投稿日:2015年3月13日

「次のステージ」へ向けた日本のイノベーション ~2020年に向けて、おこすこと、おきること

鵜尾 雅隆Masataka Uo
認定ファンドレイザー
日本ファンドレイジング協会 代表理事

2009年に発足した日本ファンドレイジング協会は、50年の歴史のある米国ファンドレイジング協会を始め、世界中のファンドレイジング協会や様々なファンドレイジングを支援する仕組みの研究を踏まえて、どの国にも無い「日本モデルでの善意の資金循環を生み出すイノベーション」を実現しようとしています。

 

第一ステージでのイノベーション~プロのファンドレイザーを育成する仕組みを創る
 
日本で善意の資金(寄付、そして共感に基づく社会課題解決への融資とか投資もはいります。)10兆円時代を実現するために、まず、何をすべきか。協会発足前に第一ステージのチャレンジとして最優先に据えたのは「プロのファンドレイザーを育てる仕組みを創る」ということです。

社会貢献したい人が7割近くなっている時代ですから、善意の資金の流れが加速化される温度感は確実に高まってきていました。では、真っ先に資金が流れる仕掛け自体を生み出すということもありえたのですが、それ以上に真っ先に取り組むべき問題が、「そもそも、寄付などの支援を受けるNPO側のコミュニケーション力が低い」ことの課題を解決することだと考えました。

折角思い切って支援したのに、感謝の言葉もない、みたいな、支援の「失敗体験」をする人が増えると、結果としてこの空気は冷めてしまう。ここを「成功体験」のオンパレードにする仕組みが必要だったんです。そこで、「ファンドレイジング日本」というファンドレイジングの成功事例や新しい発想の見本市ともいえるイベントを開催することにしました。2日間、成功事例やワクワクする発想に洪水のように触れてもらう。そのことが「私も何かやってみたい!」というモチベーションに繋がる。この場が日本には必要だと思いました。そして、その次に生み出されたのが「認定ファンドレイザー」という資格制度。「私もやってみたい!」を成功に導くために体系的にファンドレイジングを学ぶ研修メカニズムと資格体系を創りました。しかもこの資格制度は世界最大のファンドレイザー認証機関であるCFRE(Certified Fundraising Executives)Internationalと相互認証される仕組みになっています。更には東京で年1回開催される大会以外でも地域レベルでのファンドレイザーの交流が進む仕掛けとして、全国にチャプター(支部)を発足する動きも始めました。

イノベーティブ原稿スライド (1)

図1 ファンドレイジング協会が5年間で実現した「10の日本初」

 

第二ステージのイノベーション~「日本を動かす」資金の流れを生み出す
 
私たちは、この5年間でたくさんの経験を得て、同時にファンドレイザーが育ち、輝く仕組みの骨格を創り上げることができました。まだまだこれから深めて、広げていくことが必要ですが、これからは、「日本社会を動かす」ステージにいよいよ移ります。
これは、ファンドレイザーでどんどん主役が生まれて、輝くステージであり、
業界団体や様々なプレイヤーと連携して、新しい資金循環の仕組みが次々と生まれるステージです。

これからのイノベーションをまとめたのが次の図です。

イノベーティブ原稿スライド 2
 
図 寄付文化の革新者たちとのチャレンジ
 
主なところをご説明しますと、下記のとおりです。
 
様々な業界との連携による寄付促進
ソフトバンクさんの「かざして募金」のように生活者との接点を持つ様々な業界と連携して新しい寄付のメカニズムを生み出すことを頑張りたいと思います。個々の企業との連携は個々のNPOさんが進められると思いますので、私たちは、もう少し「インフラ(基盤)」的なメカニズム、つまり、「誰でも(どの団体でも)使えるような仕組み」を様々な業界と生み出したいと思っています。

休眠預金の活用
そして、これから全国で生まれる様々な社会的イノベーションの「原資」を提供するためにも、最初に重要なのが休眠預金の社会的活用です。毎年800億円にのぼる「休眠預金」。今は銀行の利益に計上されていますが、これを英国、韓国などでは社会的課題解決のための資金として活用しています。日本でもこの活用を実現するため、当協会も発足に携わって休眠口座活用国民会議が立ち上り、2014年4月には超党派の議連も発足しました。この資金は、東京にある新設財団が個々の事業の支援先(助成、融資、投資など)を決定するのではなく、地域のコミュニティファンドなどの「資金の受け皿」団体に配分して、それぞれの地域ニーズにあわせて活かしていただく、「卸売業」的な資金として活用できる状況の実現を目指しています。

