災害発生時、いち早く被災地に駆けつけ支援活動を行う民間組織・空飛ぶ捜索医療団“ARROWS”、被災自治体に代わって他の自治体がふるさと納税による寄付を募る「代理寄付」の制度を立ち上げた株式会社トラストバンク「ふるさとチョイス」。
能登半島地震での支援活動に関するファンドレイジングの功績が称えられて第14回日本ファンドレイジング大賞 協賛賞(株式会社ファンドレックス提供)を受賞した両者との対談を通じて、災害が多発する日本における災害支援の最前線での取り組みと寄付が果たす役割について考えます。
※日本ファンドレイジング大賞 協賛賞は、ソーシャルセクターの支援を専門とするコンサルティング企業である株式会社ファンドレックスが協賛社としての独自の視点で特段の功績があった組織・団体を表彰するものです。
イノウエ:まず、稲葉さんに災害発生時の活動についてお話を伺いたいと思います。能登半島地震が発生してすぐに出動されたとのことですが、そのときの状況はいかがでしたか?
稲葉:2024年1月1日に最初の揺れが起きたその約3分後には出動を決定していました。チームメンバー全員が本部(広島県神石高原町)に集まるまでに少し時間がかかりましたが、その日に車両3台で被災地に向かいました。 私たちは、災害発生後3時間以内に出動できる体制を目標に、日頃から準備と訓練を行っています。
イノウエ:すぐに出動できたのは、日頃からの備えがあったからこそなんですね。
稲葉:その通りです。日頃からの備えと、それを支える寄付のおかげです。皆様からの寄付があるからこそ、私たちはいつ起こるかわからない災害に対して365日備え、発生時は即座に被災地に入り救命活動や医療活動を行うことができます。例えば、災害時には医療物資やヘリコプター・船などの救助機材、人員の迅速な移動が求められますが、それらは平時の寄付によって支えられています。災害発生前の寄付が、緊急時の迅速な対応を可能にするのです。
(写真)ピースウィンズ・ジャパン提供
稲葉:災害が起きた直後に寄付が集まりやすいのは事実です。しかし、実際には災害が発生する前からの準備や体制づくりが重要になります。平時に訓練を行い、機材を整備し、チームを編成しておくことで、発災時に迅速かつ効果的な対応が可能になります。しかし、そのための資金を集めるのは簡単なことではありません。災害が起きてからではなく、いつ起こるかわからない災害に備えておくためにも寄付が必要であることを、多くの方に理解してもらうことが大切だと思っています。
イノウエ:災害発生時に、ふるさと納税で災害支援を行う取り組みも広がりを見せていますね。宗形さん、トラストバンクの「代理寄付」の制度について教えてください。
宗形:代理寄付は、被災地の自治体が自ら寄付を集めることが難しい災害発生時において、他の自治体が代わりに寄付を集める仕組みです。証明書の発行などの事務作業を肩代わりすることで、被災地は迅速に必要な支援を受けることができ、寄付者はより簡単にふるさと納税で支援することができます。
イノウエ:行政はどうしても縦割りになりがちですが、この制度は画期的ですね。
代理寄付の仕組み
宗形:代理寄付の制度は、2016年の熊本地震を機にスタートしました。きっかけとなったのは、その前年に豪雨による深刻な被害に見舞われた茨城県境町です。境町は被災地自治体として大変な思いをされる中、当社のふるさと納税総合サイト「ふるさとチョイス」を通じて寄付金を集めました。その翌年に熊本地震が起き、同町の町長から被災地に代わって寄付を集められないかと相談を受けました。さまざまな自治体職員と協力してこの仕組みをスタートさせましたが、その中には石川県輪島市の職員の方もいらっしゃいました。
能登半島地震では、これまでに20億円を超える寄付が集まっています(2024年6月26日時点)。「ふるさとチョイス」では、2014年から国内で初めて、ふるさと納税を利用した災害支援に特化した窓口を常設していますが、能登半島地震は寄付件数と金額いずれも過去最高となっています。
宗形:プラットフォーマーとして、これまでの経験から台風の時期など災害が予見される場合には、シフトを組んでいつでも対応できるようにしています。今回も発災直後に社内チームを招集して会議を開き、寄付申込みの開設をサポートしました。また、日頃から各自治体との連携を強化しています。過去に被災された自治体の状況を他の自治体に伝える説明会なども実施しています。
イノウエ:能登半島地震から半年余りが経ちました。今の取り組みを教えていただけますか?
稲葉:災害が起きると、それまでのコミュニティが突然なくなってしまいます。避難先や仮設住宅では新しいコミュニティづくりが必要です。今回の能登半島地震は、ご高齢の被災者が非常に多いのが特徴です。高齢化率が高い地域では、通常の医療や福祉サービスに加え、顔の見える関係性にもとづいた共助によって成り立っていました。しかし、それが崩壊することで孤立する高齢者が増えており、その方々への継続的な見守りが必要です。復興支援は一朝一夕でできるものではなく、何年、何十年という単位での支援が求められます。
イノウエ:息の長い支援が必要とされる一方で、時間が経つにつれ寄付は集まりにくくなりますよね。そうした中で、被災地への支援には寄付だけでなく「応援消費」として被災地域の特産品を購入する方法もありますよね。
宗形:そうですね。私たちは、ふるさと納税を地域経済の活性化につなげることを意識して利用していただきたいと考えています。地域の特産品を知るだけでなく、普段の買い物でも国内の商品を意識して選んでいただけることにもつながってほしいと思っています。
イノウエ:最後に今感じていることを教えてください。
稲葉:災害支援を自治体だけに押し付けてはいけません。私たちのような団体も、自治体と一緒にサポートやバックアップを行うことが必要です。そのためには、災害対応の経験を持つ民間団体との連携を平時から積み重ねていくことが大切だと思います。
宗形:今回の能登半島地震では、20億円を超える寄付が集まりましたが、これは一人ひとりの「なんとかしたい」という想いの集合体です。これらの想いをどう被災地に繋げていくかが重要であり、これからも応援し続けたいと思います。
イノウエ:今日はありがとうございました。能登半島地震から半年が経過した今、現場で支援活動を続ける団体と現場と支援者をつなぐ役割を担うプラットフォーマー、それぞれの視点から見えてくる課題感をお伺いしました。本記事が、災害といういつ起こるかわからない事態に常に備え続けている両者の取り組みに想いをはせ、寄付の役割と可能性について考えていただくきっかけとなれば幸いです。
株式会社ファンドレックスは「寄付・社会的投資が進む社会の実現」に向けて、
当会と一緒にチャレンジするスペシャルパートナーです。
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