2020年に准認定ファンドレイザーの資格を取得し、研究所ファンドレイザーとして働き始めました。きっかけは、大学・大学院と植物の病気に関する研究をしていましたし、NPOでの業務経験もあったので、これまでのキャリアを掛け合わせた仕事ができると思ったからです。
大学時代は、研究を行う傍ら震災支援を行う学生団体を立ち上げたのですが、当時の活動資金はすべて手弁当でした。見かねたNPO理事の方から「君たち、良い活動をしているのだから寄付を集めなさい」と助言をもらい、地元の経営者が集まる場で寄付を呼びかける機会をいただきました。
約10分間ほどでしたが、団体のビジョンやミッションを懸命に話しました。講演後に募金箱を回したところ、20万円ものご寄付が入っていたことは今でも鮮明に覚えています。当時はまだファンドレイジングという言葉すら知りませんでした。
大学院卒業後は、人の顔が見える仕事や事業をつくる経験をしたいと思っていました。そこで行政機関や創業間もないNPO法人にて業務を経験させていただき、NPO在籍中に寄付を扱うファンドレイザーという仕事があることを知りました。
最初はなんとくなく素敵だなという印象だけでしたが、先輩ファンドレイザーの方々に相談させていただく中で、寄付を扱うゆえの誠実さや倫理観の高さが、お辞儀などの所作に表れているように感じる瞬間がありました。「ファンドレイザーは精神性を磨く仕事」かもしれないと感じたことは、今も心に残っています。
研究所でのファンドレイジング業務に向き合う中では、基礎研究の内容を企業との共同研究とは異なるコンセプチュアルな文脈で、多くの一般個人に伝える方法を模索していました。
そんなとき、芸術工学博士の方から Krebs Cycle of Creativity (Neri Oxman, 2016) という概念を教わりました。
社会のあらゆる創造物や価値は、上図の4領域を循環的に進むことで生み出されること、アートは人々を理想社会の追求に突き動かすこと、アートとサイエンスは共通して抽象的な社会認知 (哲学) に影響を与えるという考え方です。
これが絶対的に正しいとは思いませんが、クリエイティブな活動に参加した際に寄付が促進される (Lidan, X., Ravi, M., & Darren, W. D., 2021) という研究も聞いたことがあったので、もしかしたら、組織の社会的意義を含め伝えたいことをアートに昇華することで、枠を越えた方々にリーチし、深い理解や共感も生まれるのではと仮説を立てました。
そこで、現代アーティストの方に絵を教わり、休日の時間を使って私的に個展を開催してみました。
感染症予防策を講じながら個展を開催しました
実際に個展が始まってみると以下のような反響をいただきました。
行政からNPO、NPOから大学と、一貫性なく見えるキャリアに悩んだ時期もありました。それでも、今は複数のセクターを横断した私だからこそ出来ることがあると思っています。
もちろんファンドレイジングは目標とする金額を集めることが第一の目的ですが、様々な分断を越え、ステークホルダーのダイバーシティを高めることにも貢献します。
寄付を通して、異なる文化を持つ人々を結びつける”翻訳家”のような存在は、組織が寄付者を含めた有機的なコミュニティに変化する上で重要だと思っています。
本来、人を巻き込むことは大変難しいことです。しかし、ソーシャルセクターの強みは、圧倒的な伝染力であり、適切な理念を話せば協力してくださる方々が多くいらっしゃること。NPOでの経験は今も大きな糧となっています。
とある米国大学の学長は、寄付金募集活動に執務時間の50%以上を費やしているという調査結果 (公益社団法人 Japan Treasure Summit, 2020) があることには驚きました。
寄付に関わる方々のご尽力で国内の寄付市場も伸びているので、今後ファンドレイザーへの関心やニーズは増えていくのではないでしょうか。
今は以前より柔軟にキャリアを描く人も増えていますし、ファンドレイジングに携わりたい方は、まず今持っているスキルを活かしたプロボノや、寄付を通してソーシャルセクターに関わるのが良いのではと思います。
また、一度ジョインしたからといって縛られる必要はないと思います。「ファンドレイジング」を一つの手段として認識した人が再度ほかの業界に進出すれば、最終的に寄付市場には好影響があるはずです。
最後になりますが、寄付を通して不要な分断がなくなり、溶け合い、多様な人々が包摂される未来を共に拓いていけたらと思っています。今回は取材していただき、ありがとうございました。
Lidan, X., Ravi, M., & Darren, W. D. (2021). Leveraging Creativity in Charity Marketing: The Impact of Engaging in Creative Activities on Subsequent Donation Behavior. Journal of Marketing.
公益社団法人 Japan Treasure Summit. (2020). 令和元年度文部科学省委託事業「我が国の大学における寄附金獲得に向けた課題に係る調査研究」報告書
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