「実践者との対話と学びで見えてきたコレクティブ・インパクトの行間」、全4回でお送りしているジャーナルの最終回は「コレクティブ・インパクトの実現に必要なエッセンス:協働という鏡に映る自分」です。
過去3回にわたり、コレクティブ・インパクトの考え方や捉え方について述べてきましたが、「言うが易し」という指摘は尤もだと思います。複雑なシステムに立ち向かったり、意見の異なる人々とどう共通のアジェンダを編み、進めていくのかを考え、実行していくことは容易なことではありません。しかし、その中でも、社会課題の根本的な解決を志向したときに、ひと足先にそれを経験した先駆者たちが、コレクティブ・インパクトの実現に不可欠な要素として挙げるのが、コミュニケーションやファシリテーションといったソフトスキルやヒューマンスキルの部分です。
2018年4月にアメリカで行われたコレクティブ・インパクトのフォーラム(※1)では、リーダーの弱さ(vulnerability)の受容が基調講演になるほどでした。また、サイオン氏が10月の研修の最後に、受講生へのメッセージとして述べたのは、「何らかの介入の成否は、介入者の内面の状態に左右される(あるCEOの引用)(※2)」であり、自身の内面と向き合い思い込みに気づくことの重要性でした。
2019年1月発刊のハーバードビジネスレビューの記事『コレクティブ・インパクト実践論(井上英之氏)(※3)』の中で井上氏は『個人・組織・社会はつながっており、個々人の価値観やマインドセットの変容なくして、システム的な社会変容は起こらない』と述べています。社会システムは弱さや感情がある人間と、そのダイナミクスによって成立しており、システムにいる各主体が自分の内にある感情とつながり、それが他者にどう影響しているのかを気付くことが、システムの変化に至るための最初の一歩とになるといえ、当然その先にあるコレクティブ・インパクトの創出にも大きな影響をもたらすといえます。
コレクティブ・インパクトを志向する実践家は、自分もそのシステムの一部です。特に、研修ではコレクティブ・インパクトのバックボーン的な役割を担う方たちが多く参加されていましたが、いくらコレクティブ・インパクトを生み出すため黒子であっても、システムの一部であり、他のステークホルダー・関係者は、それぞれの視点で、システムの中にあるバックボーンの位置づけを意識・無意識で捉えています。個人としても、組織としても、自分や組織が生み出しているかもしれないネガティブなインパクトに目を向けることは、一般的に得意なことでないといえます。しかし、それは共通のアジェンダを一緒に目指してく全員にとって当てはまることかもしれません。恐れや不安を一緒に表出できる、安全・信頼できる場を作ることもコレクティブ・インパクトを目指していくうえで重要なエッセンスとも言え、そのような経験から自己理解と他者理解を進めながら、一緒にシステムに働きかける意義や価値を認識することが、コレクティブ・インパクトを起こすプロセスでは不可欠ではないかということが、半年間の研修やフォーラム、ダイアログから感じ取れたことでした。
(研修企画の一部で参加者と一緒にシステムコーチングセッションを受けました)
4回にわたってお届けした「実践者との対話と学びで見えてきたコレクティブ・インパクトの行間」シリーズ。複雑な課題に立ち向かい、明確な答えが無い中で、コレクティブ・インパクトを起こしていくことは簡単なことではありません。また、本ジャーナルに書いたこともいち意見や考え方であり、諸外国でもコレクティブ・インパクトについて多様な視点から議論されているように違う印象をもたれる方もいるかもしれません。一部の人ではなく、すべての人たちにより良い社会の実現や、社会課題解決に向けてコレクティブ・インパクトを生み出す際の足がかりや視点のひとつとして、受け止めていただけたら幸いです。また最後になりましたが、第1回目から第4回目にいたり、研修参加者の視点として佐藤淳さんから、多大なるご協力を頂きました。この場を借りて御礼申し上げます。
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