世界各地で相次ぐ紛争や災害を背景として国境を越えた支援のニーズが高まる一方で、日本の国際協力NGOの多くが資金不足を課題として挙げています。「特集・国際協力NGOのファンドレイジング〜“遠く”の社会課題に関心と参加を生み出す方法〜その最前線を探る」と題して、国際協力NGOのファンドレイジングの第一線で活躍する4人のファンドレイザーに対談形式でお話をお聞きします。
最終回では、国際協力NGOの寄付募集について考えます。資金力が限られる中で、組織の成長段階に応じて取りうる戦略とは何かを探っていきます。
(聞き手は認定NPO法人日本ファンドレイジング協会 国際協力エコシステムプロジェクト リーダー・井川定一さん)
第1回「国際協力NGOのファンドレイザーに求められる「伝える力」」
第2回「国際協力NGOのファンドレイジングに求められる「寄付倫理」」
第3回「国際協力NGOのファンドレイジング、カリスマ頼みはダメですか?」
五十嵐豪さん(以下、五十嵐):ファンドレイジングとひと言でいっても、寄付、会費、助成金、事業収入など多岐にわたります。何を対象とするかによって、ファンドレイザーに求められるスキルも変わってきそうですね。
井川定一さん(以下、井川):私が2023年度に携わった外務省NGO研究会の調査(令和4年度外務省NGO研究会報告書「日本の国際協力NGOの資金調達リデザイン化と財務内容の強化」(関西NGO協議会))によると、国際協力NGO161団体の過去3年間の財務諸表を分析した結果、拡大傾向にある団体の中で最も多かった収益モデルは寄付主導型で、縮小傾向で最も多かったのは助成金主導型という結果になりました。会費や事業収入もほとんど伸びていない中で、国際協力NGOのファンドレイジングを考えるとき、今後は寄付がメインになってくると思います。
(出典)令和4年度外務省NGO研究会報告書「日本の国際協力NGOの資金調達リデザイン化と財務内容の強化」(関西NGO協議会)p13
鈴木亜香里さん(以下、鈴木):国際協力NGOは、国内で活動する団体と違って取り組む課題やミッションを絞ることが難しいですよね。特定の国や地域の課題であれば何でもやっていますという感じだからこそ、ファンドレイジングにおいて代表の人間的魅力を寄りどころにする団体がすごく多い気がしています。
井川:いや、痛いとこですよね。この問題の背景には、ニュースになっている国や地域以外にほとんど寄付が集まらないという現状があるかと思います。資金力のある団体であればウェブ広告やFace to Faceなどさまざまな打ち手があるのでしょうが、資金力がない場合、創設者や代表のカリスマ性頼み以外にそもそも取りうる戦略が限られるというのが正直なところかもしれませんね。やっぱり、カリスマ頼みはダメですか?
鈴木:それしか打ち手がないところを打破したいという気持ちがありますね。今、地球市民の会ではローカルスタッフにスポットを当ててメルマガ書いたりしています。スタッフが顔を出してファンドレイジングをするのはすごく有効ですが、それ以外の方法も探したいと思っています。
五十嵐:国際協力NGOならではというと、団体のブランド力でファンドレイジングするパターンですね。もちろん、そういった団体もきちんと報告はしていると思うのですが、寄付者のほうがブランド力のある団体に寄付したことで安心してしまっているのではないかという気がします。寄付を通じて、海外の課題と私たちの社会をブリッジングし、互いに協力し合うという本来目指したいところが、ブランドに寄付されてしまうと、寄付したということだけで終わってしまいかねないことが残念だなと思います。
井川:確かに、資金力、ブランド力、カリスマ性といったところですよね。大西さんはどう思いますか?
大西冬馬さん(以下、大西):寄与する側は、「きっかけさえあればどこでもいい」と思っている人が意外と多いのではないかなと感じています。Face to Faceのファンドレイジングは、そのための接点づくりをどれだけできるかというところになります。あとカリスマに関して言うと、僕は誰もがカリスマになりうる可能性があるのではないかと思うんです。カリスマと呼ばれる人は、一番想いが強いと同時に、話し方も一番上手いですよね。ファンドレイジングをする上で、自分の言葉で話せることはすごく大事になってくると思います。
井川:今、いくつかすごく重要なポイントがでてきましたね。カリスマをつくる戦略はどこの団体でも取りうるのではないか、スタッフが求心力となってファンドレイジングができるのではないかという話もありました。
五十嵐:そうなると、今度は組織論になりますが、求心力の要となった人がその組織にずっといるのかという問題がありますよね。
井川:鈴木さん、地球市民の会も設立者がカリスマ的な存在でしたよね?
鈴木:そうですね。人によってはカリスマがいなくなった時点で解散でいいんじゃないかという考え方をされるようですが、私は古賀先生(設立者・古賀武夫氏、2008年没)が残してくださった団体を成長させてきて、使える「器」があるのはすごくありがたいことだと思っていますし、カリスマ一代で終わらせてしまうのはもったいないという想いがあります。カリスマもいいのですが、カリスマだけに頼ると、その人に何かあったときに活動が続けていけないリスクがあると思います。
井川:なるほど、カリスマに頼ること自体が悪いわけではなくて、そこには脆弱性もあるということですね。
五十嵐:日本のNGOがカリスマだけに頼っているうちは、やはり組織としてそれ以上成長しなくなってしまいますよね。極端な例ですが、赤十字の父と言われるアンリー・デュナンだって、今となってはほとんど誰も知らないじゃないですか。創設者の求心力というところを越えていかないと、日本のNGO/NPOの組織としての成長は頭打ちなってしまう気がします。
井川:成長のフェーズもあるのかもしれないですね。設立からある程度のところまでは、カリスマで引っ張っていけるようなフェーズがあるかもしれません。そこを越えると、カリスマ頼みだけでは厳しい現実があって、そこからはカリスマで培ったアセットをもとに、もうすこし組織的なやり方をしていかないといけないという話かもしれません。ゼロから始めるときには、カリスマを作るという戦略もそれはそれでありなのかもしれませんね。
国際協力NGOのファンドレイジングを強化していくには、個々のNGOやファンドレイザーの能力強化が必要になってくる一方で、NGOが単体でいくら頑張ったとしても限界があるなと感じています。国際協力全般への関心の低下や、NGOの協働機会の創出、NGOに対する信頼の醸成など、NGOを取り巻くさまざまなステークホルダー(財団、資金提供者、企業、行政、ファンドレイザーなど)が連携して、みんなでセクター全体を盛り上げていく必要があると思います。今日はありがとうございました!引き続きよろしくお願いします。
第1回「国際協力NGOのファンドレイザーに求められる「伝える力」」
第2回「国際協力NGOのファンドレイジングに求められる「寄付倫理」」
第3回「国際協力NGOのファンドレイジング、カリスマ頼みはダメですか?」
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