「日本で寄付文化は広がらない」と言われながら、それでも、本当に多くの方々の尽力で社会の空気や制度、寄付をする環境は変わってきました。
今では一般的となったクラウドファンディング、クレジットカード決済による寄付は、東日本大震災が一つの契機となり、寄付のオンライン化が進んできました。タブー視されがちな「相続」。遺贈寄付は日本で広がらないという定説も、2013年の相続税の基礎控除枠の大幅見直しを契機として、相続対策に関する書籍が急増し、「人生の集大成の社会貢献としての遺贈寄付」が拡がり始めました。
コロナ禍で加速しつつある日本の寄付の重要な潮流が、「HNWI:high net worth individual」と言われる人たちの社会貢献への関心の高まりです。経営者や富裕層が、どこかの団体への寄付に留まらず、特定の領域で社会課題の解決にむけた構想を持ち、実行する「フィラソロピック・イニシアチブ」という動きがあります。社会課題解決のためには、寄付だけではなく、財団を創設し解決策を生み出す企業に投資したり、自分でNPOを起業したり、様々な方法で社会課題の解決を考える人々が出てきています。
寄付の金額の多寡や、寄付者が資産家であるかどうかによって寄付の本質的価値が変わることはありません。しかし、経営者や富裕層には、資産に加えてつながりや影響力、多くの知見や資源があります。今、徐々に注目されているのは、こうした持てる資源を総動員して、社会課題の解決に貢献しようとする経営者や富裕層が生まれてきているということです。
事実、多くの大手金融機関のウェルスマネジメント部門の人たちが口を揃えていうのは、「金融商品の話には関心がないが、社会貢献の話は聞いてくれる」という実感値です。今、目に見えないところで、大きな地殻変動が生まれている、と言っても過言でないかもしれません。
「日本は富裕層が少ない」という声をよく聞きます。しかし、「超富裕層」と言われる数は米国ほどではありませんが、流動性資産百万ドル(1.1億円)以上の資産を持つ人の数は、世界で2番目、その資産規模は300兆円とも言われています。その1%が寄付にまわるだけでも3兆円の規模があります。
(出典:World Wealth Report 2020)
欧米では、経営者や富裕層が社会貢献の一環として「ファミリー財団」を設立するケースが多く、米国の全財団73,764のうち、個人が立ち上げたファミリー財団が40,456法人と半数以上を占めています。そして、その5分の3は、資産規模百万ドル(1.1億円)以下の財団です。多くの経営者や富裕層にとって、「ファミリー財団」の設立が、選択肢の一つとして認識されている状況です。
日本でも富裕層上位10人(Forbes調べ)のうち、6人は公益財団を設立していることが分かりました。(日本ファンドレイジング協会調べ。公益財団法人であり、かつ個人名が付されているか、設立時に個人が資金を出していることが公開情報で確認できるもの。企業財団を除く)
2021年4月20日、フィランソロピック・イニシアティブを支援する日本初のプラットフォームとして、「フィランソロピック・プラットフォーム」が立ち上がりました。これは、一般社団法人ジャパン・フィランソロピック・アドバイザリーを窓口として、公益財団法人日本フィランソロピック財団などの多様なソーシャルセクターを代表する団体が連携し、富裕層を社会貢献につなぐためのサポートを行います。
この数年間、欧米の経営者・富裕層の社会貢献を支援する仕組みの研究をしてきました。そして、経営者や富裕層と言われる何人もの人たちの社会貢献の相談にのる中で共通していたのは、「自分だからこそできることがあるではないか」という思いと情熱でした。一方、親族継承や事業継承を含めた複合的で多様な悩みと躊躇を抱えています。日本ファンドレイジング協会は、フィランソロピック・プラットフォームのパートナー法人として、フィランソロピック・イニシアチブの実現をサポートする役割を果たしていきたいと思います。
後編は、この社会変化の中で、ファンドレイザーが何を考えるべきかを解説します。
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