投稿日:2025年3月12日

社会とのつながりを実感するために〜学校・NPO・企業で広がるカードゲーム「from Me」

私たちの身近にはさまざまな社会課題があふれています。一方で、それらの問題を自分ごととしてとらえるのは、そう簡単なことではありません。そんな中、いま注目されているのが「from Me(フロムミー)」というカードゲームです。日々の行動やお金の使い方が、社会課題とどのようにつながっているかを体感できるこのゲームが、学校現場やNPO、企業などさまざま場面で活用され始めています。本記事では、このカードゲームの公認ファシリテーターとして活躍する皆さんのお話を通じて、「from Me」の魅力とその可能性を探っていきます。

(聞き手:認定NPO法人日本ファンドレイジング協会 カードゲーム「from Me」ディレクター 小針 丈幸)



カードゲーム「from Me」とは
寄付・投資・消費・貯蓄などさまざまなお金の使い方を通して、自分のウェルビーイング(幸福)の向上とお金の使い方の関係性を疑似体験できるカードゲームです。2024年3月には、「WELLBEING AWARDS 2024」活動・アクション部門FINALISTに選出されました。

【活用実績】
・体験会参加者数 5,583人
・体験会実施数 企業:41件・NPO:35件・学校:63件
・全国の公認ファシリテーター数 136名 (※2025年3月時点)

活用事例など詳細はこちら:https://jfra.jp/fromme/

学校の中で社会とつながる体験を

子どもたちのキャリアの選択肢を広げるために

小針:三井さんは、学校現場などで「from Me」を実施する公認ファシリテーターとして活動されていますね。普段は、家に眠る不用品をNPOへの寄付に変える「お宝エイド」に取り組まれていますが、公認ファシリテーターとしての活動に注力するようになったのはなぜですか?

※お宝エイドは、寄付が進む社会の実現を目指す日本ファンドレイジング協会のスペシャルパートナーです。

三井:お宝エイドでは、物品寄付を通じて150以上の団体と連携しています。その中で、さまざまな社会課題があることを日々実感する一方、学校教育の現場では、中高生がそうした課題や社会の仕組みに触れる機会が限られていると感じていました。

三井 恒雄さん(物品寄付型ファンドレイジングプログラム『お宝エイド』)

2004年マーケティング会社を起業。東日本大震災後、ソーシャルビジネスに関心を持ち、リユースと社会貢献を組み合わせた物品寄付型ファンドレイジングプログラム『お宝エイド』を開始。2015年アメリカ「スティービーアワード:非営利組織資金調達部門」で金賞受賞。2017年アメリカサンフランシスコで開催された世界最大のファンドレイジングカンファレンスAFPに参加、IFC-ASIAバンコク「第一回Social Impact Awards」招待参加。AMEX社会起業家アカデミー合宿選出(ETIC)。『SDGsを自分ゴト化するワークショップ』を中学校や高校、企業などで延べ1000人以上に開催。ふるさと版のSDGsボードゲームの制作にも取り組み、SDGsの普及啓発、相続、遺贈問題、地方創生、サーキュラーエコノミーにも取り組む。モットーは「顔合わせ、心合わせ、力合わせ」
三井:社会を知ることは、将来の選択肢を広げることにつながります。子どもたちが「こんな社会課題があるんだ」「自分にもできることがあるかも」と思えれば、自然と関心の幅も広がるはずです。

この考えのもと、寄付を通じた社会課題解決を体験できるツールとして「from Me」の開発に携わりました。完成後、実際に中高生に授業を行うと、12の多様な価値観を持つキャラクター(プレーヤー)がそれぞれ異なるニーズを持ちながら、みんなで他者の価値観を認め、協力して、社会をより良くしていく体験に、多くの生徒が夢中になる姿を目の当たりにしました。

「from Me」は、自分の価値観を見つめ直し、本当にやりたいことを考える機会を提供します。また、多様なキャリアの可能性を考えるきっかけにもなります。こうした経験が、中高生にとって非常に大切であると感じています。その意味で、「from Me」には大きな可能性があると確信しています。


学校で「from Me」の体験会を実施する三井さん

「少額ですみません」寄付者のひと言をきっかけに

寄付が社会の変化につながっていることを感じてほしい

小針:南谷さんはNPOでファンドレイザーとして活躍されていますが、寄付者とのコミュニケーションに「from Me」を活用しようと思われたきっかけは何だったのでしょうか?どのような課題を感じていらっしゃったのですか?

