投稿日:2022年3月8日

行政・NPO・大学 3つのセクターを横断。ユニークなキャリアに見出した多様性を生む力

鈴木 大悟Daigo Suzuki
准認定ファンドレイザー
フリーランス・ファンドレイザー

里本 裕規(サトモト ヒロノリ)さん
1989年生まれ。長崎県五島列島出身。農学修士。 行政機関や教育系NPO法人を経て、現在は国立大学理系研究機関にてファンドレイジングを担当。 趣味は音楽・映画鑑賞。人と人を繋ぐことが好き。
今回は「自由にあなたらしいキャリアを描く」というテーマで、インタビューをさせていただきました。
里本さんは行政、NPO、大学のファンドレイザーと3つのセクターを渡り歩いた、とても多彩なキャリアをお持ちの方で、このテーマにぴったりの方です。
今回の記事では里本さんに、自由にキャリアを歩まれてきた中で得られた強みやセクター横断の魅力についてお伺いしました。

ファンドレイザーは礼節を尽くす仕事 ー”お辞儀”に見た心

2020年に准認定ファンドレイザーの資格を取得し、研究所ファンドレイザーとして働き始めました。きっかけは、大学・大学院と植物の病気に関する研究をしていましたし、NPOでの業務経験もあったので、これまでのキャリアを掛け合わせた仕事ができると思ったからです。

大学時代は、研究を行う傍ら震災支援を行う学生団体を立ち上げたのですが、当時の活動資金はすべて手弁当でした。見かねたNPO理事の方から「君たち、良い活動をしているのだから寄付を集めなさい」と助言をもらい、地元の経営者が集まる場で寄付を呼びかける機会をいただきました。

約10分間ほどでしたが、団体のビジョンやミッションを懸命に話しました。講演後に募金箱を回したところ、20万円ものご寄付が入っていたことは今でも鮮明に覚えています。当時はまだファンドレイジングという言葉すら知りませんでした。

大学院卒業後は、人の顔が見える仕事や事業をつくる経験をしたいと思っていました。そこで行政機関や創業間もないNPO法人にて業務を経験させていただき、NPO在籍中に寄付を扱うファンドレイザーという仕事があることを知りました。

最初はなんとくなく素敵だなという印象だけでしたが、先輩ファンドレイザーの方々に相談させていただく中で、寄付を扱うゆえの誠実さや倫理観の高さが、お辞儀などの所作に表れているように感じる瞬間がありました。「ファンドレイザーは精神性を磨く仕事」かもしれないと感じたことは、今も心に残っています。

多様性も生むファンドレイジングとアートの力

研究所でのファンドレイジング業務に向き合う中では、基礎研究の内容を企業との共同研究とは異なるコンセプチュアルな文脈で、多くの一般個人に伝える方法を模索していました。

そんなとき、芸術工学博士の方から Krebs Cycle of Creativity (Neri Oxman, 2016) という概念を教わりました。

社会のあらゆる創造物や価値は、上図の4領域を循環的に進むことで生み出されること、アートは人々を理想社会の追求に突き動かすこと、アートとサイエンスは共通して抽象的な社会認知 (哲学) に影響を与えるという考え方です。

これが絶対的に正しいとは思いませんが、クリエイティブな活動に参加した際に寄付が促進される (Lidan, X., Ravi, M., & Darren, W. D., 2021) という研究も聞いたことがあったので、もしかしたら、組織の社会的意義を含め伝えたいことをアートに昇華することで、枠を越えた方々にリーチし、深い理解や共感も生まれるのではと仮説を立てました。

そこで、現代アーティストの方に絵を教わり、休日の時間を使って私的に個展を開催してみました。


感染症予防策を講じながら個展を開催しました

実際に個展が始まってみると以下のような反響をいただきました。

アートを鑑賞する機会をほとんど持てて来なかった人生ですが、びっくりするほど楽しませてもらいました!正直、抽象画とのことで理解できるかな?とか楽しめるかな?とか不安だったのですが、すごく感じるところがあり素敵な時間でした。
Krebs Cycle についても理解が深まりました。いま PR やマーケティングという観点で社会や経済活動に理解を深めているところだけど、通ずるところがある気がしました。
寄付に馴染みのないコミュニティでは、「寄付」をテーマにしたイベントを打つだけでなく、「アート」に関する場をつくることでリーチできる層が広がることを実感しました。また「自分も実際に描いてみたい」「アートを購入してみたい」というご感想も多かったです。NFT(Non-fungible token)の台頭もあり2020〜21年の現代アート市場が過去最高の売上を記録していることから、アートの可能性は模索してみたいですね。

