投稿日:2018年11月15日

スペシャルパートナー対談、第二弾! 「社会貢献を日常の一部に。メディア企業としての可能性を自らに問い続けるヤフーの挑戦」

今年開設15周年を迎える「Yahoo!ネット募金」。スペシャルパートナー対談第二回の今回は、ヤフー株式会社社会貢献事業本部長兼政策企画本部長の妹尾正仁氏(写真中央)と社会貢献事業本部/Yahoo!ネット募金・ボランティアサービスマネージャーの井手章博氏(当時・写真右)をお迎えしてお話を伺います。聞き手は、日本ファンドレイジング協会代表理事の鵜尾雅隆(写真左)です。

プロフィール

ヤフー株式会社 社会貢献事業本部 妹尾 正仁/井手 章博

聞き手

日本ファンドレイジング協会 代表理事 鵜尾 雅隆

※スペシャルパートナーは、寄付・社会的投資が進む社会の実現のために、日本ファンドレイジング協会と一緒にチャレンジする法人パートナーです。

ITを使って広く「力」を集め、社会貢献につなげる

鵜尾:御社は、インターネットを活用した社会貢献の黎明期から「Yahoo!ネット募金」や「Yahoo!ボランティア」に取り組み、時代を牽引する役割を担ってこられました。今日は、『ヤフーとソーシャル社会貢献』 という軸でお話をお伺いしたいと思います。最初に、御社の社会貢献の取り組みを教えてください。

妹尾:一般的な企業と同じように社会貢献部門で行う環境配慮、人権配慮などの取り組みも行っていますが、ヤフーはウェブサービス業であり、本業に近い形で「Yahoo!ネット募金」や「Yahoo!ボランティア」、「エールマーケット」、「Yahoo!きっず」といった活動に取り組んでいるのが特徴として挙げられます。その中でも、世の中の皆さんに最も使っていただいているサービスが「Yahoo!ネット募金」です。ネット募金は、ヤフーのインターネットサービス上で気軽に寄付ができる仕組みで、ポイントを使って寄付をすることもできます。
これらの事業すべてに通じることですが、ヤフーはITを使って広く「力」を集めるのが得意な企業であり、それを社会貢献につなげることができていると思います。

 

鵜尾:現在、Yahoo!ネット募金の規模はどれくらいですか?

井手:これまでの累計寄付額は、約50億円(2018年10月末時点)です。この数字は、自治体のオークションなどは入っていない純粋な寄付の金額です。昨年は、1年間で150万人が「Yahoo!ネット募金」を使って寄付をしました。のべ数ですが国民の1%以上がヤフーで年1回以上寄付している計算になります。今年も西日本豪雨災害や北海道での地震がありましたので、100万人の方にご寄付をいただきました。インターネット上の寄付サイトの中で「Yahoo!ネット募金」は、国内最大規模と言えます。

鵜尾:年間150万人が社会貢献したいときに気軽に寄付できるプラットフォームということですね。今では当たり前となったインターネットを使った寄付ですが、御社のインターネットを使った社会貢献の始まりは2004年、まだ草創期の時期ですね。その頃から先駆的な事業を展開されてきたことに、時代的な価値を感じます。

妹尾:いまの代表取締役社長の川邊健太郎らが、2001年のアメリカ同時多発テロの際、インターネットを通じて募金が集まっていることを目にして、インターネットを利用した寄付の可能性に気がついたのがきっかけです。日本で実際にサービスを開始したのは2004年の中越地震からです。「Yahoo!ネット募金」は、今年で15周年になります。

メディア企業として災害時の更なる役割を問い、
生まれたアライアンス「SEMA」

鵜尾:先ほど御社の社会貢献の軸となるサービスのお話がありました。「Yahoo!ネット募金」や「Yahoo!ボランティア」、東北をはじめとする全国の生産者を買い物で応援(エール)する「エールマーケット」、子どものための検索サービス「Yahoo!きっず」。さらにここに新しい軸となる「SEMA(シーマ)」が加わりましたね。

妹尾:「Yahoo!ネット募金」や「Yahoo!基金」という助成財団は、災害時に注目され大きな力を発揮します。しかし2011年の東日本大震災の経験から、メディア企業として災害時に更なる役割があるのでは、と模索してきました。ただ、次の段階を考えている最中に熊本地震が起きてしまいました。

立て続けに起こる大きな災害に、急ぎNPOと民間企業を巻き込んで立ち上げたのが緊急災害対応アライアンス「SEMA(Social Emergency Management Alliance)」です。これは、被災地に物資を送るためのシステムです。被災地のNPOから提供された一次情報をもとに、加盟企業はそれぞれの得意分野を持ち寄り、NPOを通じて被災地に物資を届けます。7月の西日本豪雨災害の際に、初めて本格的に稼働した仕組みです。



SEMAの活動概要、NPOが情報を収集し、企業は物資を集積する

鵜尾:適切なタイミングと場所に、適切な物資を届ける、まさにネット企業ならではの迅速さを活かした取り組みですね。参加している企業は、御社が声掛けをしたのですか?