社会投資市場ロードマップ
800億円(実際に活用できるのは将来の払い戻し請求の可能性のある分を除いた500億円くらいですが)といっても、ばらまいてしまっては大きな変化は生まれませんし、これに依存するNPOばかりになっても困ります。そこで必要なのが、「その後」のロードマップだと思っています。そのため、ソーシャルファイナンスの最前線で活躍する人たちに集まっていただき、「社会投資促進タスクフォース」を2014年3月に発足させ、同年10月に「社会投資市場形成に向けたロードマップ」を冊子として発表しました。休眠預金の活用から、コミュニティ財団のスケールアウト、社会認証の仕組みの創設や社会的インパクト評価の主流化、ソーシャルインパクト債やNPO債の発行など、必要な要素を一つ一つクリアしながら、社会投資証券取引所の創設までを視野に入れたロードマップです。

遺贈寄付推進
更には、日本の寄付の未来を考えるうえで、毎年37兆から65兆ともいわれている相続の寄付(遺贈)の促進は必要不可欠な取り組みです。
しかも、寄付白書の調査でも、40歳以上の日本人の20%以上の方は、お亡くなりになるときに資産があるなら一部は寄付してもいいと考えています。これは、大変大きな可能性です。このために遺贈推進の全国的なムーブメント(空気作り)と遺贈相談窓口の全国ネットワーク組織化、そして金融機関・弁護士会などの「顧客接点の相続相談のエキスパート」の方たちが、適切な「フィランソロピー・アドバイザー」としての役割を果たせる研修・協力体制の構築が必要です。これをこの数年でメカニズム化を実現したいと考えています。

寄付教育を全国全ての小中高校で実現
海外では「フィランソロピー教育」といわれるもので、日本的には「社会貢献教育」といった感じです。これって、最も重要なことは「(子どもたちが)多様な価値観に基づき、社会のためになることを考え、行動することを通じて、自分が社会のためにかけがえのない存在であることを知る」ということなんです。
つまり、人によって環境が大事だとか、難民だとか、いや、障害者福祉だとか、いいんです、違って。正解なんてない。でも、自分が社会の課題を解決すると考えたときに、どういったことにかかわっていきたいのかを「自分の価値観」で選択して、その意味について考えること、そしてその体験をきっかけにして、もっと興味が湧いて、更に行動するように持っていくということが大切です。しかし、実は日本の教育現場では、そうした寄付教育はされていないのが現状です。
私たちは、日本中のすべての学校で「子どもたちが楽しみながら」「自分の価値観で支援先を選んで」かつ「達成感を感じて」寄付の原体験をできるプログラムとして「寄付の教室」というプログラムを2011年から開始し、既に公立の小中高校を中心に70教室でプログラムを導入しています。全国の同じような取り組みをする団体と連携して、2015年には寄付教育オープンフォーラムを開催し、今後、全国化を進めていきます。

こうした「日本を動かす」仕組みを一緒に実現していくのが、既に1000名を超える会員の皆さんと510名に至った「ファンドレイザー」の皆さんだと思っています。

ここで、「これからのファンドレイザー」ということについて「次のステージ」でイノベーションを生み出そうとしていることについてお話しします。

「認定講師」制度の拡充
まずは、ファンドレイザーの中でもトップクラスの方たちを「認定講師」として、その方の研修や講演には選択研修ポイントが付与される仕組みを無料化したり、その認定講師がより分かり易く、輝く仕組みを強化していきたいと思います。認定講師になって全国から講演依頼がたくさん来た方もいます。准認定ファンドレイザー、認定ファンドレイザーの先に「認定講師」があり、全国から引っ張りだこになる、そういう人たちをこれからも生み出していきます。