異なるセクターを渡り歩いた私だからできること

行政からNPO、NPOから大学と、一貫性なく見えるキャリアに悩んだ時期もありました。それでも、今は複数のセクターを横断した私だからこそ出来ることがあると思っています。

もちろんファンドレイジングは目標とする金額を集めることが第一の目的ですが、様々な分断を越え、ステークホルダーのダイバーシティを高めることにも貢献します。

寄付を通して、異なる文化を持つ人々を結びつける”翻訳家”のような存在は、組織が寄付者を含めた有機的なコミュニティに変化する上で重要だと思っています。

本来、人を巻き込むことは大変難しいことです。しかし、ソーシャルセクターの強みは、圧倒的な伝染力であり、適切な理念を話せば協力してくださる方々が多くいらっしゃること。NPOでの経験は今も大きな糧となっています。

これからのファンドレイジングとの関わり方

とある米国大学の学長は、寄付金募集活動に執務時間の50%以上を費やしているという調査結果 (公益社団法人 Japan Treasure Summit, 2020) があることには驚きました。

寄付に関わる方々のご尽力で国内の寄付市場も伸びているので、今後ファンドレイザーへの関心やニーズは増えていくのではないでしょうか。

今は以前より柔軟にキャリアを描く人も増えていますし、ファンドレイジングに携わりたい方は、まず今持っているスキルを活かしたプロボノや、寄付を通してソーシャルセクターに関わるのが良いのではと思います。

また、一度ジョインしたからといって縛られる必要はないと思います。「ファンドレイジング」を一つの手段として認識した人が再度ほかの業界に進出すれば、最終的に寄付市場には好影響があるはずです。

最後になりますが、寄付を通して不要な分断がなくなり、溶け合い、多様な人々が包摂される未来を共に拓いていけたらと思っています。今回は取材していただき、ありがとうございました。

里本さん、今日はありがとうございました!多様なキャリアの点と点が、実際に線となった体験談をお伺いし、これから里本さんがどんなキャンバスに、どんな人生の絵を描かれるのか、本当に楽しみです。次回のワカモノ人材は、一般社団法人日本カーシェアリング協会の石渡賢大さんを予定しています。ぜひご期待ください。
[参考文献]
Neri, O. (2016). Age of Entanglement. Journal of Design and Science MIT Press.

Lidan, X., Ravi, M., & Darren, W. D. (2021). Leveraging Creativity in Charity Marketing: The Impact of Engaging in Creative Activities on Subsequent Donation Behavior. Journal of Marketing.

公益社団法人 Japan Treasure Summit. (2020). 令和元年度文部科学省委託事業「我が国の大学における寄附金獲得に向けた課題に係る調査研究」報告書

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Profileこの記事を書いた人

鈴木 大悟 Daigo Suzuki

准認定ファンドレイザー
フリーランス・ファンドレイザー

1994年埼玉県生まれ。慶應義塾大学商学部卒。大手証券会社でリテール営業に従事し、2018年に認定NPO法人かものはしプロジェクトの社会人インターンとして、NPOキャリアをスタートする。法人や個人大口の寄付開拓を担当する中で、日々たくさんの支援者の方々と実際にお話しさせていただき、寄付は”未来の社会への応援”であることを強く実感する。2019年にフリーランス・ファンドレイザーとして独立し、Webメディア事業の運営をはじめ、寄付募集のLP及び記事の制作や、遺贈寄付獲得のための設計支援などが特長。自らも収入の1割を寄付し続けることを信条とし、寄付を通して幸せや豊かさを実感できる方を、一人でも多く増やすことを使命とする。

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