本記事は、日本ファンドレイジング協会大学チャプターが行った緊急調査「高等教育機関(大学)における新型コロナウイルス感染症に関する寄付募集の状況」を全3部でお届けします。
•シリーズ01 大学寄付を取り巻く環境
•シリーズ02 国立大の7割で学生支援主体の募金活動を実施
•シリーズ03 大学ファンドレイジングの発展に向けて
•全体の18%の大学で、コロナ禍を要因とする募金活動や寄付の受け入れを実施。大学種別では、国立が70%と圧倒的に多く、ついで公立が15%、私立は11%だった。
•寄付金の使途は、困窮する現役学生への経済的支援が主流だが、大学病院への医療支援や研究への支援を呼びかけるものもあった。
•全ての国立大学のウェブサイトに、恒常的に寄付を受け付けるページがあり、オンラインで寄付が完結する仕組が整っていた。
コロナ禍への対応において、国立大学の方が、公立大学と私立大学に比べ積極的に募金活動を行なっていることが分かりました。
私立大学については、日本私立学校振興・共済事業団の「平成28年度学校法人の寄付募集に関するアンケート」結果によると、寄付金募集に「恒常的に取り組んでいる」「周年記念事業など特定の目的により取り組んでいる」と回答した大学法人の割合は81%でしたが、今回の調査で、寄付ページの開設が確認できた私立大学は56%に留まりました。寄付金受け入れの報告ページはあったものの、募集のページが見当たらない大学や、学校法人の総合サイトにのみ寄付募集を掲載している大学もありました。このことから、寄付募集の取り組みをしている大学が、必ずしもウェブサイトを活用している訳ではないことが分かりました。公立大学についても、同様と推察されます。
今回の調査から、コロナ禍対策としての寄付募集には、以下の3つの特徴があることが分かりました。
1.支援内容の緊急性が非常に高かった
2.これまで大学が寄付を呼びかけていた保護者も支援対象となった
3.大学施設閉鎖に伴い、事務機能が大幅に制限された
以下にもう少し詳しくみていきます。
1.支援内容の緊急性が非常に高かった
通常、大学で寄付を募集する場合、趣意書の作成から実施まで数年をかけることもある周年記念事業や、施設整備や教育・研究支援など、期間を定めず寄付金を受け付ける性質のものが多く、「コツコツ、丁寧に」準備するものが主流です。しかし、今回のような世界規模の社会変化に対応するには、これまでにない「緊急性」が求められ、各大学では、かつてないスピードで合意形成や関係者間の調整が行われたことが推測されます。
2.これまで大学が寄付を呼びかけていた保護者も支援対象となった
既存・潜在的寄付者である保護者の一部が、コロナ禍で経済的な打撃を受けたことで、支援を受ける対象となり、寄付の呼びかけが非常に難しい状況となりました。比較的歴史の浅い大学の方が、卒業生の年齢層が厚い大学に比べ苦戦している様子がうかがえます。日頃から多様なステークホルダーと良好な関係を構築することの重要性が、今回のような緊急事態で再認識されました。
3.大学施設閉鎖に伴い、事務機能が大幅に制限された
寄付ページにオンライン決済機能がない場合、寄付の申込みを受けて払込用紙を郵送する、という手順を踏みます。緊急事態宣言を受け、大学への入構が制限され、職員のほとんどが在宅勤勤務となったことから、事務処理が滞りました。寄付者が、金融機関へ赴くことを推奨しないよう、払込用紙による送金の案内を控えていた大学もあったようです。オンライン決済機能を備えていた大学は、寄付金受け入れに関し、事務処理の遅れの影響をあまり受けることなく展開できたことが、国立大学の数字でも裏付けられます。
以上のことから、新型コロナウイルス感染症に関連する対策として寄付の受け入れができた大学は、(1)緊急募金実施の決定が早く、(2)比較的経済的影響を受けない世代の卒業生がいて、(3)インターネットで寄付できる体制が整備されていた、と考えられます。
ただし、オンライン決済が未整備でも募金活動を始めた大学はあり、寄付金募集のあり方は、大学経営に関わる意思決定者の意向次第である、と言えます。
大学チャプターでは、4月下旬から、コロナ禍に関連し、寄付募集を始めた大学をFacebookと公式サイトで随時紹介してきました。これから同様の寄付を検討する大学の方は、参照されることをお勧めします。トップメッセージの内容や発信のしかた、決済方法、目標額や一口の金額など、具体的な情報が得られます。
大学新型コロナウイルス感染症関連プロジェクトまとめページはこちらから
5月5日に開催した大学チャプター年次総会後の交流会では、全国の大学ファンドレイジング関係者約30人が参加し、新型コロナウイルス感染症に関連する各大学の取組みを中心に、情報交換を行いました。「コロナ禍で寄付をどう呼びかけてよいのか分わからない」という悩みや、「応援したいという声があるなら積極的に受け入れるチャンス」という前向きの言葉も聞かれました。
大学チャプターが発信する情報に触れ、あるいは交流会に参加した方から、「本学でも他大学を参考に寄付金募集を始めました!」という声がいくつか寄せられました。
(コロナ以降、大学チャプターのイベントはオンラインで開催。6月の勉強会には、全国から50人以上が参加しました。)
大学チャプター共同代表 高橋 麻子(東京大学)のコメント。
「大学のファンドレイジングにはまだ体系的な手法はなく、特に地方大学や新設の私立大学などのファンドレイザーは1~2人など少人数体制のところも多いようです。みな日々悩みながら募金活動に取り組んでいます。大学の規模や歴史に関わらず、今回のような前代未聞の緊急事態下で、これだけ多くの大学が一斉に、短期間で寄付募集を立上げ着手することはありませんでした。2020年は大学のファンドレイジングにとって大きな節目になることは確かです。
大学チャプターのネットワークを生かした活動が、新型コロナウイルス感染症での募金活動の広がりに寄与できたことは大変嬉しく思います。今回の調査結果と合わせて、引き続きコロナ禍での各大学の活動を追いながら、経験と知見を集めて広く発信を続け、日本の大学全体のファンドレイジングの発展に繋げることができればと思います。」
参考資料:日本私立学校振興・共済事業団「平成28年度 学校法人の寄付募集に関するアンケート」
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