投稿日:2015年12月28日

【寄付月間Giving December連載】学生チームが聞く寄付最前線 SmartNews ATLAS Program 編

寄付月間インタビュー企画第三弾:
学生チームが聞く寄付最前線 SmartNews ATLAS Program 編

「世界中の良質な情報を必要な人に送り届ける」ことをミッションとして掲げ、スマートデバイスにいち早く対応し、革新的なインターフェースを提供しているスマートニュース株式会社にインタビューを行いました。2015年10月より、NPO10団体に100万円の広告枠を提供するプログラム、「SmartNews ATLAS Program」を始動させたスマートニュース。このプログラムに取り組む望月さんと中井さんへのインタビューをお届けします。 
SmartNews ATLASプログラムHP : https://atlas.smartnews.com/

(聞き手:寄付月間学生チーム 高山捷太・谷口祥平)

コンセプトは、「社会を変える力をアップデートしよう」
谷口:こんにちは。本日はよろしくお願いします。
はじめに、今年から始まったATLASプログラムについて教えてください。
望月:ATLASプログラムは、選ばれた10のNPO団体に一定の広告枠を無料でお渡しし、5つのパートナーと共にハンズオンでマーケティング支援を行っていくプログラムです。

このプログラムのコンセプトは、「社会を変える力をアップデートしよう」です。今の時代はインターネットの利用において、デスクトップを使うことが減り、徐々にモバイルを使うことが増えてきています。NPOが支援者を集めていくためにも、「モバイルの使い方・考え方」を理解することが必要です。

「社会を変えたい」という想い自体はいつの時代でも普遍的なものだと思います。でも、それを実現するためにはその時代にあった力やスキルが必要ではないかと考え、このプログラムを企画しました。

限られた10団体に、ハンズオンのサービスを提供
高山:世の中にはNPO支援のプログラムはたくさんありますが、ATLASの特徴は一体どのようなところにあるのでしょうか?

望月:私が以前Googleで働いていた時に関わっていた「Google for Nonprofits」と比較するとわかりやすいかもしれません。Google for Nonprofitsでは一定の基準を満たしたすべての非営利団体にgoogleのさまざまなサービスを無償で提供しています。

これとは違い、ATLASプログラムに参加できるのは選ばれた10団体だけです。そして、それらの10団体には、100万円分の広告枠を無償で提供するだけでなく、その広告枠の実際の運用に対するハンズオン型の支援を提供するところまでやっています。ひとつひとつのNPOさんにきちんと時間を割き、マーケティングスキルの学習をサポートしたいと考えています。

中井:モバイルのオンライン広告は専門性が高く、ツールをお渡しするだけでは、宝の持ち腐れになってしまう可能性が高い。広告がなかなかクリックされなかったり、クリックしてもランディングページからすぐに離脱されてしまったりすることで、伝えたいことが届かなくては意味がありません。例えば、以前ネパールの大地震の際に様々な団体の寄付ページに対してSmartNewsから広告を配信したことがありましたが、寄付ページがモバイル対応しているかしていないかによって寄付金の集まり方がかなり違ったんですね。モバイルに対する基礎的な考え方や企画する力を育てることをATLASプログラムでは重視しています。

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望月優大氏(右)  慶應義塾大学法学部政治学科卒。東京大学大学院総合文化研究科修士課程修了。経済産業省、博報堂コンサルティング、Googleを経て現職。

欠かせない5つのパートナーの存在
谷口:ATLASプログラムには5つのパートナーもいますね。
望月:先ほど言ったとおり、ATLASプログラムでは広告枠を渡すだけでなく実際にハンズオン型の運用支援を行います。ここで欠かせないのが5つの「パートナー」の存在です。

去年、このプログラムを企画し始めた時は、広告枠を無償でNPOに提供するだけで十分ではないかと思っていました。しかし、実際に数多くのNPOのサイトを見てみると、そのほとんどがモバイルに対応していないことがわかりました。

これでは、広告枠を無償で提供しても決してうまくいかない。そこで、モバイルに対応しているメディアやプラットフォームの方たちの力をお借りすることでこの問題を乗り越えられないかと考え、greenzやgooddoなど様々な方に相談を持ちかけました。「SmartNews」と「NPO」に「パートナー」を加えた三角形の関係性を作ることで、どの団体にも取っ付きやすく、NPOにとって実際に取り組みやすいプログラムになるのではないかと考えたんです。

