投稿日:2015年6月15日

寄付教育(フィランソロピー教育)で大切にしている価値観とは?

大石 俊輔Shunsuke Oishi
日本ファンドレイジング協会 マネージング・ディレクター

前回は、日本にいまなぜフィランソロピー教育が必要なのか、日本におけるフィランソロピー教育の歴史と類型を紹介しましたが、2回目となる今回は、「楽しんで体験しながら学べるフィランソロピー教育」という切り口から、日本ファンドレイジング協会が提供する「寄付の教室」プログラムを紹介し、そこで大切にする価値観や参加者の振り返り、効果、反響などをご紹介していきます。

「寄付の教室」で大切にする価値観

「寄付の教室」でも大切にしているのが、前回紹介したフィランソロピー教育における大切な3つの価値観「自分が社会にとってかけがえのない存在である」「他者との価値観の違いを大切にする」「社会課題を体験的に理解し自分も参加できることを学ぶ」です。そして、この教育プログラムの提供する寄付の体験を通じて、子どもたちが社会参加に目を向けてくれるようになることが「寄付の教室」が目指している目標です(図1)。

寄付の教室が目指す目標

「寄付の教室」での体験を通じた、具体的な効果としては次のような点が挙げられます。

効果1.自分自身が誰か必要とされる存在であることを体感できる
様々な社会課題を見聞きし寄付の模擬体験を行うことで、自分の支援が社会課題の解決に結びつくことを理解し、自分の存在が誰かに必要とされているということに気づくということが1つ目の効果です。
 
「セカンドハーベスト・ジャパンについては、考えてみれば、自分にもできるかもしれないことがあるので、もう少し詳しく調べて自分の出来ることを見つけたいと思った(高1、女子)」
「私みたいなごく普通の一般人には社会は動かせないと思っていた。なので、最後の『あなたが共感したい活動に参加することで社会は変わります』というのがすごく心に残った。(小6、女子)」
効果2.他者との価値観の違いから自分の学びを深められる
個人の学びだけではなく、グループワークからそれも、自分とは異なる考えや意見から、更に気づきや学びが得られるというのが2つ目の効果としてあげられます。

「今日は、すっごく自分とは関係ないと思うけど実は身近に感じる事のできる問題で、すごくしんけんに考えることができました。他のメンバーの話を聞いて、自分の思っている事などをさらに深める事ができて良かったです。(高1、女子)」
「自分の考えている意見と他のグループの意見を見てみると、どの団体も色々な役割を持っていて、どの団体も応援したいな、と思うような意見ばかりでした。(高1、女子)」

効果3.自分も社会課題解決に参加できるんだという実感が生まれる
最初は、他人事と思えた社会課題を、授業を通じて自分事として捉えられるようになるということが3つ目の効果です。
 
「やっぱり、みんなと協力して活動したりうごいたりすることは必要だなとあらためておもった。自分たちが動かないと世界が動かないんだなと思った。(小6、男子)」
「団体が目指していることのために自分がどういうことができるかこれから考えてみたいです。(小6、女子)」

「寄付の教室」プログラム

海外の事例の応用ではなく、日本の教育環境などに配慮して、日本中どの学校でも簡単に導入できる教育プログラムとして、「寄付の教室」は日本初の取り組みとしてはじまりました。
現在では、日本ファンドレイジング協会が全国の小学校・中学校・高校に出向き、地域の協力団体の協力を得て、各学校の状況ごとそれぞれに配慮したプログラムをアレンジしながら実施しています。将来的には、協会提供の認定トレーニング受けた方にも実施できるようしたいと思っています(図2)。

寄付の教室仕組み図

具体的には、45分の授業2コマ(90分)を使って、どの学校でも簡単に行うことが出来るものから、興味が湧いた子どもたちのためのフォローアップまでいくつかの段階があります。
90分のモデルでは、社会課題やNPO、寄付について知った後に、地域のNPOの話を聞いたり、分野別のNPOの紹介ビデオ等を複数団体見ることから始まります。そのうえで、まず、模擬紙幣を用いて自分自身として、どの団体に寄付したいと感じるかを選び、その理由をグループで共有します。第二ステップでは、グループとして、寄付したいと思う団体を選定し、グループ毎に理由を共有します。このプロセスを通じて、「寄付先を自分の価値観で選定すること」「人それぞれの価値観に違いがあり、正解があるわけではないこと」「少額の寄付でも人の命を救えるなど、自分には社会を変えるかけがえのない役割があること」ということを知ることができます。最後には授業のまとめと振り返りを行うことで、体験を通じて学んだこと感じたことを個人個人が内省する時間を設け、やりっぱなしにせずに学びの定着につながるようにしています(図3)。

基本プログラム

フォローアップのステージでは、今度はグループに分かれてNPOにインタビューをし、NPOになり代わって寄付を集めるプレゼンテーションを子どもたち自身が行ったうえで、一人一人の子どもに寄付先を選定してもらうことや、募金、書き損じはがき集めなどの具体的な寄付集めの行為につなげていく等があります(図4)。

フォローアッププログラム

受講した子供たちの声

冒頭の「大切にする価値観」でもいくつか紹介した、受講した子どもたちの振り返りです。この「寄付の教室」を通じて、私たちが伝えていきたい価値観や想いもありますが、何より子どもたち一人一人が、他人事ではなく自分事としていろいろな社会課題を捉えて、それぞれの価値観や考え方で学んでくれているということが非常に重要なポイントであると考えています。

「今まで生きてきて全く知らなかった何かを守る団体がたくさんあって、それを知れたのでよかったです。機会があれば自分が良いと思う団体に参加したいと思った。」(高校1年・男子)
 
今回の授業はいっぱいもめたし、協力することも多かったのでよかったと思います。それにみんな1人ずつちゃんとした意見をいえていたのでよかったと思います。もっとやりたかったです。」
(小学校6年・女子)

 
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「私が知っているもの以外にもこういう活動がされていることを知ってもっと関心を持つことができた。」(小学校6年・女子)
 
「正解がなく、どこかひとつの団体に決めなければならないのが難しかった。」(中学校1年・女子)
 
「表面的に見るだけでなく、「こうやったらこうなる」「これをやったらいいよね」とグループで考えることで、日本で活動している団体から応援してみようと思いました。」
(中学校2年、女子)

 
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次回は、寄付の教室の実践を通じて見えてきた、授業実施上のポイント、注意点などを中心にお伝えしていきます。
 

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Profileこの記事を書いた人

大石 俊輔 Shunsuke Oishi

日本ファンドレイジング協会 マネージング・ディレクター

2008年3月法政大学大学院政策科学研究科修士課程修了。学生時代より、まちづくり、文化芸術分野のNPOでのボランティアを経験。同年4月より特定非営利活動法人せんだい・みやぎNPOセンターに勤務。2010年6月より現職。2010年日本で初めての寄付白書の編纂で中心的な役割を担うとともに、次世代向けのフィランソロピー教育である「寄付の教室」実行責任者として活躍中。

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