投稿日:2022年3月30日

意思ある車が社会を変える!日本カーシェアリング協会の石渡さんが寄付車から学んだこと

鈴木 大悟Daigo Suzuki
准認定ファンドレイザー
フリーランス・ファンドレイザー

石渡 賢大(いしわたり けんた)さん
1990年生まれ。千葉県茂原市出身。慶應義塾大学文学部を卒業後、あいおいニッセイ同和損保で勤務。日本カーシェアリング協会の活動が、高齢化社会、災害多発化時代に必要になると感じ、2017年に参画。寄付車を活用した災害支援、生活困窮世帯支援事業や、ファンドレイジングを担当。認定ファンドレイザー
「自由にあなたらしいNPOキャリアを描く」というテーマで、ワカモノ人材にインタビューする連載企画。
2人目は、一般社団法人日本カーシェアリング協会の石渡さんにお話を伺いました。

日本カーシェアリング協会は、2011年に設立された宮城県石巻市の一般社団法人です。
寄付された車を地域コミュニティの中でシェアする取り組みや、災害被災地への車の無償貸出支援など、「寄付⾞」を活⽤した新しい⽀え合いの仕組みを、石巻から全国に広げる活動を行っています。

石渡さんがファンドレイジングを通じて得た学びや、これからNPOで働きたいと考えている方へのメッセージを、根掘り葉掘りお聞きしました。

人の悩みや想いを傾聴し、大変な状況にある人を助けたい

昔から私は、自然と人の悩みや愚痴の聞き役に回ることが多かったです。
辛い状況にある方を、フラットな状態に戻すことが好きで、得意なのだと思います。

そんな私が、損害保険会社に興味を惹かれたのは、今思えば自然な流れでした。
しかし就職活動中に、あの東日本大震災が発生しました。


災害によって一瞬で日常が奪われます(写真は2018年西日本豪雨の様子)

津波で街が流される映像を目の当たりにして、自分も被災地のために行動したいと思い、損害保険会社に入社した後、宮城県への配属を希望しました。

しかし、年間1,000件以上の交通事故に対応する中で、交通事故は誰も幸せにならないことを痛感しました。

また、損害保険はお金がなければ加入することはできません。
本当に補償を必要としている方に、十分な補償を届けることができないジレンマを感じていました。

何より、希望どおり宮城県に配属されたものの、実際に被災地を支援できている訳ではなかったことに、当時の私はずっとモヤモヤとした感情を抱えていました。

そんな折に、「日本カーシェアリング協会」と「ファンドレイジング」の2つに出会いました。
2015年から日本カーシェアリング協会のボランティアに参加し始め、その過程で利害を超えて団体の活動に協力してくれる人たちの想いに触れました。

  • お客様と密にコミュニケーションを取ること
  • 個人に帰属する営業ではなく、チーム全体を応援してもらうこと

前職で得た経験が、そのまま現在のファンドレイジング業務にも活きていると思います。
営利企業のキャリアを経たからこそ、今はどちらの良さも理解することができます。

歪みなく、滑らかに回り、必要としている人に支援が届く。
そんな、関わる皆が満足する仕組みを作りたいと思っています。


いざ災害が発生したときに、迅速に支援を届けるために

思い出が詰まった”愛車”は、まさに寄付者の分身

日本カーシェアリング協会でのファンドレイジングを通じて、車の寄付を当たり前にしていきたいです。

車を活動の中心に据えたNPOは、他に類を見ません。
災害の時には、支援物資は全国から届く一方で、車が本当に不足します。
車を被災した方の日常生活の移動手段の確保のため、がれきを運搬するため、ボランティアさんを活動場所に輸送するためです。

日本カーシェアリング協会が行う被災地での車の無償貸出支援の活動は、被災した地域にとってなくてはならない存在となっています。

2017年の九州豪雨の際には、あるご高齢の方から、車を寄付していただきました。
それなりの値段で売れそうなくらい状態の良い車でしたので、「こんなに綺麗な車をなぜ寄付してくださったのですか?」と聞いてみたところ、「今まで皆さんのおかげで80余年、生きてくることができました。私はもう若い頃のように体を動かせないけれど、代わりに車が社会貢献をしてくれると思って」と、嬉しいお言葉をいただきました。


