投稿日:2019年11月7日

【シリーズ】ビジョン・パートナーに聞く「思い描いている未来」第1弾:公益財団法人さわやか福祉財団会長堀田力氏.vo1

10周年を迎えた日本ファンドレイジング協会では、これからの10年を思い描いたときに、ビジョンを共有し、新しい発想とアイディアで力強く一緒に未来を築いていくために、日本を代表するリーダーの方々に「ビジョン・パートナー」となっていただきました。
今回から始まるこのシリーズでは、ビジョン・パートナーの皆さんが思い描かれている未来についてお聞きしていきます。
第一弾は公益財団法人さわやか福祉財団 会長 堀田力氏にお聞きした、「思い描く未来」についてを、3回にわたってお届けいたします。

プロフィール

公益財団法人さわやか福祉財団 会長 堀田力

現、公益財団法人さわやか福祉財団会長・弁護士。高齢社会NGO連携協議会(高連協)代表、民間法制・税制調査会座長、認知症になっても安心して暮らせる町づくり100人会議議長、日本プロサッカーリーグ裁定委員会委員長ほか。その他、東京の地域ケアを推進する会議委員長、社会保障改革に関する集中検討会議委員、社会保障審議会委員、教育課程審議会委員、医道審議会委員、中央社会福祉審議会委員、国民生活審議会委員、年齢にかかわりなく働ける社会に関する有識者会議委員、神奈川県ボランタリー活動推進基金審査会会長、高齢者介護研究会座長、政府税制調査会委員、東京都社会福祉協議会会長、日本ファンドレイジング協会代表理事ほかを歴任。

聞き手

日本ファンドレイジング協会 代表理事 鵜尾 雅隆

JICA、外務省、米国NPOなどを経て2008年NPO向け戦略コンサルティング企業(株)ファンドレックス創業、2009年、寄付・社会的投資が進む社会の実現をめざし、日本ファンドレイジング協会を創設し、2012年から現職。認定ファンドレイザー資格の創設、アジア最大のファンドレイジングの祭典「ファンドレイジング・日本」の開催や寄付白書・社会投資市場形成に向けたロードマップの発行、子供向けの寄付教育の全国展開など、寄付・社会的投資促進への取り組みなどを進める。

自主的、自発的な助け合いを目指して

鵜尾:私はさわやか福祉財団主催で9月に大阪で開催された「いきがい・助け合いサミット」に参加させてもらいましたが、これからの助け合いの場をどうするかについて話し合う場に福祉関係の方が3,060名集まられたということに驚きました。あの場を終えられて、今持っておられることについてまずはお聞かせいただけますか。

[9月に大阪で開催された 「いきがい・助け合いサミット in 大阪」]