高山:具体的にはどういうことでしょうか?
望月:例えば、以下のテストケースの場合、SmartNewsに掲載される広告の内容はNPO難民支援協会さんによる「冬の緊急募金」です。しかし、SmartNewsの広告から難民支援協会さんのホームページに飛ばすのではなく、パートナーであるReady forで「冬の緊急募金」のプロジェクトをつくり、そこをSmartNewsにおける広告クリックのランディングページにしました。 (下の図を参照)。 

NPOは人やお金のリソースが限られていることが多く、「自分でモバイル対応のランディングページをつくってください」と言ってもなかなか難しいのが現実です。パートナーの存在が、ATLASプログラムを実現するために絶対必要なのにはこうした理由があります。

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(ATLASのHP https://atlas.smartnews.com/ より抜粋 )

素晴らしい想いがあるけど、その伝え方がわからないという団体の力になること
高山:今回選ばれた10団体は、だいぶ毛並みが違いますね。どのような基準で選んだのでしょうか?(10団体の詳細はこちら:スマートニュースブログhttp://about.smartnews.com/ja/2015/09/04/20150904_atlasprogram/

望月:今回123団体の申し込みがあって、そこから10団体を選ばせていただきました。選定に際して重視したことは、「やりたいことがある程度はっきりしていること」と、「プログラムにコミットする意思を示していること」です。また特定の社会問題に関わるNPOばかりに偏らないようにも考えました。そして、すでに実績のあるNPOだけでなく、強い想いを持って活動をしているものの、より多くの人に伝えていくことに課題のあるNPOを選ぶようにもしました。ATLASプログラムを通じて、SmartNewsを利用する数多くの人たちに、こうしたNPOの活動が知られていることを期待しています。

内発性を大切にすること
谷口:NPOの選定時から実際に動き出している今も、一貫してひとつひとつのNPOに強い思い入れを持っていますね。
望月:中井さんも私もこうした活動をすることがすごく好きなんですね。語弊があるかもしれませんが、「好きなことをやる」というのはとても大切なことだと思っています。「社会貢献はやらなきゃいけないからやる」、とか「CSRとして予算の数パーセント割かなきゃいけないからやる」という大企業的な発想ではなく、「自分たちがどのようなことを考えているのかを伝えるためにアクションを起こす」という、すごく内発的なものなんです。

高山:このATLASプログラムは、社内ではどのような位置づけにあるのでしょうか?
中井:会社やメンバーの大切にしていることを内外に発信する役割を担っていると思います。「業務に支障が出ない範囲でやろう」という消極的な形ではなく、「精一杯頑張ろう」と応援してくれる雰囲気があります。

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中井祥子氏(左)  早稲田大学人間科学部スポーツ科学科卒。イベント制作会社、株式会社リクルート、株式会社リクルート住まいカンパニーを経て現職。2007年ラクロス日本選手権優勝。

情報の作り手を尊重して、世の中に情報を届けるということ
高山:そんな雰囲気を作れるスマートニュースさんには、共有されている「DNA」や「哲学」のようなものはあるんでしょうか?
望月:会社のミッションは「世界中の良質な情報を必要な人に送り届ける」ということです。このミッションを考える時に大切なのは、「良質な情報は誰かが作っている」ということを忘れないことです。SmartNewsでは、私たち自ら記事を書くことはしていません。新聞社など様々なオンラインメディアの方々が作った記事をユーザーにお届けしています。私たちは記事を作っている方々とともに継続的に成長していくためにはどうすれば良いかを考え、広告事業からの収益還元の仕組みなどを構築しています。

良質な情報が世の中にあり、継続的に生み出されていくことが、この社会にとって本当に必要なことだと考えています。ジャーナリストやメディアの方々がしっかりと取材し、情報を届けられるからこそ民主主義や自由が担保されていると考えているんです。

大元の部分でいうと、こうした社会性や公共性に対する意識が、SmartNewsメンバーの中で共有されていると思います。ATLASプログラムではNPOを支援していますが、単に団体としてのNPOを支援しているという意識ではありません。その団体が取り組む社会問題のひとつひとつを理解しつつ、アクションを起こしている人達の情報を世の中に届けることが私たちの役割だと考えています。