被災された方へ「寄付車」と「笑顔」を届けています

車の寄付にまつわるエピソードは、これだけではありません。

ある女性から、電話でお車の寄付のお問合せをいただいたのですが、寄付のご意思はあっても、声にまったく元気がありませんでした。

直接お会いして、よくよくお話を伺ってみると、実は亡くなった旦那様が生前に「日本カーシェアリング協会に車を寄付してほしい」と言い遺されていたそうです。
しかし、奥様にとっては、旦那様との思い出がたくさん詰まった車だったので、寄付をためらっていたのです。

「そういうことでしたら、気持ちの整理がつくまで寄付は大丈夫ですよ」とお声がけしたのですが、最終的に奥様は寄付を決断され、車を譲り受けました。

しばらく時間が経ってから、活動報告のご報告のために、寄付車が実際に使われている様子の写真を持参すると、本当に喜んでくださいました。
奥様の、「まるで旦那さんが動いて社会貢献しているみたい」という言葉は、今もずっと心に残っています。

まさに、寄付者の想いと人生が、自らの分身となって、寄付車に載っているのです。

スタッフの間でも寄付者の想いを共有することは、効果的なファンドレイジングを実行するために重要なことだと考えています。
先日、ちょうど600台目の車のご寄付をいただき、スタッフ全員で喜びを分かち合いました。


600台目の寄付車両と提供者様、感動もひとしお

中古車市場では「価値がない」と言われてしまうような車でも、まだまだ動きますし、それを必要としている方がたくさんいます。

そして大切にしていた車を使ってもらうことで喜んでくださる方も同じようにたくさんいるのです。

寄付車をどんどん循環させることで、困りごとを解消するだけでなく、ポジティブな寄付の経験をする人を増やしていけたらと思っています。

NPOキャリアは、行き止まりにならない!

私も、転職を決意した2017年まで、2年ほどキャリアについて悩んでいた時期がありました。

その突破口になったのが、「ファンドレイザー」という職業との出会いでした。
アメリカでは、ファンドレイザーは職業として一般的に認知されていることを知り、これからは日本でも、もっと求められるようになると思いました。


ファンドレイジング・スクールで、ファンドレイジングの実践力が身につきました

NPOに転職しても、キャリアは行き止まりになりません。
この業界には、利害関係を超えて様々なサポートをしてくださる方が大勢います。

それが理由か分かりませんが、NPOに関わり始めてから、人や機会に感謝することが増えた気がしています。

確かに、安易に「こちらへ来た方が良い」とは言えない世界ではあります。
それでも、日々の活動や応援いただく方たちとのコミュニケーションの中で、自身の成長や幸福感を感じることができると思います。

だからこそ、私はNPOキャリアへ挑戦する人を応援したいですし、「何とかなりますよ」と声を掛けたいです。

石渡さん、今日はありがとうございました!今後は「社会的に孤立しやすい生活困窮世帯向けの支援を広げたい」と語る石渡さんの姿は、冷静な雰囲気の中に宿る青い炎のようで、地域社会に変革の火が広がる未来が浮かびました。次回のワカモノ人材は、一般社団法人全日本ピアノ指導者協会の川野辺雪菜さんを予定しています。ぜひご期待ください。

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Profileこの記事を書いた人

鈴木 大悟 Daigo Suzuki

准認定ファンドレイザー
フリーランス・ファンドレイザー

1994年埼玉県生まれ。慶應義塾大学商学部卒。大手証券会社でリテール営業に従事し、2018年に認定NPO法人かものはしプロジェクトの社会人インターンとして、NPOキャリアをスタートする。法人や個人大口の寄付開拓を担当する中で、日々たくさんの支援者の方々と実際にお話しさせていただき、寄付は”未来の社会への応援”であることを強く実感する。2019年にフリーランス・ファンドレイザーとして独立し、Webメディア事業の運営をはじめ、寄付募集のLP及び記事の制作や、遺贈寄付獲得のための設計支援などが特長。自らも収入の1割を寄付し続けることを信条とし、寄付を通して幸せや豊かさを実感できる方を、一人でも多く増やすことを使命とする。

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