投稿日:2021年11月30日

先進事例からみる地域循環共生圏【ローカルSDGs×ファンドレイジングの可能性をさぐるシリーズ2】

持続可能な社会を持続可能な地域づくりを通じて形成していく地域循環共生圏(ローカルSDGs)、前回の記事ではそのコンセプトやファンドレイジングとの親和性についてお伝えしました。今回は「かみかつ茅葺き学校」の事例をご紹介します。地元住民が主体となって茅葺き民家を再生し、持続可能な集落づくりに寄与した事例を通じて、地域循環共生圏について理解を深めていきます。

プロフィール

坂本 真里子
かみかつ茅葺き学校 事務局長
徳島県小松島市生まれ。大学を卒業後、企業の総合職を6年間経験後離職。兵庫県立淡路景観園芸学校専門課程に入学、修了後、帰郷。2006年上勝町に移住、徳島県立高丸山千年の森の指定管理者を地域住民と協働で担う。結婚・出産を機に離職、移住。協働をテーマに2012年徳島大学博士後期課程に社会人入学、修了。上勝町内を拠点とするシンクタンクでの経験後、協働のまちづくりをテーマに、複数のプロジェクトに関与。

藤井 園苗
かみかつ茅葺き学校事務局/上勝町ゼロ・ウェイスト推進員
徳島県藍住町生まれ。大学進学のため徳島を離れ、卒業後は航空自衛隊で働くが、郷里に戻りたい思いが募り2007年に帰郷。上勝町役場と協働でゼロ・ウェイストを推進するNPOに就職するため2008年に上勝町へ移住。町内におけるゼロ・ウェイスト政策の企画実行、町外に対する普及啓発を現場で2015年まで指揮を執る。その後、上勝町内でなんでも屋をしながら、「かみかつ茅葺き学校」でゼロ・ウェイストな暮らしを知ってもらう活動に関わっている。

森 紗綾香
環境省四国環境パートナーシップオフィス
徳島県徳島市生まれ。大学進学のため大阪に移住し、徳島の自然の豊かさと身近さを実感する。大学院進学時に徳島に戻り、水質改善事業や環境学習による、地域を巻き込んだ環境改善策や場の活用について研究を行い、博士(工学)を取得。修了後は、大学、企業、NPOで環境や地域活性化に関する業務に従事。個人としても環境保全活動への参加や、環境問題、SDGsに関する講演を行っている。徳島県環境アドバイザー、徳島県地球温暖化防止活動推進員、徳島県気候変動適応推進員。

江口 健介
一般社団法人環境パートナーシップ会議(EPC)リーダー
神奈川県生まれ。大学在学中、国際青年環境NGO A SEED JAPANに所属し環境活動を始める。大学卒業後、ベンチャー企業勤務を経て、2013年より現職。日本全国の環境パートナーシップ形成に関わる。
聞き手

久保 匠
認定NPO法人日本ファンドレイジング協会 プログラム・オフィサー
北海道旭川市生まれ。大学卒業後、愛知県知多半島に拠点を置く福祉系NPO法人に就職し、障害者支援、地域包括ケアシステム構築に携わる。その中で、「制度の狭間」にニーズに応えるためにファンドレイザーへの道を志す。2018年4月より日本ファンドレイジング協会に参画し、法人向けのファンドレイジング力向上プログラムの事業を担当している。中京大学非常勤講師、(一社)アンビシャス・ネットワーク理事、(特非)きっかけ食堂理事、環境省中部環境パートナーシップオフィス協働コーディネーター等も務める。

高齢化率80%の集落で住民が作った「かみかつ茅葺き学校」

坂本:「かみかつ茅葺き学校」は、徳島県上勝町にある団体です。人口が1,500人を切り、過疎高齢化が進む八重地集落の地元の方々によって再生された茅葺き民家を拠点として、持続可能な集落づくりに取り組んでいます。茅葺き民家の再生に関わった地元の「じい様方」の想いに共感し集まった仲間が主体となって活動しています。

民家は完成したものの、それを活用する主体が定まらない状況を打破するために、環境省の事業に申請したことが「かみかつ茅葺き学校」の始まりでした。協議会を設立して運営がスタートしましたが、なかなかビジョンが明確化されない状況が続いているときに、環境省の事業にチャレンジしたことで、「地元の人々が主体的に参加し、茅葺きの屋根を切り口に集落全体の課題を解決するための取り組みを行う」という共通認識が生まれました。その後、地元の方々が事業の実施主体として自律的に活動するために設立されたのが、かみかつ茅葺き学校です。

「山の恵みを活用した持続可能な集落を作る」というゴールを目指して、集落で体験できる昔ながらの暮らしを人々に提供することで、再生可能な資源循環や、人々の助け合いの文化を上勝町から発信していきたいと考えています。この考え方は、ゴミをどう処理するかではなく、そもそも廃棄物を生み出さないようにしようという上勝町の「ゼロ・ウェイスト」のコンセプトにも共通するものです。

(リサイクル率80%以上を達成した上勝町の取り組みは世界からも注目されている)

一緒に考え、意思決定は地元の人がする大切さ

藤井:環境省の事業に取り組むことは、地元の方々と事務局で議論を積み重ねて決定しました。「持続可能な集落をつくる」という最終的な目標を達成するために、取り組みを維持、発展させていくことを決めました。