南谷:私たちの活動に関わる支援者の方の中には、「少額の寄付ですみません」とおっしゃる方が少なくありません。私たちが所属するソーシャルコミュニケーション事業部のミッションは、「わたしには社会を変える力があるんだと信じて、小さなアクションを起こす人を増やすこと」です。しかし、支援者の方一人ひとりに「自分の寄付が社会の変化につながっている」と実感してもらうことは簡単ではありません。そんなときに出会ったのが、このカードゲームでした。

南谷 友香さん(認定NPO法人かものはしプロジェクト ソーシャルコミュニケーション事業部 マネジャー)

愛知県稲沢市出身。幼少期より機会の不平等に関心があり、一橋大学社会学部にて開発学/国際協力論を卒業後は事業会社2社で事業企画と事業開発、青年海外協力隊@カメルーンで現地事業の伴走支援の経験を積み、現在はNPO法人でファンドレイジング業務や調査事業に従事している。ファンドレイジング・スクール6期生。認定ファンドレイザー。Ki-tto共同発起人
小針:「from Me」を団体の支援者の皆さんと一緒に実施してみていかがでしたか?

南谷:「from Me」では、ゲームを通じて、自分のアクションやお金の使い方が社会にどのように影響を与えるのかを、楽しみながら体感することができます。さらに、カードゲームの中での時間の進み方を通じて、「社会の変化には時間がかかる」ということもリアルに実感できるんです。小さな行動が社会を動かす一歩になることを、言葉だけでなく実際に体感できたことが良かったですね。


かものはしプロジェクトの支援者に向けて「from Me」の体験会を実施する様子

日々の業務とサステナビリティのつながりを実感する

社員のエンゲージメントを高める可能性

小針:続いて、社内研修に「from Me」を活用されている大杉さんにお話を聞いてみたいと思います。

大杉:最近では多くの企業が、サステナビリティ経営やESGの情報開示をどのように進めていくかに高い関心を寄せています。一方で、社外に向けて「こんな取り組みをしています」と発信しているにもかかわらず、社内を見てみると、社員一人ひとりが「自分の仕事が社会とどうつながっているか」を実感しづらいという課題が置き去りにされている面がありました。

大杉 健一さん(株式会社アドバンテスト・インパクトデザインオフィス)

国際協力機構(JICA)にて東欧・中央アジア等体制移行国の開発に従事。ODAの経験を経て東芝、日立製作所等グローバル・メーカーにてクロスボーダーM&A、プロジェクトファイナンス等に携わり、直近では、各社のサステナビリティ推進を主導。並行して、官民双方での経験をもとに、ファンドレイザーとして社会起業家及び機関投資家とのネットワーキング、アジア・東欧を中心とした社会的インパクト投資の実践活動に従事。
小針:社内でゲームを実施してみて、具体的にどのような変化や効果を感じていますか?

大杉:エンジニアや人事など、さまざまな部門に「from Me」を導入してみると、サステナビリティの浸透だけでなく、チームビルディングや社員一人ひとりのエンゲージメントの向上にもつながっていると実感しています。「自分の仕事が社会とどうつながっているか」だけでなく、お金の使い方や社会課題へのアクションと会社のミッションのつながりもゲームを通じて楽しみながら理解できるんですよね。

人的資本経営がますます重視される時代に、「from Me」は、サステナビリティと社員のエンゲージメントを同時に高められる有効なツールだと実感しています。


社内研修として「from Me」を実施する大杉さんの様子

子どもも大人も。学校、NPO、企業でも

あらゆる場面で広がる「from Me」の可能性

小針:三井さんは「from Me」のカードゲーム開発に、スペシャルパートナーとして最初から関わってこられました。最後に、一言メッセージをいただけますか?

三井:このカードゲームはもともと「寄付を身近に感じてもらうこと」を目的に開発しました。しかし、今日皆さんの話を伺い、その活用の幅広さに改めて気づかされました。当初の狙いにとらわれず、公認ファシリテーターの皆さんが全国各地で新たな価値を発見し、共有し合うことで、私たち開発チームの想像を超えた進化を遂げることを期待しています。

私の願いは、全国の子どもたちが必ず一度は「from Me」を体験できる社会を実現することです。そして、ファンドレイザーの皆さんには、ぜひ一度このカードゲームを体験していただきたいと思います。

社会課題の解決は長い道のりですが、ときには無力感を感じることもあるでしょう。そんな時は、寄付者の方々と一緒に「from Me」をプレイし、「今の自分の行動が、未来につながっている」という実感を得ていただければと思います。


お宝エイドは「寄付・社会的投資が進む社会の実現」に向けて、
当会と一緒にチャレンジするスペシャルパートナーです。

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