐:いくつかのレベルがありますが、受益者のコンセンサスなしに写真を使用することも寄付倫理に関する問題の一つです。もう一つは、「かわいそうな途上国の子どもたち」といったステレオタイプの絵をつくることによって、「助けてあげなければいけない、弱い人たち」といった見方を固定化させることも倫理的に問題があるとされています。海外ではすでにガイドラインが定められており、そういった見方を助長しない形でのファンドレイジングが求められています。たとえ、今それで寄付が集まったとしても、中長期的に見たときに、本当に現地の人たちの尊厳を尊重したメッセージになっているのかということをやはり考えていかなければいけないと思います。

井川定一さん(以下、井川):特にこの辺りの流れは2020年ぐらいか出てきましたね。Black Lives Matterを発端とするアメリカの動きや、イギリスでも植民地主義の反省などを背景として広がりを見せています。イギリスのチャリティー番組において、著名人が先ほど話にあったようなステレオタイプの写真を撮ったことが大きく批判されたこともありました。ファンドレイザーは、そういうステレオタイプのイメージを変えていくことを同時にやっていかなければいけないということもすごく大事な視点ですね。日本ではなかなか寄付倫理の話にならないですよね?

五十嵐:ファンドレイザーの評価軸をどこに置くのかという問題にも関わってくると思いますが、やはり「寄付を集めるためだったら」という前提があるんだと思います。寄付倫理の話をするとよく、本当にかわいそうな人たちがいたときに、真実を映すのはよくないのかという話になります。これは、決して明確な答えがある議論ではないのですが、もう少し立ち位置を整理する必要がある気がしています。われわれはメディアではないわけで、現場の課題を抽出して寄付を求めていくための啓発であったとしても、真実をそのまま映すのがいいのか、映すにしても支援対象者の尊厳を守らなければいけない部分があるのではないかということをやはり考えていかなければいけないと感じています。

「それで寄付が集まるのか」という問いに対して

井川:戦闘開始直後のウクライナやガザのようなメディアで取り上げられるところには寄付が集まりやすくて、それ以外のところには全然寄付が集まらないという問題もありますよね。支援対象者の尊厳に配慮した写真を使った結果、ますます寄付が集まりにくい問題を助長することにならないでしょうか?

五十嵐:まさに、その点は倫理の問題の延長線上だと思うのですが、距離のある遠くの人たちの課題にどう寄付者を巻き込んでいけるかという企画力やプレゼン力になってくると思います。国際協力の分野では現場に足を運んでもらい、自分ごとにしてもらうといったことが簡単にはできないじゃないですか?その中で、ただ寄付をしてくださいと言うのではなく、どこまで自分ごとに引きつけてもらい、参加型で巻き込んでいけるかという力が問われてくるのではないかと思います。

井川:なるほど、そこはつながってくるところなのですね。大西さんはFace to Faceのファンドレイジングを行う中で、普段どのように考えていますか?

大西冬馬さん(以下、大西):そうですね、写真の選定に関して言うと、それが嘘の写真ではないということが大前提になりますが、寄付者にとって分かりやすいことが一番だと思っています。ひと言で寄付者と言っても、パッション寄りの人もいれば、ロジック寄りの人もいて、人によって響く写真も違ってくると思うんです。支援が行き届いて難民の人たちが自立しましたというポジティブなメッセージを伝えた方が、自分の寄付もそういう風に使われていくんだという実感をもってもらえる場合もあります。僕は、一般の人たちがどう感じるかをずっと考えているので、この人にはどうアピールをするのが一番心を動かしていただける可能性が高いかを考えて、お見せする内容も変えたりしています。

井川:最初に会ったときにその人がパッション寄りか、ロジック寄りの人かということを、どういう風に見分けているのですか?

大西:その人がどれくらい関心持ってくれているかや、どれくらい知識がありそうかによってきますね。全体的なことをまずお伝えしなきゃいけないなとか、ある程度現地の支援内容とかも知ってくださっているなとかによって、話のもっていき方も変わってきます。

鈴木:地球市民の会は、基本的にポジティブな写真を使うと決めています。団体のテーマが「与え合い、ともに学ぶ」なので、受益者との間に上下関係は絶対になく、むしろ彼らのほうがすごいと思うこともあります。災害等の緊急支援では被害状況がわかりやすい写真を使うこともありますが、開発支援の文脈ではポジティブな写真を使うことが基本になっています

五十嵐:寄付をどれだけ多く集めたかがファンドレイザーの評価になるのであれば、極端な話、寄付金が集まりすい領域でみんながファンドレイジングをすればいいわけです。たとえ集まりづらそうなテーマであっても、われわれは社会課題に取り組んでいるんだというところを評価してもらいたいし、そういう価値観を持ったファンドレイザーでなければいけない。理想論かもしれませんがそう思います。

井川:ファンドレイザーは寄付を集めながら、南北問題の存在に気づかせたり、受益者との対等な関係をつくっていく役割を担っているということですね。

【特集】国際協力NGOのファンドレイジング〜“遠く”の社会課題に関心と参加を生み出す方法〜その最前線を探る

第1回「国際協力NGOのファンドレイザーに求められる「伝える力」
第2回「国際協力NGOのファンドレイジングに求められる「寄付倫理」
第3回「国際協力NGOのファンドレイジング、カリスマ頼みはダメですか?

※本記事は、公益財団法人日本国際協力財団の協力により、 国際協力NGOのファンドレイジングに焦点を当てた戦略ロードマップの策定プロジェクト(詳細はこちら)の一環として実施したものです。

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