堀田:だいぶ日本社会も動く形になってきたな、と思います。行政が助け合いを広める仕組みは4年前から厚労省がしかけて動き出していました。介護保険料がどんどん上がっているので、これ以上上がっていくと制度が持たなくなる、なので生活を支える部分、例えば調理・洗濯・そうじ・買い物などは助け合いでなるべくやってもらって介護保険料の値上がりを少しでも抑えたいというのが国側の動機でした。我々のような助け合いを広げる立場から言えば、そこまで助け合いを自発的にできるようになれば、やるほうもやってもらうほうもお金でやったりやってもらったりするよりずっと快い、保険料も少しでも低くなればよいということで、市民の立場での助け合いがさらに広まるようにしましょうと、厚労省に申し入れました。厚労省も助け合いを広げるのは今までにやったことがないのでよろしくということで、協力しあって制度を進めている、というのが現状です。
国としても助け合いを広げるために市町村に生活支援コ―ディネーターと、自治会長、民生委員、NPOや福祉関係のリーダーが加わる協議体という体制をつくって助け合いを広げようというので4年前から動き出したのです。
始めるにあたり、助け合いとは市民住民が自発的、自律的に動くもので、行政側が仕切ってはいけない、やり方を決めてはいけないという基本を、助け合いを広める役割の方々に伝えて、やっていただきました。そういう方々による勉強もかなり進んできたので一度全国の関係者が一堂に集まって、そこで自分たちの助け合いの広め方でいいのか、さらに適切にやるにはどうすればいいのかなど、いろいろな角度から勉強しようというので集まったのが先日の大阪でのサミットでした。
助け合いは本来市民の間でやるもので、国のほうから仕掛けてやるというのは、どちらかというと後進国的なやり方ですよね。ですが背に腹は代えられないから日本では市民側も協力してやっている。その中で、少なくとも仕掛ける側は絶対に仕切ってはいけない。住民も言われたからやる、というのではいけない。仕掛ける仕組みにはしたけれどいかに自主的に自発的に皆が動き、助け合うようにもっていくかが大切。助け合いを進める自治会長、民生委員、NPOといった民間の方々にはやらされ感があるんですよね。でも、やらされ感があると本物になれない。いかにやらされ感なしに、自発的にやるような仕掛け方をするかが大切。なので、彼ら自身がどれだけ先日のサミットのあの場に参加してくれるかがまず試金石で、そこを心配していました。実際には想定外の申込があり、2,700人定員だったのですが、締切日前に定員に達してしまいました。「自分たちで学んでいこう」とやらされ感がなくなってきましたし、一般住民のほうも「これはやるっきゃない」と動き出していている。いろんな有償ボランティアのアイディアが生まれたり、NPOを作ったりと自分たちから動き出し、その成果が出てきていて、それが集まってくれた人たちにとっては嬉しいのです。だからあの場で皆が生き生きと体験を語り合ってくれている。助け合いなので地域によってニーズもやり方もバラバラなんですけど、いろいろと情報交換をして、学んでくれる。各自治体からポスターを出してもらったのを、一生懸命みんなで勉強し、説明を聞いてくれている。最初の仕掛けは国側からなのだけど、本物の動きになりつつあるな、と感じました。それが本当に一番感激だったですね。

鵜尾:サミットのポスター・セッションのときに、歩いているといろいろな自治体の方に、「うち、こんなことやっているんです」といろいろつかまってしまいました。やらされ感があると絶対そういうことはない。自分たちのことを伝えて、お互いに教えあって、いい助け合いをしていこうという内発的なものが一堂に会したので、参加した人たちにとって、地域に帰った時も一人じゃない、全国の見えないところで仲間が同じようにモチベーションを持って助け合っているんだ、と勇気づけられるような雰囲気があの空間に集結していましたよね。

[「いきがい・助け合いサミット in 大阪」でのポスターセッションの様子]

堀田:そう感じてもらったなら嬉しいですよ。私もあの状況を見て感動しましたね。何か勉強して、何か持って帰りたい、そういう意欲があふれていました。

鵜尾:先ほど堀田先生がおっしゃっていたような政府からの流れがあって、地域での一人ひとりのモチベーションがあり、能動的に動き、参加した人が自分がやっていることを持ち寄り合って、あのような雰囲気を作っていくということですね。あの場にいることができて本当に嬉しいです。

共助社会の復活には寄付が必要

堀田:今回の大会では、いろいろな角度から出ている問題を分科会のテーマで取り上げましたが、その重要な角度として「寄付・遺贈」というテーマを設け、鵜尾さんや早瀬 昇さん(社会福祉法人大阪ボランティア協会理事長)ら先達にパネリストとして参加いただきました。この助け合いの事業は、国が補助金を出して団体を作っていこうという仕組みですが、全部補助金での運営ですと、その団体はなかなか自主性が持てない。そしてその補助金を出すのは自治体、行政ですから、補助金の性質上、使途を確認して議会に報告しなくてはいけない。そこにどうしても仕切りが入って、自律的な活動が難しいという課題があります。例えば補助金が出せるのは高齢者向けの活動ですよ、となると高齢者が入っていないとだめで、子どもたち、障がい者だけではだめなんです、といわれます。そのマイナス面をなくすためには、各コーディネーターが寄付金を集めてその寄付金で助け合いをする活動を行うというところまでいかないと、仕組みとしてはどうしてもマイナス要素を抱えたままとなる。ですから、なんとかその方向に進んでほしいと思って寄付の集め方の一番基本を今回分科会でやっていただいたのです。でも、まだ実態はまだまだです。寄付まで集めている協議体はありますけど、まだほんの例外的です。最終的には寄付を集めて、もう行政の補助はいらないよ、というところまで持っていきたいというのがこちらの狙いです。

