投稿日:2020年6月26日

寄付の役割とは―自助と公助のすき間を埋める「共助」の力

鵜尾 雅隆Masataka Uo
認定ファンドレイザー
日本ファンドレイジング協会 代表理事

これまで3回にわたって、新型コロナの影響で寄付に起きている変化や寄付先の選び方について考えてきました。本稿では、コロナ時代の今、改めて寄付が担う役割とは何かを問い直していきます。
▶第1回「「選択する寄付」という新たな寄付のあり方
▶第2回「寄付先選びの処方箋
▶第3回「行き過ぎた寄付のリスク


「自助」と「公助」を“最適化”する「共助」

本原稿を書いている2020年6月22日時点で、世界の新型コロナウイルスによる死者数は累計で46万8,375人にも上ります。日本では緊急事態宣言が全国で解除され、一旦は第一波のピークを乗り越えたと言えます。しかし、まだまだ世界ではウイルスが猛威を振るっており、ブラジルのように感染者が急増している国もあります。今後もアジア・アフリカの最貧国での増加やロヒンギャなどの人口過密の難民キャンプでの急拡大など、懸念材料が山積しています。政府の緊急対策も第一次補正予算25.6兆円、第二次補正予算31.9兆円が決まり、民間支出を合わせた事業規模は233兆円にも上ります。

しかし、この新型コロナの影響は、特に経済面でこれからが大きな影響があり、3-4年は回復が困難だという見方もあります。今はかろうじて内部留保で耐えている企業が存続できなくなる恐れや、貯蓄では対応できなくなる家計も増えていきます。

こうした状況では、「自助(自己責任)」だけではどうしようもない状態が生まれます。そのとき、「公助(行政の役割)」はとても重要で、行政だからこそできる大規模なセーフティーネット支援という側面があります。しかし、行政のお金は将来からの借金でもあるため、すべての影響をカバーし続けることは、逆に増税などで将来の負担を増やすことを意味します。

そこで「共助(民間や個人での助け合い)」によって「自助が機能しやすくなる状態」への回復や、「公助」で抜け落ちてしまう人たちへの支援をボランティアや寄付などを活かして行うことが、「自助」と「公助」の最適性を高めることにつながり、早期の社会の回復のために必要不可欠となります。

しなやかな共助がもつ「リバランス(再調整)」の役割

例えば、個人レベルでの自助能力の回復という役割では、生活困窮者やシングルマザーの就労支援やその他様々な支援サービスにつないでいくNPOがいます。生活困窮者への行政の支援としてはもちろん生活保護があり、今回のような場合は給付金もあるでしょう。しかし、「自助」が効きやすくするためにはNPOなどが寄り添い、その人の状況に合わせたサポートをしていく必要があります。

さらには、こうした危機下では、予定調和で成立していた社会の資源の配分・バランス機能が壊れてしまいます。誰も気づかないところで、社会システムから漏れ落ちる「想定外」の人達がでてきます。そうすると行政の配分機能だけでは抜け落ちがでやすくなります。これは大規模な災害のときにも、行政だけでは細部まで手が回らなくなるのと同じです。

NPOなどの共助は、ボランティアや寄付という、行政資金以外の社会資源を動員します。その「しなやかで柔軟な支援」がすき間をアメーバのように埋め、現場の声なき声を社会に届けることで、社会システムをリバランス(再調整)させていくことが必要になります。

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Profileこの記事を書いた人

鵜尾 雅隆 Masataka Uo

認定ファンドレイザー
日本ファンドレイジング協会 代表理事

GSG 社会インパクト投資タスクフォース日本諮問委員会副委員長、全国レガシーギフト協会副理事長、非営利組織評価センター理事、JICAイノベーションアドバイザー、大学院大学至善館特任教授なども務める。JICA、外務省、NPOなどを経て2008年NPO向け戦略コンサルティング企業(株)ファンドレックス創業、2009年、課題解決先進国を目指して、社会のお金の流れを変えるため、日本ファンドレイジング協会を創設し、2012年から現職。認定ファンドレイザー資格の創設、アジア最大のファンドレイジングの祭典「ファンドレイジング日本」の開催や寄付白書・社会投資市場形成に向けたロードマップの発行、子供向けの社会貢献教育の全国展開など、寄付・社会的投資促進への取り組みなどを進める。
2004年米国ケース大学Mandel Center for Nonprofit Organizationsにて非営利組織修士取得。同年、インディアナ大学The Fundraising School修了。
著書に「寄付をしようと思ったら読む本(共著)」「ファンドレイジングが社会を変える」「NPO実践マネジメント入門(共著)」「Global Fundraising(共著)」「寄付白書(共著)」「社会投資市場形成に向けたロードマップ(共著)」「社会的インパクトとは何か(監訳)」などがある。

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