投稿日:2018年2月16日

ついに始まる!尼崎市で、コレクティブフォーチルドレンによる子ども支援

松田 典子Noriko Matsuda
准認定ファンドレイザー

2017年7月のオンラインジャーナル「日本版コレクティブインパクトの最新情報とはー尼崎市、文京区の現場からー」にて取り上げた、コレクティブフォーチルドレンがついに動き出した。

日本財団ソーシャルイノベーションフォーラム2016にて特別賞を受賞し、3年間で3億円の活動資金の提供を受けることが決まったコレクティブフォーチルドレン。その後、2016年12月に活動を立ち上げ、2017年1月に法人格(一般社団方法人)を取得し、個々のNPO活動による点の支援ではなく、家族を含めた子どもの総合支援をしたいという課題意識のもと、行政・地域を含めたトータルパッケージでの支援を構想していた。2018年1月からの利用申請受付が開始したタイミングで、コレクティブフォーチルドレン共同代表の高亜希さんから伺った話をもとに、日本におけるコレクティブインパクト・モデルについて考えてみたい。

コレクティブフォーチルドレンの始めた「子ども・若者応援クーポン」は、尼崎市にお住まいで、生活保護世帯や所得が一定基準以下の世帯に住む、0 歳から20歳までの子ども・若者を対象に、塾・予備校、スポーツやピアノ等の習い事、体験活動、保育サービス、相談支援等のサービスを選んで使えるクーポンだ。年間最大で28万円支給され、未就学児・小学生・中学生・高校生等の子どもへのサービスだけでなく、進路相談支援や職業教育など19歳~20歳の若者へのサービスや、一時預かり保育や病児保育など保護者も含めたサービスも含まれる。現在、130以上の事業者が登録されており、機会やつながりの格差解消を目指している。現在、クーポンの申請受付中で、まずは1年間で200世帯に対して配布予定だ。
また今後、クーポンだけでなく、子どもや家族に対する相談支援も合わせて実施する予定だ。ソーシャルワーカーや行政と連携することで、クーポンの提供だけでは支援の網目からこぼれてしまう層に対して、支援の手を広げる狙いがあるということだ。

(2018年1月に実施した記者会見の様子)

高さんの話をもとに、コレクティブインパクトの5つの特徴に沿って、コレクティブフォーチルドレンを捉えなおしたい。
1, 共通のアジェンダ (Common Agenda)
「共通のアジェンダを最初に設定する」というプロセスは、コレクティブインパクトのプロセスの初期段階としてよく言われることである。しかし、「共通のアジェンダの設定が最初に必要かは疑問である」と、コレクティブフォーチルドレンの共同代表・高さんは言う。確かにTamarackの唱えるコレクティブインパクト3.0では、「共通のアジェンダ」の限界について語られており、アジェンダというよりも、もっと関わる全てのステークホルダーが熱望できる目標のようなものを持つべきだ、という声もある。

2, 評価システムの共有
評価については、外部の大学と連携して実施するとのこと。現在、仮説を検討しているところで、1年間プロジェクトを実施した後に評価を実施する予定だ。また、2018年度はデータの収集に専念し、その後情報をデータベース化する。基本的には、民間を主体としたデータベースを検討しており、行政との接続については現在、優先度が高くないようだ。

3, 互いに強化し合う活動 (Mutually Reinforcing Activities)
コレクティブフォーチルドレンでは、地域の事業者や行政など多様なステークホルダーがともに活動している。
尼崎市の事業者を中心に連携・相談を進めることで、支援の網目を広げることに注力している。また、地域のキーパーソンを通じて、地域の状況を把握するなどコミュニティの声を聴く工夫している。また行政とは、民間でリーチできない層へアプローチするための、ソーシャルワークなどの連携や、情報提供、その他広報面での協力をもらっている。
こうした、互いに強化し合う活動を通じて、1つの団体では出来ないことが達成でき、スピード感を持って活動を進めることができているということだ。

4, 継続的なコミュニケーション (Continuous Communication)
現在活動している尼崎市は、ソーシャルインパクトボンドなど、社会課題への取組が先進的で、以前よりコミュニケーションを取っていた。また代表同士も同じ大阪で活動するNPOとして以前から関係構築が出来ていたため、継続的なコミュニケーションに関して課題を感じていないのが現状。コミュニケーションを円滑に進める調整役もおり、各自の役割分担が上手くできているということだ。

5, 活動を支えるバックボーン組織 (Backbone Organization)
関西のNPO 5団体(ノーベル、み・らいず、あっとすくーる、Co.to.hana、ブレーンヒューマニティー)を中心に活動している。事務局は5名で、専任のスタッフ+ノーベル、み・らいず、ブレーンヒューマニティーからの出向者などで構成されている。

「今後の課題は、日本財団の支援が切れる3年目までに、どのように事業の土台を築いていくか。」と語る、高さん。この3年でしっかりと支援を実施し、それらの効果測定を同時に行うための中長期の戦略策定が必要だ。まだ、始まったばかりのコレクティブフォーチルドレン。オンラインジャーナル「世界的にも注目を集める“コレクティブインパクト”―ボストンで開催されたコレクティブインパクトのカンファレンスを通じて得られたこととは?」でも述べたように、コレクティブインパクト・モデルには非常に長期的な視点が求められる。今後もその動向を見守っていきたい。

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Profileこの記事を書いた人

松田 典子 Noriko Matsuda

准認定ファンドレイザー

大学卒業後、金融機関で不動産ファンド業務に従事。働きながら、NPO法人Living in Peaceにて、国内の貧困に取り組む教育プロジェクトを立ち上げ、児童養護施設の子どもたちの環境改善のための寄付プログラム「Chance Maker」や、児童養護施設の子どもたち向けのスタディツアーを作る。

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