NPOやソーシャルビジネスの事業評価を行う場合、従来の経済的価値だけで事業を評価する方法では不十分です。そこで、経済的価値に換算はしにくいが、確かに社会を良くしている価値=社会的価値を評価する方法が社会的価値評価です。
社会的価値評価の特徴は、NPOやソーシャルビジネスが事業で「何を行ったか?(アウトプット)」ではなく、その結果「どのような変化が社会やサービス対象者に起こったのか?(アウトカム)」を明らかにする点にあります。
例えば、就労支援事業を例に考えると、事業者が、就労支援のためのトレーニングを行った回数が「アウトプット(何を行ったか?)」となり、そのトレーニングの結果、参加者が新しい就職先を見付け、収入を得たり、納税できるようになることが、「アウトカム(参加者にどのような変化が起こったのか?)」になります。
社会的価値評価は、NPOやソーシャルビジネスの事業評価にとって重要なだけでなく、「社会を変えるお金=社会を良くするために提供されるお金」とも大きく関係します。
なぜならば、寄付や投資によって提供された「社会を変えるお金」が、どのように使われ、具体的にどのように社会を変えたのか=社会的価値を明らかにすることは、事業者が説明責任を果たす意味で重要なだけでなく、資金を提供する側(寄付者や投資家)にとっても大きな関心事だからです。
最新の日本の寄付市場の調査結果によると、高額寄付者は、寄付を受ける団体の寄付金使途や事業内容の情報開示、団体の組織的・財務的安定性を重視する傾向が寄付者全体よりも顕著にみられ(寄付白書2013)、同様の傾向は、アメリカの調査結果からも得られています。
この背景には、高額寄付者の多くが会社経営者・役員であることが関係していると考えます。なぜかというと、会社経営者は、会社の経営と同様、自分が寄付するNPOに対しても高いパフォーマンスや成果指標の設定や、それに基づく管理を求める傾向にあるからです。
したがって、NPOが自分たちの事業の社会的価値を明らかにしていくことは、このような高額寄付者へのアプローチを可能にする点でも、NPOのファンドレイジングにとって、今後増々重要になると思います。
SROIは、NPOやソーシャルビジネスのパフォーマンスを評価する手法として、1990年代後半に米国の中間支援組織REDF(Roberts Enterprise Development Fund)が開発し、2000年代初頭に英国のシンクタンクnef(new economics foundation)が、それを応用・発展させて現在に至ります。
通常の投資判断に用いられるROI(Return On Investment:投資収益率)は、経済的価値のみで評価するため、NPOやソーシャルビジネスの事業価値を評価し、投資判断を行うのに適しません。そこでSROIでは、経済的価値に加え、社会的価値も含めて評価を行います。
SROIは、事業によって創出される社会的価値を貨幣換算した結果と、その価値を創出するために投じられた費用とを比較することで算出します。
SROI(社会的投資収益率)=貨幣価値換算された社会的価値÷投入された費用
SROIの算出プロセスは次のステップで行います。
① 当該事業の受益者を特定する
まず、当該事業によってもたらされる価値を得ている者(受益者。以下、「ステークホルダー」と呼ぶ)を特定します。特定したステークホルダーは、分析の対象となるだけでなく、②以降に説明する分析プロセスに参画してもらうことで、分析結果の妥当性を高めます。これにはまた、各ステークホルダーの結果に対する納得感を高め、事業の価値の再認識につなげる効果もあります。
② インパクトマップを作成する
次に、特定したステークホルダーごとに、インプット(投入費用)、アウトプット(実施した活動)、アウトカム(その結果もたらされた変化:成果)を特定します。そして、アウトカムを貨幣価値換算し、金額を算出してインパクトマップを作成します。
③ インパクトを特定する
②で算出されたアウトカムに対して、当該事業が行われなくても生じた影響や、当該事業以外の要因によって生じた影響などを調整することで、当該事業によって生じた純粋なインパクトを特定します。
④ SROIを算出する
ステークホルダーごとに特定されたインパクトを足し合わした総インパクトと当該事業の投資費用と比較して、SROIを算出します。
⑤ SROIの活用
ステークホルダーと結果の共有することで、暗黙知的に共有されている事業成果が可視化され、ステークホルダー間で事業への深い理解が可能となります。また、さらに事業効率を改善する示唆を得ることができます。
現在、SROIの活用は、NPOやソーシャルビジネスに対する投資や融資に留まらず、助成金や寄付の投資対効果を明らかにするために国内外で広がりをみせています。
例えば、英国の保険省は、医療ベンチャーへの助成金支給の条件として、SROIでの社会的インパクト評価を義務づけたり、オランダのノアバー財団でも、助成申請の際、SROI分析をすることが義務づけられています。
日本でも、厚生労働省の福祉プログラムや釧路市の生活保護受給者の自立支援プログラムの効果測定をSROIで行ったり、NPO法人ピース・ウィンズ・ジャパンが実施した、東日本大震災被災地支援活動について、民間寄付がもたらした成果をSROIで評価した事例などがあります。
今後、日本においてSROIのような社会的価値評価の活用が進むためには、高い社会的価値を創出するNPOやソーシャルビジネスに対して「社会を変えるお金」が集まる新しい流れを仕組みとして作る必要があります。
そこで最近注目されているのが、欧米を中心に活用が進んでいる社会的価値評価に基づいた官民連携の新しい社会投資スキーム「SIB(Social Inpact Bond)」です。
社会的価値評価は、このような資金循環の仕組みと連動させることで、社会を変える大きな力になると考えます。
次回は、「社会を変えるお金」の流れとして最近世界で注目されている「SIB」について解説したいと思います。
【ご案内】
7月13日・14日実施SROIトレーニング@東京
http://www.sroi-japan.org/?p=448
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