様々なステークホルダーに支えられながら活動を続けてきましたが、意思決定を地元の方と事務局で構成された役員に絞ることで、地元の担い手が考え、決めるという当事者意識が醸成されたと感じています。

上勝町はゼロ・ウェスイトタウンとして全国的に有名ですが、町民が地域課題を自分ごととして捉え、行動することは決して当たり前ではありません。現実的には人口減少が加速度的に進み、高齢化率は52%に上ります。この厳しい状況の中で、地元の方が立ち上がり、意思決定できたのは、本当にすごいことだと思います。

坂本:地元の人に任せきりにするのではなく、一緒に考え、意思決定するための信頼関係や、安心できる場づくりが大切であると感じています。私たちは、地元のじい様方と10年以上のつき合いがあり、お互いの気持ちをくみ取ることができる関係性ができていました。

現在、かみかつ茅葺き学校は、「山のめぐみを活用した集落の豊かな暮らしの持続」をテーマに、3つの柱である「小さな自然再生」「仲間ができる」「仕事ができる」に沿って、次の活動を実施しています。

・かみかつ茅葺き学校の実施
・ゼロウェイストとの繋がりづくり
・ビジネスパートナーとの協働づくり

一緒に時間を過ごし、対話することの価値

八重地集落の地域資源のひとつである棚田ですが、新型コロナウイルスの影響により外部から人を受け入れる活動が出来ない状況が続きました。この間、私たちとともに活動を続けてきたじい様が亡くなるという出来事があり、この方が守ってきた棚田をかみかつ茅葺き学校が受け継ぐことを決めました。棚田での作業には、町内のたくさんの若者達が参加し、ともに作業することで繋がりが育まれていきました。

藤井:参加してくれたのはゼロ・ウェイストに関心のある若い女性でした。彼女たちは、私たちの想いに共感し、里山や昔ならではの暮らしの大切さを多くの人に発信してくれました。従来の棚田オーナー制度は、田植えと稲刈りを体験するだけものが多いと思いますが、私たちのプログラムは日々の作業の大変さを体験していただきます。一緒に作業をすることで苦楽をともにし、信頼関係が構築されていきます。

久保:長く一緒の時間を過ごし、たくさんの作業行程を踏むことで生まれた関係性が新たな価値として定義されたわけですね。

江口:口だけ出す人ではなく、一緒に手を動かして関わってくれる人や、口は出さないけど資金を提供してくれる人の声や想いをどのように聞くのかが大切であると感じています。「ヒアリング」ではなく、ともに時間を過ごす中で交わした言葉や想いを受け取り、地域づくりに活かすことができると良いと思います。

取り組みが開かれることで、資源が集う拠点となっていく

森:最初は、茅葺き民家を主語にした活動が展開されていた印象でした。しかし、議論を繰り返し、地元の資源の可視化、価値の再定義を行うことで「茅葺き屋根を切り口にした持続可能な集落づくり」を担う意識へと昇華されていきました。

江口:国の事業に取り組む際、「東京側の論理」、「資金提供サイドの論理」が色濃く反映されるケースが多いように感じていますが、かみかつ茅葺き学校と四国EPOの努力により、そのようなギャップが埋められていったと感じています。EPO※やGEOC※は半官半民という立場なので、この両者を繋ぐ役割を担っています。

※EPO:地方環境パートナーシップオフィス(Environment Partnership Officeの略)、環境教育や環境保全活動の推進拠点として環境省が全国8カ所に設置する
※GEOC:地球環境パートナーシッププラザ、環境省と国際連合大学が共同で運営する環境パートナーシップ拠点

藤井:四国EPOやGEOCが変化のきっかけを与え、伴走支援で支えてくださったことで、取り組みを前に進めることが出来ました。当初は、上勝町の一部の集落のことしか見ていませんでしたが、地域循環共生圏に取り組むことで視野が広がり、今では町内外を含め、人・モノ・カネが集う拠点になりつつあると感じています。

共感、対話、参加―ファンドレイジングへの展望

坂本:かみかつ茅葺き学校は、町内外を含め、様々なステークホルダーが集う拠点となっています。そのため、施設の維持費を寄付で募っていこうという提案も出ています。また、環境意識が高い若者達がどんどん人を繋ぎ、様々なコンテンツを持ち込んでくれています。資金的なサポートについての提案もあるので、一つずつ形にしていきたいと考えています。また、ビジネスパートナーと繋がり、協業するためのチラシも作成しています。

久保:茅葺き民家を拠点としながら、「共感」を軸に様々なステークホルダーが対話する姿は、ファンドレイジングとも親和性が高いです。また、一方通行の支援関係ではなく、ステークホルダーが主体的に参加し、自らの動機にもとづいて行動している点は、共創型イノベーションに通じるものがあると感じました。

次回は、上勝町の取り組みをファンドレイジングの視点で深堀し、「共感の連鎖」を生み出す可能性についてディスカッションしたいと思います。

【関連記事】ローカルSDGs×ファンドレイジングの可能性をさぐるシリーズ
(1)地域循環共生圏(ローカルSDGs)とはなにか
(2)先進事例からみる地域循環共生圏
(3)地域づくりにファンドレイジングはどう活きるか

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