鵜尾:日本の福祉の未来、高齢者になっても、障がい者になっても安心して暮らせる社会、というものを少子高齢化の流れの中で実現しようしたときに、いかに自発的に助け合いに参加してくれるかという話と、もう一つは財政というお金の話が重要になってくるという話なのでしょうか。

堀田:
そうなってきますね。方向性としては、我々は助け合いは自発的、自律的にやりたい、行政は引いてくれればいい、と思っています。医療や身体介助のような専門的なものは介護保険医療保険でやってもらわないといけないのですが、掃除や洗濯、調理、買い物などはみんなの生活上必要な行為として昔から助け合いでやっているわけですから、それは国が言わなくても自発的にやりますよ、といえるところまで社会をもっていくのが私どもの究極の目的です。人間の歴史といえば大げさになりますけど、明治のころまでは生活を税金で藩主にみてもらうなんてありえない。隣近所で支えあって生きてきたわけです。その支え合いになかなか入れない人たちのことを考えると、国がだんだんそちらのほうまで税金でやるようになってきたのは、悪いとは言いませんが、自助、共助、公助とあるなかの共助を吹っ飛ばして公助でやる仕組みに急激に進んできました。つまり人は自助で自分で稼いで生きていき、やれないところは税金でみてもらうという生き方に、わずか2世紀の間に変わってきてしまった。日本では戦後もまだ三丁目の夕日…の映画のように助け合って生活してきたのが、1960年代高度成長期ぐらいから自助と公助だけの冷たい方向に進みだし、体の安心は保証されるのですが人間とのつながりが希薄になり、生きる張り合いみたいなものがない、自助の力の強い人たちだけが社会的に評価される、そういう社会になってきています。それは人間の個性の確立、個人の尊重の方向から言えば大変な進歩なのですが、その個人の確立を強調するあまりに自立できない弱い人は切り捨てる、あるいはそこを公助で見るけれども、それゆえに劣等感を抱えて生きる人たちが多くなってきた。その後もその人たちの持っている能力が高度技術社会でなかなか受け入れてもらえない、稼ぐために能力を生かせない、そういう人たちが増えています。これは明らかに人類として行き過ぎています。個人主義は大切で、個人意識を尊重し、自助を大切とするところはしっかり活かしながら、もう一度、どんな人であっても、尊重して助け合えるところは助け合うという、みんなにとって快い、共助のある社会を取り戻したい、それが今、この事業をやっている一番の目的なのです。企業活動は自助の仕組みでこれは経済に結びついているからいいのですが、助け合いというのは経済と直接結びつかない非営利の世界です。ですからそこにかかるお金は基本はやはり寄付でまかなう性質のものなので、寄付がないと共助社会の復活はあり得ない、という関係にある。ですから鵜尾さんの進める寄付社会が広がってくれることが、我々にとってもとても必要なことになります。

鵜尾:共助の復活は寄付がないとあり得ないということは、私もその通りだなと思いました。財政赤字が厳しいので介護保険をどんどん切り詰めてやっていかなくてはならない、そうするとどんどんサービスのレベルが下がっていくことが将来想定されるではないですか。それを埋める共助ではなく、よりあったかい社会になる共助、むしろ財政赤字で行政のサービスが減っているのも関わらず、前よりも温かい福祉を実現する。それは何かというと思いのある人間がかかわって実現するからで、それが連鎖を生んで進む社会が望まれる。時間軸でみると、人生誰もが必ず高齢者になるし、認知症になる確率は高い、福祉施設に入る可能性もあるし交通事故で障がい者になるかもしれないし、家族に障がい者がいるかもしれないし、いろいろなことがあるわけではないですか。家族を含めて、人生で一回も助けてもらわないまま人生を終わる確率はものすごく低くて、いまたまたまそうじゃないかというような。今誰かを助けることで、自分も将来助けてもらえる社会が必要ですね。

堀田:ほんとにそうですね。
(第2回に続く)

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