最先端のツールを武器に、情報を発信し、ファンを獲得してほしい
谷口:ATLASプログラムは今回が第一期です。このようなプログラムが大きくなっていった先にはどのような社会やどのような世界が広がっているんでしょうか?
望月:今はNPOという存在が、とても大切な時代だと思っています。これまで家族や地域や国が様々な形で支えてきたものが次第に崩れ、世の中がどんどん変わっています。その崩れた部分を支えるように、NPOが現れ始めている。しかし、NPOやその活動内容が世の中で知られているかというと、まだまだだと思っています。

社会に自分たちの活動を伝えるには、テレビ広告を使わなくても、インターネットを使うことができるようになりました。ATLASプログラムを通じて、ひとつひとつの団体が、最先端のツールを使いこなし、それぞれのファンを増やしていってくれればいいなと思います。

ところで、NPOってバンドっぽいと思いませんか (笑)

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NPOは、バンド。 好きな活動を、自然な気持ちで応援すればいい。
谷口:NPOはバンド?(笑)
望月:バンドと考えるとカッコよくないですか? ATLASプログラムはSmartNewsが主催するフェスみたいなものなんじゃないかと思っていて。NPOもバンドも、ライブやイベントを通じて、自分たちが信じていることの大切さを訴え、ファンを応援してくれる人たちを増やしていきます。

やはり「内発性」がキーになると思っています。「100万円が欲しいからやる」とか「会社の決まりだからやる」のではなく、「理由はわからないけれど、どうしても貧困問題から目を背けられなくなっている」というのが内発性だと思います。NPOというのははただの箱にすぎませんが、その活動をやっている人の中に、「止むにやまれぬ想い」や「動機」があります。だからこそ魅力的なんです。なぜか日本語ラップに人生を捧げている人の魅力と同じです。こうした魅力が伝わっていけばいいと思います。

今回のATLASプログラムで選んだ10団体も、それぞれ実際にお会いしてみると、とても魅力的な人が多いし、面白い活動をしている団体ばかりです。そして深く知ったからこそ応援したいという想いもさらに強くなった。CDの人気が下がっていても、好きなバンドのCDはついつい買ってしまう。NPOを応援するのも、そういうのと同じじゃないですか?(笑) 「ここがいいな~」というNPOを見つけてぜひ応援してほしいなと思います。

記事写真5
中井さん(左)と望月さん(右)。一言一言から楽しんで仕事をしていることが伝わってくることが印象的であった。

高山・谷口:なるほど! NPOはバンドっていう考え方は面白いですね(笑)

寄付の必要性はなくならない。
共感したNPOを自然に応援する社会をつくっていきたい。
谷口:最後に、寄付月間に対する意気込みをお願いします。
望月:私たちのような限られた団体に対するボトムアップ的な支援も必要ですが、寄付月間がやっているような「大きく動くこと」はとても素晴らしいと感じています。ATLASプログラムでもいくつかの団体が12月に寄付を募る広告キャンペーンを走らせます。ぜひとも成功させたいですね。

寄付がNPOなどを応援することの一つの形だと考えると、「寄付月間」の間に、お金を出すだけではなくて、イベントに参加してみるなども立派な関わり方だと思います。YouTubeの動画をシェアするだけでも、最初はいいと思う。小さくても何かのアクションを自発的に起こすキッカケになればいいなと思います。

「CD買おう月間」だから無理やりCDを買うんじゃんなくて、好きなバンドのCDは自然と買ってしまう、そういうものですよね。寄付月間を通して、自分が共感するNPOをナチュラルに応援するようなあり方が、世の中に広がればいいと思いますね。

あと、最近一つ気になっていることがあって。

谷口:気になることとは?
望月:最近、「稼げるNPOが素晴らしい」という風潮を感じることがあります。けれど、私も最近になってきちんと理解できたのですが、「寄付をもらわなければ提供できないサービスがある」ということを知ってほしいです。それはサービスの受け手がお金を払えない場合、すなわちそのサービスが子供や、途上国の貧困地域で暮らす人々を対象としているような場合です。サービスの受益者から直接対価をもらえない以上、NPOで働く人たちも自分たちが食べていかなくてはならないわけですから、どこからかお金を貰わなくてはならない。そうした時に寄付が必要なんですね。NPOが事業収益を得ていくことはとても大切なことですが、やはり寄付の重要性が変わることはないと思います。

高山・谷口:寄付は正当な手段というのは確かにそうですね。しっかりと記事にしたいと思います。本日はありがとうございました。
望月・中井:ありがとうございました。

寄付月間 -Giving December- 2015

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