投稿日:2017年5月31日

2022年、高校で必須科目となる「公共」。 今、注目される社会貢献教育とは?

大石 俊輔Shunsuke Oishi
日本ファンドレイジング協会 マネージング・ディレクター

社会貢献教育で大事にしている「それぞれの価値観に基づく選択」と「達成感」

社会貢献教育と聞くと少し硬い感じがするかもしれない。実際このような教育プログラムを受けた子どもたちの感想の中には、「社会貢献というとすごく大きなことをしなければいけないと思っていた」とか「自分が関心のあることで社会に関わることで良いんだと分かった」など、最初は社会貢献という言葉が自分から遠い印象であることが殆どだ。しかし、プログラム受講後は、社会の課題や矛盾を少しだけ自分に引き付けて考えてみる子どもたちが増える。それはプログラムのプロセスの中で、自分の感情を困っている人や寄付者・支援者に少し寄り添わせることで、自分だったらどう感じるか、どう思うか、どうしてほしいか、を考え体験するからかもしれない。

社会貢献教育の本質は、社会貢献の方法を知識として知る事ではなくて、「自分にも社会の中で活躍でき必要とされる役割がある」ということを、社会貢献の模擬体験や実体験を通じて、理解し自分事として学ぶところにある。

そのような社会貢献教育で最も重要なポイントは、1つに「まずそれぞれの価値観で支援をする先を決める事」、そして2つに「支援した後の変化や達成感を感じる事」がある。そんなことは当たり前じゃないかと訝る方もいらっしゃるかもしれないが、誤解を恐れずいうならば今の日本の様々な教育現場では、適切な形でこのような体験に基づく学習機会が提供されているケースは殆どない。

社会貢献教育が生み出す波及効果「自己有用感の醸成」「学習意欲」「社会性」

それには様々な課題が存在するのだと思う。昨年度、日本ファンドレイジング協会では、有識者を集め、社会貢献教育が日本の学校教育現場に広がっていくためにはどのようなことが課題で、どのような施策をとれば推進されていくのかを包括的に議論し「社会貢献教育推進のための提言書」として取りまとめた(※課題や提言内容などの詳細は、「社会貢献教育推進のための提言書」を参照)。

この提言書をとりまとめる過程の中で、学校教育の中で社会貢献教育を行うことは、実は様々な波及効果をもつ可能性があることが分かった。例えば、子どもたちにとっては、支援先からの感謝や成果を知ることで、自己有用感の醸成につながったり、実体験と教科学習を結びつけることで学習意欲と社会性が高まったりということが考えられる。また、教員や学校にとっては、学校を地域に開くことで地域との関係性を築くきっかけになる。そして、教員が児童・生徒・学生と一緒になって地域の人たちや保護者と活動することで、共に学ぶ機会を得られ学校や教員をサポートする仲間を増やすことにつながる可能性がある。更に大学では、地域への社会貢献を大学運営の核に据えることで独自の魅力向上につなげる事も考えられる。

このように、社会貢献というキーワードを通じて、学校自体の或いは教育の魅力向上や課題の解決に資する活動を展開できる可能性があると同時に、学校教育に関わる様々な関係者が協力し合い相乗効果を発揮できる可能性も秘めている。

制度的後押しもある。10年に一度改定される学習指導要領の答申が、昨年の暮れに中央教育審議会より出された(「幼稚園、小学校、中学校、高等学校及び特別支援学校の学習指導要領等及び必要な方策等について」)。これによると「社会に開かれた教育課程」を目指すべき理念として、学校と社会が協働して教育を行っていくことが示されている。これにより、教職員間、学校段階間、学校と社会との間の相互連携が促されるだろう。更に、高校では、公民科の中に必修科目として「公共」を新設し、現代社会の諸問題の解決に向けて、他者と協働し主体的に社会参加する資質・能力を育成することが目指されているのだ。

次回は、このような社会貢献教育が全国で様々な形で取り組まれている様子を紹介する。
 

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大石 俊輔 Shunsuke Oishi

日本ファンドレイジング協会 マネージング・ディレクター

2008年3月法政大学大学院政策科学研究科修士課程修了。学生時代より、まちづくり、文化芸術分野のNPOでのボランティアを経験。同年4月より特定非営利活動法人せんだい・みやぎNPOセンターに勤務。2010年6月より現職。2010年日本で初めての寄付白書の編纂で中心的な役割を担うとともに、次世代向けのフィランソロピー教育である「寄付の教室」実行責任者として活躍中。

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