実践者との対話と学びで見えてきたコレクティブ・インパクトの行間、全4回でお送りしているジャーナルの3回目は、「共通のアジェンダ作りからはじめるのは、誤り。その前にしなければならないこと」です。
共通のアジェンダは、社会課題を解決したいと思っている人の共同体(≠協働体)の共通言語・ゴールのようなものであり、その共同体が取り組もうとしているものが、「なぜ緊急かつ重要な問題」であり、「何」を「どうやって」達成するかを表現しているものです。サイオン氏は「コモンアジェンダに固定の型はなく、参加団体内で目指す中長期・短期の目的や取り組み内容、運営・行動指針等大事にしたい価値観を入れることが大事」であると述べています。ゆえに、いわゆる戦略計画以前のものであり、共通のアジェンダを作成するプロセス自体にも大きな価値があります。また、社会課題を解決したいと思っている人が目指す社会課題は、その問題に関心がない人やグループが実はシステムとして相互作用を起こし、影響を与えている可能性があります。その時、今テーブルについている人たちだけでは、起こしたい変化や社会課題の解決は不可能かもしれません。そのときは地域はコミュニティにおける力関係やダイナミクスなどをよくアセスメントしていくことも重要です。
このシリーズの始めから何度も述べていますが、コレクティブ・インパクトはシステムの変化を重視しているため、社会課題の解決を考えるにあたり、多様な声を聞く必要があります。このプロセスを前に進めていくために、誰かがリーダーシップを発揮する必要がありますが、そのリーダーが共通のアジェンダを策定するのではないことも念頭に入れるべきです。コミットメントを引き出すには、上から「ーーをしてください」という協力の要請の仕方では限界があります。関わる人たちが、何ができるのかを引き出していく必要があり、そのすでにあるコミュニティの力や、問題解決能力、また目指す変化に向けて足りないものを、しっかりとアセスメントしなければなりません。コレクティブ・インパクトでは、これをコレクティブ・インパクトを起こすためのreadiness(準備)の把握ということで、とても重要なプロセスだと位置づけており、たとえばその地域で今までその課題に取り組んできた人たちは誰なのか、誰が影響力を持っているのかなどにアンテナをはり、重要なステークホルダーに参加を促していきます。チームが感じている課題の緊急性についての認識がコミュニティの中でずれていたり、重要なステークホルダーが参画しないときは、認識の目線あわせや説明が必要で、そのプロセスを飛び越えて共通のアジェンダを作ったとしても、最終的にうまくいかないということが、過去の事例から明らかになっています。このプロセスでは一緒にシステムマップを描いてみたり、このコミュニティに何が起きているのかということを共有することが必要ではないでしょうか。
「インパクト」という言葉や「システムレベルでの変化」という言葉にひきずられて、「大きな変化を起こさねばならない」ということにひっぱられがちということも、コレクティブ・インパクトの誤解のひとつとも言えます。コレクティブ・インパクトのreadinessの把握を的確にしていくためには、自分や自団体、もしくは最初に集ったメンバーによって、現実的にコミュニケーションや利用可能なデータの把握できる範囲から始めるのが、自然であると言えます。それ以上を目指すときには、readinessの観点からまずはそれが可能なのかのアセスメントをすることが必要だといえるかもしれません。また「広げて」いくことだけでなく「深めていく」ことも、考え方のひとつであり、コレクティブ・インパクトの研究や支援を行っているリズ・ウィーバー女史は「inch deep mile wide」も「mile deep inch wide」も両方がコレクティブ・インパクトの考え方の傘下にあるもので、課題や関係者の多さなどによって、readinessの高め方も変わってくるということを考えなければならないと、話していました。同時に、「インパクト」という言葉には、様々な解釈がありますが、常に長期的な変化・成果をさすだけでなく、短期的な変化・成果をさすこともあります。また、ポジティブな成果だけでなく、ネガティブな成果という考え方もあり、数値化が絶対という人もいれば、質的なものも含めた成果という考え方もあります。特に、多様な主体と一緒に起こすコレクティブ・インパクトにおいては、この「インパクト」という言葉の目線あわせも、特に外来語として定着している日本においては、見落とされがちなことかもしれません。
次回は「コレクティブ・インパクトの実現に必要なエッセンス:協働という鏡に映る自分」について、実践者との対話の中で見えてきたことをお届けします。
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