投稿日:2021年7月30日

行動科学から読み解く支援者目線のファンドレイジング|特集・世界のファンドレイジングの今〜AFP ICON2021からの学び

間辺 初夏
認定ファンドレイザー
フリーランスファンドレイザー

米国で毎年開催される世界最大のファンドレイジング大会「AFP ICON」、今年6月にオンラインで開催されたAFP ICON2021に参加した5人のファンドレイザーが、それぞれの視点で世界のファンドレイジングの今を伝えます。

行動科学から読み解く支援者目線のファンドレイジング
フリーランスファンドレイザー 間辺 初夏(認定ファンドレイザー)


AFP ICONでこんなことが話題になっていました。「ファンドレイザーの高い離職率が問題となっている」、「ファンドレイジング以外の部署からのサポートが得られない」、「ファンドレイジングを重視しない文化があり、理事会が十分な支援をしてくれない」など、国内と国外でファンドレイジングは根本的に異なると思われがちですが、本質的には同じ悩みや課題を抱えています。

ファンドレイジングは人と人のコミュニケーション

ファンドレイジングは、対象が個人であれ法人であれ、総じて「人と人のやり取り」であると認識している私にとって、ファンドレイジングにおける対人コミュニケーションは永遠のテーマです。AFPに限らず海外カンファレンスは、対人コミュニケーションに関するセッションが多く、タイトルだけでワクワクするようなものが満載です。これらは、心理学や行動科学、会話を用いた対外・対内コミュニケーションがテーマになっています。

では、今日は「何が支援者をHappyにするのか?支援者のモチベーションと意思決定に隠された謎(原題:What Really Makes Donors Happy? Uncover the Mysteries Behind Donor Motivation and Decision-Making、スピーカー:Polly Lagana)」と題されたセッションについてお届けします。ここでは行動科学からファンドレイジングを読み解きます。

抑えるポイントは5つ「S・P・A・R・K」

すべての支援者は、それぞれの思考、感情、バイアスを持つ「個人」です。支援者が、個人であれ組織であれ、「個人」であることを忘れてはいけません。

これまで支援者の動機(組織のミッションに共感している・個人的な満足感を感じる・定期的に支援する習慣がある・人とのつながりを感じる、など)はいくつか挙げられていますが、実際にはこの動機そのものと、その背後にある意思決定の行動には乖離があると考えられており、支援者は、意識的にも無意識的にも、幸福度を高めるような意思決定をしていると考えられています。この「支援者の幸福感」を高めるために重要なポイントが「S・P・A・R・K」を頭文字とする5つのポイントです。

さて、過去の研究から、人は幸福感を感じることで寄付率が高まり、さらに寄付後にはより幸福感が高まることが報告されています。本セッションでは、

①喜び(自分が楽しい!面白い!と思うことを行うことで感じる「喜び」)
②目的(何らかの目的や意義を感じること)
③帰属意識(他の人と関わっている、つながっているかのように感じること)

が幸福感につながると定義し、その幸福感を高めるための手法として、SPARKというフレームを提案しています。

1. Simplicity of the task:支援者のタスクをシンプルにする

とある研究によると人間の意志決定の9割以上が、過去の経験を助けとして「瞬時」に行われるとされています。支援者が意思決定しやすいよう、判断の選択をシンプルにする。すなわち、支援者のタスクをシンプルにすることが大切になるのです。ただでさえ、私たちは常に多くの情報に囲まれ、選択肢「過多」を経験しています。支援者がどんな状況でも寄付できるように、選択肢をシンプルにすることが重要です。

2. Personal connection & community:支援者に個人的なつながりや帰属意識を感じてもらう

このコロナ禍で改めて感じた方も多いと思いますが、人はコミュニティやつながりを求めます。ここで今一度、帰属意識は幸福感を生むための大切なコンテンツであることを抑える必要があります。そのつながりが個人的であればあるほど、強い絆が生まれます。どのようなコミュニケーションを取るかは支援者の希望が第一ですが、メールや電話・安全な対面などで会話を行うことが重要です。(ただし、バーチャル過多には注意が必要!)

3. Alignment of goals:目指すべき目標の整合性をとること

人は、同じ目標に向かって行動することで感じる一体感から幸福感を生み出すことがあります。友人との会話で意気投合したり、盛り上がったとき、そんな経験はありませんか?自身の団体の目標と支援者の描くゴールに一体感を持たせることが重要です。

4. Research & information:意思決定に必要な調査結果や情報を提供すること

支援者は、自身の寄付が結果につながることを期待し、さらにその成果に興味を持っているものです。常識にとらわれず寄付使途の限定を積極的に認めることも必要ですし、支援者に活動の目的や成果を伝え、そのプロセスについての情報を提供するなど、支援者が目的意識を持って寄付を行うことができる情報を提供することが大切です。自らの意思決定に基づいて寄付をしているという感覚もつことができると、支援者はその寄付に愛着を持つことができます。

5. Knowledge of positive outcome:ポジティブな成果の知識を提供すること

誰しも自身の寄付がポジティブな結果、明るい未来、理想の社会づくりの一歩につながることを期待して寄付を行っています。変革や支援の必要性の深刻さを否定するものではありませんが、その寄付の結果がポジティブな成果につながると感じてもらうことで、寄付へのモチベーションが高まります。

さて、本文を読まずともSPARKのタイトルだけでも、自分もやっている(もしくはやろうと努力をしている)と思われた方いませんか?

そうです、あなたのファンドレイジング、理想の過程を経過しているのです。だからこそ、これを機に自分の組織のファンドレイジング、このSPARKのポイントを抑えているか、再度振り返ってみてはいかがでしょうか?そして、組織内でも対外的にも自信をもってそのままつき進んでください!

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Profileこの記事を書いた人

間辺 初夏

認定ファンドレイザー
フリーランスファンドレイザー

聖心女子大学 人間関係専攻 人格心理学コース卒。
大学4年次の夏より、百貨店に広報アシスタントとして勤務。広報を主業務とすると同時に、顧客マーケティングの分野でアシスタントを約3年経験。
その後、アメリカ・フロリダのディズニーワールドで、日本の食文化を紹介する仕事に従事し、約1年間の海外勤務を経験。寮でも職場でも多国籍の人々に囲まれる中、教育とその質の重要性を感じ、以後、まったく未経験の教育関連NGOに飛び込む。
2008年より公益社団法人日本ユネスコ協会連盟で働くも、自身の専門性のなさを痛感。企画担当になったことを機にファンドレイジングの勉強をはじめ、主に寄付付き商品の企画やセールスフォースを使用したデータベースの導入を担当。2015年退職。
現在は、“組織”“事業”“財源”すべての成長をリードできるファンドレイジングコンサルタントを目指して日々奮闘中!

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