地域チャプターの全国化
2014年度から開始したチャプター化ですが、まずは10拠点を目標に順次立ち上げていきたいと思います。その中で地域での新しい資金循環の仕掛けや、経験の共有が進んだり、認定ファンドレイザーの選択研修をチャプターで自由に開催できるような制度や、必修研修や試験の開催を行うなど、チャプターと連携して全国のファンドレイザーの交流を進めたいと思います。

ソリューションプロバイダーの紹介サイト
更に、NPO等向けに専門的なサービスを提供する法人や個人(コンサルタントやデータベース提供企業など)で、法人会員になっている企業について、その有償・無償サービスを一覧化してご紹介するサイトも立ち上げます。そうした中で、プロフェッショナルなサービスを活かしてファンドレイジングを改善させたいというニーズへの対応をするとともに、プロフェッショナルが輝くフィールドを広げます。

法人会員の特典の再設計
法人団体会員の特典として、ファンドレイザーの求人情報を一定数有資格者に対して配信できるサービスの提供を開始します。経験、意欲、能力のあるファンドレイザーがより希望にあう仕事を選択でき、かつ団体がいい人材を確保できるように仕組み化します。
推奨機関・協力団体の拡大
既に日本財団、愛知コミュニティ財団、佐賀未来創造基金など助成審査において、団体に認定・准認定ファンドレイザーがいるか否かを申告させるようにしている助成財団がでてきています。更に難民を助ける会のように、有資格者には手当を支給する団体も生まれています。こうした資格制度を組織的にバックアップしていただける推奨機関や協力団体を拡大していきたいと考えています。

個別ニーズに合わせたカスタマイズ研修パッケージの開発と展開
認定ファンドレイザーの研修体系は、「共感をマネジメントしながら、財源、組織、事業を成長させる」知的体系です。その体系は、ファンドレイザーのみならず、NPOの成長を実現したい全ての方にとって重要な知識です。今後、例えば新任理事向け研修パッケージの開発や、企業にいながらにして、新たな資金の流れを生み出すことに関心のある人向けの研修パッケージ、行政マン向けパッケージなど、様々なニーズに対応したパッケージを開発していきたいと思います。

オンライン・コミュニケーションメカニズムの強化
ファンドレイジングジャーナルのオンライン化、チャプター・ページをHP上に設けて発信していただく体制を構築すること、ソリューションプロバイダーの紹介サイトの構築、認定・准認定ファンドレイザーのコンタクト情報の有資格者間での共有など、上記の取り組みを加速化させるために、ホームページの抜本的なリニューアルを行います。
ファンドレイジングについて「日本で最も役に立つ情報やアイデア、きっかけがあるサイト」を目指したいと思います。

これから、私たちは前進を続けます。「やらずに後悔するより、やって後悔しろ」が私のモットーですが、日本の未来のために、失敗を恐れず、チャレンジをし続けたいと思います。

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Profileこの記事を書いた人

鵜尾 雅隆 Masataka Uo

認定ファンドレイザー
日本ファンドレイジング協会 代表理事

GSG 社会インパクト投資タスクフォース日本諮問委員会副委員長、全国レガシーギフト協会副理事長、非営利組織評価センター理事、JICAイノベーションアドバイザー、大学院大学至善館特任教授なども務める。JICA、外務省、NPOなどを経て2008年NPO向け戦略コンサルティング企業(株)ファンドレックス創業、2009年、課題解決先進国を目指して、社会のお金の流れを変えるため、日本ファンドレイジング協会を創設し、2012年から現職。認定ファンドレイザー資格の創設、アジア最大のファンドレイジングの祭典「ファンドレイジング日本」の開催や寄付白書・社会投資市場形成に向けたロードマップの発行、子供向けの社会貢献教育の全国展開など、寄付・社会的投資促進への取り組みなどを進める。
2004年米国ケース大学Mandel Center for Nonprofit Organizationsにて非営利組織修士取得。同年、インディアナ大学The Fundraising School修了。
著書に「寄付をしようと思ったら読む本(共著)」「ファンドレイジングが社会を変える」「NPO実践マネジメント入門(共著)」「Global Fundraising(共著)」「寄付白書(共著)」「社会投資市場形成に向けたロードマップ(共著)」「社会的インパクトとは何か(監訳)」などがある。

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