妹尾:最初は当社から声掛けし、今では加盟企業同士で声を掛け合ったり、報道を見た企業から直接ご連絡をいただいています。

鵜尾:自然に広がっている感じですね。今までの日本にない大変興味深い社会貢献のかたちです。全体の調整はどのようにされているのですか?

妹尾:ヤフーの中に事務局はありますが、あえて法人化していません。緊急対応のための「アライアンス」なので、組織や意思決定をあえて定めない、緩やかな体制にしています。NPO・企業・行政、、、いろいろな人たちと一緒にやろうよ、という社風がもともと当社にはあるのだと思います。

みんなが参加しやすい空間を作り、人と情報の交差点を生み出す

鵜尾:御社は空間設計が実にうまい。「LODGE(ロッジ)」を見ても思うことなのですが、リアルなロッジもプラットフォームのSEMAもそうですね。みんなが参加しやすい空間を作っている。社会貢献活動の面でも、ソーシャルセクターはその恩恵を受けていると感じています。

井手:私たちヤフーは、自社が非営利活動をしているわけではないので、いかにNPOの活動にヤフーを通して光を当て、多くの人の目にふれさせるか、という役割を担っていると思っています。また、ヤフーは膨大なデータを蓄積していますので、どうすれば難しい課題をユーザーに分かりやすく伝えることができるか、そのような知見をアウトプットしていきたいと考えています。伝え方によって、その効果は何倍にも相乗効果をもって広がっていきます。


紀尾井町の「LODGE」、一日中さまざまな人が行き交う空間

鵜尾:当協会をはじめソーシャルセクターは、ヤフーLODGEを頻繁に利用させていただいています。

妹尾:ソーシャルセクターの皆さんに使っていただけているのは狙い通りです。一般企業やベンチャーとソーシャルセクターの皆さんは、なかなか出会う機会がないので、大いに使っていただきたいと思っています。ロッジは、「情報と人の交差点」です。ヤフーをよく知って仕掛けていただく。場所を使うだけでなく、私たちと一緒に取り組むことで、ヤフーをより知っていただく場所にしていきたいと思っています。また、もちろんソーシャルセクターの皆さんもLODGEで作業等を行っている他の会社や団体、フリーランスの方々と交流してもらいたいですね。

鵜尾:場所を使うだけでなく、ヤフーと一緒に取り組む、そういう交差点ですね。

スケール感をもたせ、社会貢献を日常の一部に

妹尾:プラットフォームといえば、協会が共同事務局になっている「寄付月間」も、わかりやすく乗りやすいという意味で同様の取り組みと言えるのではないでしょうか?

鵜尾:寄付月間が始まったきっかけは、御社の社員の方が、2012年にアメリカで始まった寄付の日を設けようという社会的なムーブメントである「Giving Tuesday」のような取り組みを日本でやりませんかと、相談にみえたことでした。私自身、Giving Tuesdayのような試みをいつか日本でもやりたいと機会を伺っていたタイミングでした。そこで、40団体を募ってプロジェクトを立ち上げたのが寄付月間の始まりです。良い流れ生み出すきっかけをつくっていただいたと思っています。



井手:社会貢献活動は、ある程度のスケール感がないとマイナーあるいはマイノリティな活動にとらえられがちだと思います。規模感を大きくすることでメジャー化すると、それは特別な事ではなくなります。ヤフーが持っているメディア力を活かして一緒に成長していきたいのです。社会貢献が日常の一部になっていく、そんな世の中になるための企業活動をしていきたいと思っています。

鵜尾:なるほど、スケール感ですね。150万人が日常的に当たり前のこととして寄付し、寄付してよかったなと思える、当たり前の社会貢献。エッジのたったものでなく、すっと入りやすい仕組み。これは御社の社会貢献の底流に流れているものですね。

ネットのセキュリティを守り、安全なサービスを提供する、
それがIT企業であるヤフーの最も重要な社会的責任だと思っています

鵜尾:今後についてのお考えをお聞かせください。これからソーシャルな面で実現したいこと、考えていることはありますか?



