投稿日:2021年7月30日

パンデミック禍でも増加する遺贈寄付|特集・世界のファンドレイジングの今〜AFP ICON2021からの学び

小川 愛Ai Ogawa
准認定ファンドレイザー
日本ファンドレイジング協会 事務局長

米国で毎年開催される世界最大のファンドレイジング大会「AFP ICON」、今年6月にオンラインで開催されたAFP ICON2021に参加した5人のファンドレイザーが、それぞれの視点で世界のファンドレイジングの今を伝えます。

パンデミック禍でも増加する遺贈寄付
日本ファンドレイジング協会事務局長 小川 愛(准認定ファンドレイザー)


昨年にひきつづき、オンラインでの開催となったAFP ICON。オープニング・セッションでは、AFPを率いるMike Geiger氏(President&CEO)から、「2020年の米国の寄付市場全体は、非常にポジティブな結果が報告されています。一方で、寄付が伸びている分野もあればそうでないところもあります。ファンドレイザーとして、今社会にある様々な課題を改めて捉え直し、作り上げてきたシステムやツールも必要なところは変えていかなければなりません」と語られました。

パンデミック禍でも増加する遺贈寄付

今回、私は「遺贈寄付」をテーマにいくつかのセッションに参加しました。その中で印象的に残ったのは、以下の項目です。

-パンデミック (コロナ禍)でも遺贈寄付額は伸びている。例えばGivingUSAによると、米国での遺贈寄付は419.9億ドルで前年度比は10%増

2020年度前半で作成された遺言書は前年の6倍にあたる(出所: Willfora.com)。イギリスの遺贈寄付推進組織であるRemember a Charityによると、団体の”Make a Will”(遺言書を作成する)というページには通常の2倍以上のアクセスがあった、とのこと。海外ではオンラインでの遺言書作成も進んでいるようで、それも後押しになっているようである

-最初の遺言書を作成する年齢も下がってきており、Anthony Alonso氏 (President, Catapult Fundraising, Inc)によるとその平均年齢は44歳であり、最初の遺言書に遺贈先の団体を記入する率は50%以上となっており、初回に遺贈寄付の記載がされているとそれが継続されやすい、とのことである

-Blakely Legacy Research Survey 2021によると、既に遺言書を作成している人のうち、遺贈先の団体を記入している割合が米国で53.1%、カナダで58.9%、なかには寄贈先を4か所以上記入している人もいる(米国で9.5%、カナダで7.3%)

遺言書の有無を問わず、遺贈寄付の意向については米国で17.8%, カナダで56.1%(Blakely Legacy Research Survey 2021)

いかにして遺贈寄付を伸ばしていくのか

このような環境の中、遺贈寄付をのばしていくための具体的な手法についてのセッションがありました。Ligia Pena氏(International Legacy Consultant) は、自団体が保有している寄付者のデータベースを活用し、2年に1回は寄付者に調査を行っています。その結果、寄付者を、①遺贈寄付を予定していない、②情報について知りたい、③団体への遺贈寄付を想定している、④既に遺言書を準備している、といったセグメントに分け、それぞれに対して異なるアプローチを提供していました。Anthony Alonso氏は、寄付者に訪問できない環境下では、電話でのアプローチが有効とし、寄付者リストのスクリーニング、電話のスクリプトや事前準備などの重要性を強調しています。

いずれのスピーカーも、遺贈寄付は団体への高額寄付者からというよりも、額は関係なく継続的に長期的に支援をしてくれている寄付者からのほうが多いとしており、前述のPena氏は、「自団体のリストに載っていない方からの寄付が半数以上を占める」とも言っています。何をどうやって寄付してもらうかを語るのではなく、遺言書に寄付先として指名いただくことが団体にとってとても重要なことであり、そこからどのようなインパクトを生み出していこうとしているのか、という点をニュースレター、ウェブサイト、パンフレットで伝えていくことの重要性を強調しています。

そしてどの遺贈寄付のセッションでも、”Symbolic Immortality” という言葉が使われていました。寄付者ご自身の気持ちを託した寄付を残すことにより、形を変えて生き続ける、象徴的な不滅性ということでしょうか。遺贈寄付に託された寄付者のお気持ちを大切にし、社会を変えていく思いは世界共通であると改めて感じました。

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小川 愛 Ai Ogawa

准認定ファンドレイザー
日本ファンドレイジング協会 事務局長

筑波大学第二学群人間学類卒業 (教育学専攻)。 日本IBM株式会社入社後、社内広報、宣伝部門にて企画・実施を担当。1999-2001年IBM Asia Pacificに出向。その後、IMC 部長、ブランド推進部長、社会貢献部長を担当。2019年9月に日本ファンドレイジング協会に入局し、2020年4月から現職。第9期東京都生涯学習審議会委員。NPO法人企業教育研究会 理事。一般財団法人東京学校支援機構評議員。社会貢献教育ファシリテーター。

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