世界各地で相次ぐ紛争や災害を背景として国境を越えた支援のニーズが高まる一方で、日本の国際協力NGOの多くが資金不足を課題として挙げています。「特集・国際協力NGOのファンドレイジング〜“遠く”の社会課題に関心と参加を生み出す方法〜その最前線を探る」と題して、国際協力NGOのファンドレイジングの第一線で活躍する4人のファンドレイザーに対談形式でお話をお聞きします。
第1回のテーマは「伝える力」。現地との間に距離がある国際協力NGO特有のファンドレイジングにおいて、伝えたいこと、伝えなければならないこととは何かについて考えます。
(聞き手は認定NPO法人日本ファンドレイジング協会 国際協力エコシステムプロジェクト リーダー・井川定一さん)
第1回「国際協力NGOのファンドレイザーに求められる「伝える力」」
第2回「国際協力NGOのファンドレイジングに求められる「寄付倫理」」
第3回「国際協力NGOのファンドレイジング、カリスマ頼みはダメですか?」
井川定一さん(以下、井川):お一人ずつ簡単に自己紹介と、それぞれ取り組まれているファンドレイジングについて教えてください。
大西冬馬さん(以下、大西):難民支援を行う国連UNHCR協会のファンドレイザーの大西冬馬です。「Face to Face」といって、駅前や商業施設などで一人ひとりに声をかけて、足を止めてくださった方に、UNHCRのことや難民支援のことをお話しして、マンスリーサポーターを募るファンドレイジングに、2016年から従事しています。
Face to Faceのファンドレイジングは、日本では大手の国際協力NGOが行うことが多いですが、自分がこれまで培ってきた知識や経験は、分野を問わず、寄付者と一対一のコミュニケーションを伴うあらゆる場面で使えるスキルだと考えています。Face to Faceというファンドレイジングの手法の中から、対面コミュニケーション全体に通じる価値を切り取って「1on1ファンドレイジング」という名前にして、例えば遺贈寄付であれば寄付者と、法人寄付であれば企業担当者とのコミュニケーションなど、さまざまな場面で使えるような汎用的なスキルにしていこうという取り組みを行っています。
鈴木:国際協力分野では、現場が離れているからこそ、寄付者に現地のことを理解してもらったり、本当に必要な支援に誘導する力がファンドレイザーに求められるのではないかと思います。例えば、現地のことをあまりよく知らない企業から、現地のニーズに合わない支援をしたいと言われることがあります。駐在員としては現地のニーズを本部に伝えるものの、本部としては支援者さんの気持ちも大事にしたいという想いもあり、妥協点を探った結果、現地のニーズにあまり合っていない支援を受け入れることもあります。
五十嵐:今の話を聞いて思い出したのですが、日本で大量に余ってしまったTシャツをアフリカのとある国に送って現地の人が着ていたことがありましたね。それはそれで現地の人は喜んでくれたのですが、そういう話じゃないよねと感じたことがありました。
井川:今の話はすごく重要だと思うのですが、そのときにファンドレイザーはどうすべきだったのでしょうか?
五十嵐:現地の人たちにとって何が一番大切なのかということですよね。先ほどの鈴木さんのお話にしても、古着を現地に送ることにしても、やはり基本的にはお金を送って、現地で新しい、自分たちが選んだものを買うということが、現地のニーズに一番合うし、現地経済を回すことにもつながります。尊厳であったり、経済であったり、自立性であったり、そして費用対効果であったり、すべての面でそちらの方が良いということを支援者に対してきちんと説明できるかですよね。何のための支援なのか、現地のための支援なのか、それとも寄付者のための支援なのかっていう目的意識を、明確に説明しなければいけないということです。
大西:伝える力でいうと、僕はファンドレイジングをする上で、「ナラティブ(物事や出来事に対して、人々が自分の視点や経験を通じて語ること)」をすごく大事にしています。僕にとって活動の根源は「怒り」になるのですが、国同士の争いに単にそこに生まれたというだけで巻き込まれて難民になり、そんな状況でも生きようとしている、なんとか命をつなごうとしていることが単純にすごいなっていつも思うんです。そういうところに共感して、今この仕事をやっていますということをお話していきます。ファンドレイザーであれば、自分の言葉で伝えることができることもすごく大事になってくると思います。
五十嵐:国際協力の文脈において、今は「ローカライゼーション(現地化)」が主流になっています。例えば、ひと昔前にあったような日本人が現地で汗水流して井戸を掘るといったことは時代にそぐわなくなってきています。ローカライゼーションにおいては、現地の人たちが能力強化されて、自分たちでできるようになるということのほうがよほど大事になってきます。もちろん、それが「国際交流」を目指したプログラムであれば、日本人が現地で活動しても何も違和感はないのですが、「国際支援」が目的なのであれば、ローカライゼーションという潮流に照らし合わせると違和感を覚えるところです。
井川:なるほど。そうすると、現地化の流れがある中で、日本のNGOは何のために存在していることになるのでしょうか?ファンドレイザーとして、寄付者にどのように説明すればいいのでしょう?
鈴木:日本のNGOは、日本人のために必要なんです。日本人が国際協力を行っていくことが必要だということを伝えたり、南北問題に気づかせる存在としてわれわれはあると思います。日本人に問題の存在に気づいてもらい、寄付を募るところまでが日本のNGOの役割で、実際の支援は現地で行うという役割分担でいいんだと思います。
五十嵐:もう一つは、ただ寄付をしてもらうだけでなく、日本国内でどう参加してもらうかという点ですよね。距離が離れていても近くに感じるような、一緒にパートナーとして参加しているような感覚を寄付者にどのように感じてもらうかという企画力やプレゼン力が国際協力分野のファンドレイザーにはとりわけ必要なのではないかと思います。
先ほどの古着の話にしても、古着を寄付したいという寄付者の気持ちは大切にしたいじゃないですか?その思いを大切にしながら、例えば古着を送るのではなく一緒にバザーを企画して、売上を現地に寄付したり、バザーと同時に現地の課題を伝えるイベントを企画するなど、企画力や代案を示す力が求められると思います。
さらには、寄付者だけでなく、現地の人たちをどうファンドレイジングに巻き込んでいくのかという企画力も国際協力分野のファンドレイザーに求められる資質だと思います。その過程で、知見や意識が現地に移っていき、究極的にはわれわれ抜きでも、現地の人たちが自分たちでファンドレイジングができるようになれば一番いいだろうと思います。
井川:伝える力と企画力ですよね。特に国際協力の文脈では国を越える分、現地と国内の力関係や、お金の出し手と受け手の間の力関係がある中で、きちんと伝える力が重要になってくるということですね。
第1回「国際協力NGOのファンドレイザーに求められる「伝える力」」
第2回「国際協力NGOのファンドレイジングに求められる「寄付倫理」」
第3回「国際協力NGOのファンドレイジング、カリスマ頼みはダメですか?」
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