妹尾:IT企業として、新しい技術に対応していく必要があると思っています。社会貢献の方法も時代に即して変わっていきます。AIやキャッシュレスといった新しい技術を活用しながら、より一層社会が良い方向に向かうようにしていきたいと思っています。

ヤフー全体としては、日本のIT企業として、「信頼性確保」についてより一層責任が重くなると感じています。より本質的に本来あるべき姿の追及する必要があります。ある機会に、CSRの専門家に「ヤフーのCSRにとって何か一番重要か?」と訊いたことがあります。間髪入れずに返ってきた答えは、「(データ)セキュリティ」でした。
ハッとしましたね。お客さまデータなどのセキュリティを守り、安心安全なサービスを提供する、これがヤフーの社会的責任の一丁目一番地です。

鵜尾:ヤフーが生み出している社会的価値は、インターネットのセキュリティを守る「信頼性確保」だということですね。企業のコアコンピタンスをしっかりと持ちながら、ヤフーの本来的本質的にやるべきことの延長線上で社会貢献にも取り組んでいく。社会の中での役割とヤフーの特色がシンクロしている感じですね。

ヤフーはネットで、協会はリアルで。
両輪となって寄付を身近なものにしていく

鵜尾:スペシャルパートナーとして日本ファンドレイジング協会に期待することは何でしょうか?



井手:かつて寄付は余剰のものを足りないところに渡すものが大半だったと思いますが、これからは、遺贈、ふるさと納税などに代表されるような「意志」が大切になってきます。日本ファンドレイジング協会が大切にしている「寄付=社会に渡す」という意志をより一般化して、寄付市場10兆円時代を実現してほしいと思います。

鵜尾:「お金に意志をもたせて社会に活かす」、そう考えるきっかけをつくる試みとして、当協会では社会貢献教育に取り組んでいます。これまで日本では、人生の中で能動的に意思を持ってお金の使い方を考えるという金融教育があまり行われてきませんでした。パラダイム転換としての社会貢献教育の必要性が高まっていると再認識しています。学びの機会を提供する私たちの取り組みと、「Yahoo!ネット募金」という150万人の人々が寄付の実体験を積むプラットフォーム。「教育と実体験」、そういう循環ができると良いですね。

井手:ヤフーはリアルなイベントは不得意です。協会には官民を巻き込んだ「寄付月間」や「ファンドレイジング・日本」などの取り組みをどんどん推し進めて欲しいと思っています。ヤフーはネットで、協会はリアルで、車の両輪のようにお互い進めていくことで、ユーザーにとって、寄付がより身近なものになっていきます。

寄付もボランティアも、一回目の行動を起こすと二回目に行動を起こすハードルは下がると言われています。イベントでの出会いで、人生が変わる人もいます。イベントは情報の交差点です。様々な企業や人々が交差するところで新しいことが生まれると感じています。協会には、そういう最初のきっかけを作ってほしいですね。

世の中はゆっくりでも確実に変わっています

鵜尾:まさにリアルな空間を作っていきたいと思っています。当協会の会員数は1700名を超え、ファンドレイザーの資格保有者は今年1000人を突破しました。営利・非営利を問わず、社会のために何かしたいと考える人が集うコミュニティです。
最後に読者に向けて、メッセージをお願いします。川邊さんの想いから始まって、そのDNAを受け継いで情熱を持って新しいものを生み出そうとしている妹尾さん、井手さんからのメッセージを聞かせて下さい。



妹尾:今のご時世、日々インターネットからインパクトのあるものが繰り返し目に入って来ます。目立つものに目が行き、左右されやすい環境です。課題が目の前にあり、変わりたいけど変わらない現実がある中で、目の前のスマホ画面からの情報の量と速さと、自分が実際に向き合っている世の中の動きの規模やスピード感にギャップを感じて無力感に苛まれることもあると思います。

しかし、世の中はゆっくりであっても確実に変わっています。2003年には「Yahoo!ネット募金」は存在すらしなかった。当初は年間4~5千万円だった寄付額が、3〜4億の規模で増えていき、これまで累計で50億円にせまる寄付が集まっています。
寄付月間も4年目を迎え日本社会に浸透し始めています。確実に社会を変えています。「世の中はゆっくりであっても、必ず少しずつ良くなっている(するんだ)」と信じて頑張ってほしいです。自分も頑張っていきます。

井手:NPOは社会課題の解決のためにとても良い活動を行っています。それを、活動だけでなく、プロモーションとセットで取り組んでいただきたいと思っています。活動をユーザーに伝え、そしてユーザーが行動を起こすまでがひとつのセットです。自分たちの取り組みに巻き込みたい人を思い描きながら活動して欲しいです。ヤフーもプロモーションの部分をぜひお手伝いしたいと思っています。



鵜尾:イメージ・姿も思い描きながら、全体のソリューションを考える必要があるということですね。ファンドレイジングの本質に通じますね。誰と一緒に、何を伝えたいか。150万人の人々に伝えていくことを考えていきたいと思います。今日はありがとうございました!

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