投稿日:2019年3月31日

全4回シリーズ②:実践者との対話と学びで見えてきたコレクティブ・インパクトの行間

清水 潤子Junko Shimizu
准認定ファンドレイザー

実践者との対話と学びで見えてきたコレクティブ・インパクトの行間、全4回でお送りしているジャーナルの2回目は、コレクティブ・インパクトは誰とおこすべきか?ー共通のアジェンダを模索するひととの協働についてです(第1回目はこちら

コレクティブ・インパクトはどこから生まれるのか?

米国だけでなく、イスラエルなどでのコレクティブ・インパクトを支援していたサイオン氏は、今までシステムを変えるような変化を生み出した事例を振り返ってみると、「社会課題解決に取り組んできた人々が、コレクティブ・インパクトへのシフトを考えるきっかけは、現状の自社事業・協働事業では目的の達成には至れないと危機感を募らせた個人/組織同士が集うところからスタートすることが多い」と語ります。

今まで様々な事業を起こした方や、協働プロジェクトを行ってきた方にとってみれば、「個別の団体の限界を感じるのは当たり前」「多様な主体が関わった方が、より多様な視点が用いられてよいプロジェクトができるのは当たり前」と思うかもしれません。しかし、コレクティブ・インパクトへシフトしていくプロセスにおいて重要なのは、ここで集った人たちが「自分のプロジェクト、自分のアジェンダ」に賛同する人を求める人の集まりなのか、「共通の問題意識や目指したい社会のあり方」を共有し、そこへの賛同する人の集まりなのか、ここ非常に明確な違いがあり、コレクティブ・インパクトが必要とするのは後者であると言えます。コレクティブ・インパクトの英語の定義を改めてみてみると、Collective impact is committmentとあり、collaborationではありません。多様なステークホルダーによるコミットメントが向かう先は、コレクティブ・インパクトを起こすんだ!と決めたメンバーが決めた共通のアジェンダであり、その先の社会課題であって、誤解を恐れずに言えば、協働相手ではありません。協働相手に必要なのは、お互いのコミットメントを高めるエンゲージメント(関わり)やそのための良質なコミュニケーションであり、ゆえに、継続的なコミュニケーションが必要であることや、お互いを補完しあう関係性というものが、コレクティブ・インパクトの特徴として挙げられている理由につながります。

共通のアジェンダを模索するひとたち

コレクティブ・インパクトの特徴に「共通のアジェンダを設定する」があるように、コレクティブ・インパクトが重要視するのは、共有された問題意識や社会課題、または目指したい社会のあり方や願いへの同意だといえます。しかし、社会課題解決に取り組んできた人々の危機意識や問題意識が、たとえばその地域住民をはじめとしたステークホルダーと一致するとは限られません。ゆえに、最初に集った一部のメンバーが、より様々な主体と一緒に、その課題感などを議論する必要性を感じ、より大きな集まり*で議論をしていくことが必要になります。ここでも問われるのは最初に集まったチームのメンタリティであり、チームに同意してくれる人を集めるのではありません。場合によってはチームが最初に立てた仮説が覆されることもあるかもしれません。しかし、システムを構成する要素は多様であり、関わる多様なステークホルダーとの対話の中からみえてくるそもそもの認識や意見の違いを焦点をあて、そのヒントに隠されているシステムの欠陥や、機能不全、またそれに伴う心理的なバリアなどの理解を一緒に進めなければ、多様なセクターから人が集まっていても、限界を超えることは困難で、骨抜きのコレクティブ・インパクトになってしまいます。コレクティブ・インパクトが提唱され始めた当時は、影響力のあるリーダーが席についていることが特徴とされていました。確かにクイックな意思決定が可能なリーダーがー席についていることが生み出すメリットもありますが、実際北米での実践例では、ゆえにコミュニティの本当の声が反映されておらず、インパクトを生み出せていないことが指摘されています。社会システムに働きかけるアプローチであるがゆえ、コレクティブ・インパクトを志向する実践者は、表面化されていないシステムの声に耳を傾ける必要があるのではないでしょうか。

 

次回は「共通のアジェンダ作りからはじめるのは、誤り。その前にしなければならないこと」について、実践者との対話の中で見えてきたことをお届けします。

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