投稿日:2021年2月26日

東日本大震災から10年、日本の寄付の現在地

宮下 真美Mami Miyashita
日本ファンドレイジング協会 事務局次長

日本人の7割近くが寄付をした2011年は、のちに「寄付元年」と呼ばることになりました。東日本大震災から10年を経て、日本の寄付はどのような変化を遂げてきたのでしょう。10年間の道のりをたどり、日本の寄付の現在地を見つめます。

日本人の約7割が寄付をした2011年

東日本大震災が発生した2011年の個人寄付総額は1兆186億円、うち震災関連の寄付は5,000億円と推計され、これは前年の個人寄付総額に匹敵する金額でした。また、寄付者率(1年に1回以上寄付した人の割合)も、震災前の33-34%前後から2倍の68.6%に跳ね上がりました。物品寄付も含めると、実に日本人の約77%が何らかの寄付をしたことを意味します。その背景には、被災地が広範囲に及び、津波・原発の被害、交通網の遮断によりボランティアが困難な状況が続いたことが挙げられます。

その結果、多くの人が寄付による支援を選んだ2011年は、後に「寄付元年」として記憶されることになりました。「一時的なもので終わる」という当時の予想に反して、翌年以降も寄付者率は震災前の水準を上回る45%前後で推移し、寄付総額も7,000億円を超える状況が今日まで続いています。


(出典)「寄付白書2017」p27 個人寄付推計総額・個人会費推計総額・金銭寄付者率の推移

震災時の寄付はどこに?6割が義援金

災害時の寄付は、大きく「義援金」と「活動支援金」に分かれます。義援金は、日本赤十字社や中央共同募金会、テレビ局・新聞各社などが集め、配分を決める公的な委員会の決定を経て、自治体を通じて被災者一人ひとりに直接配られる寄付金を指します。東日本大震災では、震災関連の寄付の約6割を義援金が占めました。

一方、被災地で支援活動を行うNPOなどへの寄付を通じて、間接的に被災者を支援する活動支援金は、受け皿となる団体があってはじめて機能する寄付を意味します。NPOやボランティアの存在が初めて注目された阪神淡路大震災(1995年)の3年後に「特定非営利活動促進法(NPO法)」が制定されて以来、活動支援金の受け手となるNPOは量的にも質的にも拡大してきました。

(出典)「寄付白書2017」p83 義援金と活動支援金の流れ

「寄付白書2017」によると、活動支援金型の寄付は、発災から概ね1年間で約700億円国内外から集まり、義援金の4,200億円に対して6分の1の規模であったとされています。

進むオンライン化、身近になる寄付

今では一般的となったクラウドファンディングは、期せずして2011年に日本でスタートしました。クラウドファンディング運営会社(11年1月CAMPFIRE創業、3月READYFOR創業)のサイトでは、発災直後から活発にプロジェクトが立ち上がり、寄付を募るNPOと寄付者をつなぐプラットフォームとなりました。

また、NPOがFacebookやTwitterといったSNSを活用して情報発信を行うようになったのも、東日本大震災が一つの契機となりました。下記のグラフを見ると、発災後、時間の経過とともにSNSを利用するNPOが増えていったことが分かります。低コストで、迅速にかつ広く情報を発信できるSNSは、その後NPOの情報発信において重要な役割を担うようになっていきます。

街頭募金や募金箱が中心だった時代から、クラウドファンディング、クレジットカード決済、SNSの広がりにより、寄付のオンライン化が進んでいきました。NPOの活動が可視化され、心が動いた瞬間に寄付ができる環境が整ったことは、寄付を身近なものとし、今日に至る寄付市場の拡大を後押しすることにつながっています。

震災から10年、コロナ禍の現在地は

震災後の10年は、寄付が広がる社会の実現を目指し2009年に設立された日本ファンドレイジング協会の歩みと重なります。「寄付白書」の創刊は2011年、以来日本の寄付の全体像を明らかにする唯一の調査研究として震災後の10年を見つめてきました。2010年の「寄付者の権利宣言」、そして2011年3月にはNPOが社会から信頼される存在であるために「街頭募金を行う際の10の留意点」をまとめました。また2012年には、高い専門性と倫理観をもって非営利組織の資金調達を担う専門職「ファンドレイザー」を認定する資格制度を開始し、現在その資格保有者は1,484人にのぼります。

東日本大震災から10年。その間、自然災害をはじめとする大きな困難に直面するたび、私たちは被災者に寄り添う想いを寄付に託してきました。2021年、コロナ禍の今、社会的に弱い立場に置かれた人々へのしわ寄せは日に日に深刻さを増し、その影は社会のいたるところに広がっています。日本の寄付の現在地はどこにあり、この先どこに向かおうとしているのか、今秋に発行される「寄付白書2021」でその行方が明らかになります。

※「寄付白書2021」(発行:日本ファンドレイジング協会、2021年)の詳細はこちら

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宮下 真美 Mami Miyashita

日本ファンドレイジング協会 事務局次長

1982年生まれ。石川県出身。大学卒業後、バイオ系べンチャー企業にて、マーケティング業務に従事。2011年より日本ファンドレイジング協会にて、ディレクターとして認定ファンドレイザー資格制度の企画、普及活動を推進。現在、ファンドレイジングに関する研修の企画運営を行うほか、協会の広報・マーケティング業務全体を統括し、日本社会におけるファンドレイジングの普及啓発を推進する。2017年、富山県に移住後も、経営メンバーとして、リモートワークスタイルで従事。

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