投稿日:2022年4月8日

地域づくりにファンドレイジングはどう活きるか【ローカルSDGs×ファンドレイジングの可能性をさぐるシリーズ3】

これまで、「ローカルSDGs×ファンドレイジングの可能性をさぐる」と題して、「地域循環共生圏」の概念や事例についてご紹介してきました。今回は、かみかつ茅葺学校が行ったクラウドファンディングをファンドレイジングの視点で深堀りし、地域循環共生圏づくりにおけるファンドレイジングの可能性を考えていきます。

【前回までの記事】
シリーズ1|地域循環共生圏(ローカルSDGs)とはなにか
シリーズ2|先進事例からみる地域循環共生圏

プロフィール

坂本 真里子
かみかつ茅葺き学校 事務局長
徳島県小松島市生まれ。大学を卒業後、企業の総合職を6年間経験後離職。兵庫県立淡路景観園芸学校専門課程に入学、修了後、帰郷。2006年上勝町に移住、徳島県立高丸山千年の森の指定管理者を地域住民と協働で担う。結婚・出産を機に離職、移住。協働をテーマに2012年徳島大学博士後期課程に社会人入学、修了。上勝町内を拠点とするシンクタンクでの経験後、協働のまちづくりをテーマに、複数のプロジェクトに関与。

藤井 園苗
かみかつ茅葺き学校事務局/上勝町ゼロ・ウェイスト推進員
徳島県藍住町生まれ。大学進学のため徳島を離れ、卒業後は航空自衛隊で働くが、郷里に戻りたい思いが募り2007年に帰郷。上勝町役場と協働でゼロ・ウェイストを推進するNPOに就職するため2008年に上勝町へ移住。町内におけるゼロ・ウェイスト政策の企画実行、町外に対する普及啓発を現場で2015年まで指揮を執る。その後、上勝町内でなんでも屋をしながら、「かみかつ茅葺き学校」でゼロ・ウェイストな暮らしを知ってもらう活動に関わっている。

佐々木 真二郎
環境省大臣官房環境計画課企画調査室長
2002年、環境省に入省。環境省レンジャーとして、国立公園や世界自然遺産の保全管理、希少野生生物の保護を担当。東日本大震災では、自然環境を活かして復興に貢献する「グリーン復興プロジェクト」として、みちのく潮風トレイルの整備などにかかわる。また、2017年から2019年まで福井県自然環境課長として、年縞(ねんこう)博物館の建設、コウノトリの野生復帰事業や自然再生事業を担当。2020年7月より現職。

江口 健介
一般社団法人環境パートナーシップ会議(EPC)リーダー
神奈川県生まれ。大学在学中、国際青年環境NGO A SEED JAPANに所属し環境活動を始める。大学卒業後、ベンチャー企業勤務を経て、2013年より現職。日本全国の環境パートナーシップ形成に関わる。
聞き手

久保 匠
認定NPO法人日本ファンドレイジング協会 プログラム・オフィサー
北海道旭川市生まれ。大学卒業後、愛知県知多半島に拠点を置く福祉系NPO法人に就職し、障害者支援、地域包括ケアシステム構築に携わる。その中で、「制度の狭間」にニーズに応えるためにファンドレイザーへの道を志す。2018年4月より日本ファンドレイジング協会に参画し、法人向けのファンドレイジング力向上プログラムの事業を担当している。中京大学非常勤講師、(一社)アンビシャス・ネットワーク理事、(特非)きっかけ食堂理事、環境省中部環境パートナーシップオフィス協働コーディネーター等も務める。

地域の未来をつくるためのファンドレイジングという視点

久保:最初に、ファンドレイジングとは何かということを少しお話したいと思います。ファンドレイジングとは、単に非営利組織の資金調達の方法論を考えることではありません。
ありたい地域の姿や実現したい未来等の「ビジョン」を明確にし、それを実現するために「共感」を軸に多様な資金を獲得することがファンドレイジングの意義になります。

地域や社会のより良い未来を描き、それを実現するために、多くの人と協力しながら、その中で自団体が果たすべき役割とは何かを明確化するプロセスが極めて重要になります。

江口:地域循環共生圏のコンセプトにおける「事業化」というキーワードも、ただ単に商品を開発し、販売することで経済を循環させ、雇用を生むということではありません。地域の中の多様な主体とともに、枠を越えてつながり、環境・経済・社会のどの視点も同時に見つめながら、持続的な地域づくりを実現していこうというものです。

ファンドレイジングが「共感」を軸とするという考え方は、地域循環共生圏で大切にされているものと共通しています。地域循環共生圏の取り組みが、地域の複雑性を包含した地域づくりに貢献するためにも、ファンドレイジングという切り口を通じて、具体的な方法を考えていきたいと思います。

多様な関わり方を示し、心地よい参加の仕方を選択できるように

藤井:かみかつ茅葺き学校は、日本初ゼロ・ウェイスト宣言を行った徳島県上勝町にある、茅葺き民家・旧花野邸を拠点に、昔ながらの暮らしや遊び体験を提供している団体です。
今回、「ゼロ・ウェイストな暮らし体験ができる茅葺き民家を守りたい」というクラウドファンディングを実施しました。結果として、99名の方から、136万3千円のご寄付をいただき、プロジェクトを成功させることができました。

あらためてご支援をいただいた方々を見てみると、新規の支援者よりも、普段から茅葺き学校という取り組みを知っていてくださり、賛同してくださる方からのご支援の割合が高かったです。

江口:同じ地域の中で、もともと関係性がある人に対して「寄付をください」と言いづらいということはありませんでしたか?

藤井:今回のクラウドファンディングでは、私たちから地域の方々に直接的に支援をお願いすることはありませんでした。地元住民の方の多くが読んでいるローカル新聞で取り上げていただいたり、SNSで広報をしましたが、情報を知った方が自主的に「支援したい!」と思ってくださる気持ちを大切にしたいと考えました。

坂本:今回のクラウドファンディングでは、私たちの集落や茅葺学校に関わるプログラムへの参加の機会を返礼品として設定しました。そうすることで、ご支援いただいた方が集落に足を運び、関わるきっかけをつくりたいと考えたからです。ですが、中には「寄付はするが、返礼品は不要です」とおっしゃる方もいました。

プロジェクトページはこちら

藤井:もちろん、多くの人に活動を知っていただき、支援を得たいという気持ちはありましたが、それ以上に「多様な関わり方を示し、その人が心地よい参加の仕方を選択できるようにしたい」という気持ちがありました。

クラウドファンディングでつながった支援者の方に、次のステップをご案内することもしていません。かみかつ茅葺学校に関心を持って、積極的に関わりたいと思ってくださる方が、それぞれの主体性を大切にアクションすることに価値があると思いますし、結果的にそれが「心地よい場づくり」につながっていくと考えています。

ご支援をいただいた方の中には、「寄付はするけど、名前は出してほしくない」とおっしゃる方もいれば、「茅葺学校に足を運びたい」という方もいました。

また、大口の寄付をしてくださったある法人は、かみかつ茅葺学校をフィールドに事業を展開したいという想いを持って「投資」をしてくださいました。このように、それぞれの方の動機にもとづいた関わり方があります。

佐々木:支援者1人ひとりの気持ちに寄り添いながら、関わり方に幅をもうけていることが素晴らしいと思いました。支援者の気持ちを第一に考えた上で、日頃の対話を十分に行っているからこそできることだと感じます。

地域循環共生圏では、「共生のネットワーク」が大切であると言われています。これは、それぞれ得意分野を持っている人に支えてもらえる関係性を紡いでいくことで、取り組みを広げていくことを指しています。かみかつ茅葺学校は、一人ひとりとの丁寧な対話を通じて、多様な関わり方を用意しています。

この活動が地域にどのような価値を生むのか

坂本:最初は、棚田の景観を守りたい、茅葺きという伝統を守りたい、と活動を始めましたが、活動の持続性を考えたときに、なかなか成功しているという手応えが得られなかったです。色々な人たちと議論していく中で、茅葺き学校というのは、手段であって、最終的には、山の資源を活用した持続可能な集落をつくるということになりました。

藤井:かみかつ茅葺学校が活動を継続することで、1人でも多くの人が集落に住みたいと思ってくれたり、景観や棚田を守りたいと思う人が増えたり、地元の人が持続可能な集落をつくることを自分ごととして考えてくれることが大切であると感じています。

佐々木:坂本さんから、最初からそういうビジョンがあったわけではなく、実践していく中で、対話を重ねて、結果としてそうなったという話がありましたが、その点がとても重要だと思います。当事者がいない中でビジョンを決めてしまうのではなく、一緒に取り組み、実践していく中で、ビジョンをブラッシュアップしていくことが大切であると感じました。

久保:ファンドレイジング戦略を設計する際にも、自団体の目標だけでなく、「地域・社会をどのように変えたいのか」を明確に語ることが大切とされます。そのビジョンを広く発信し、愚直に実現を目指し続けることで、多くの人から共感が集まり、「大切なお金を託していただける団体」へ成長していけると考えています。

このように、「団体の目標」から、「社会のビジョン」へと昇華させるプロセスは、ファンドレイザーにとって大きな役割の一つであると言えます。

「ビジョン」と「地域の主体性」のバランスが大切

久保:ファンドレイジングでは、関係性の深い人こそ、真っ先に支援をお願いすることが多いと思います。また、クラウドファンディングで支援してくださった人を、いかに次のご支援(別の寄付メニューなど)につなげられるかを丁寧に設計していきます。教科書的には、そういった「戦略性」が大切とされる一方で、地域での関係性においては、もう少し緩やかなコミュニケーションが適している場合もあるのですね。

坂本:地域において、一人ひとりの想いと向き合い、人と資源をコーディネートしながら、変化を生み出す仕事は、やりがいもある一方で、とても時間と労力がかかると感じています。

江口:地域を変える取り組みというのは、教科書通りにいかないケースもあると感じています。だからこそ、「結果」や「手法」だけを見せるのではなく、なぜその結果に至ったのかという「プロセス」を可視化して、受け手自身が考えることが大切であると感じています。

また、「持続可能な地域をつくる」という大義だけでは人は動きません。かみかつ茅葺学校は、「持続可能な集落をつくる」という大きなビジョンを掲げつつ、様々なステークホルダーが自ら動機づけを行い、主体的に関わることができる仕組みをつくっています。地域づくりに関わる取り組みでは、これらのバランスが大切であると感じました。

【関連記事】ローカルSDGs×ファンドレイジングの可能性をさぐるシリーズ
(1)地域循環共生圏(ローカルSDGs)とはなにか
(2)先進事例からみる地域循環共生圏
(3)地域づくりにファンドレイジングはどう活きるか

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