『寄付白書2015』のデータ元となっている「2015年全国寄付実態調査」によると、2014年の1年間で金銭寄付をした者は43.6%である。寄付先として多かった対象・分野を順に挙げると、自治会・町内会などの地縁団体27.9%、共同募金会26.4%、日本赤十字社15.1%、緊急災害支援7.7%、宗教関連6.6%、国や自治体5.8%となっている(値は全回答者ベースの寄付者率)。
他方、まちづくり、国際協力・交流、芸術文化・スポーツ、教育・研究、福祉、青少年育成、環境保全、中間支援などの各分野への寄付者率は5%以下であり、低調である。寄付先として地縁団体、共同募金会、日本赤十字社などとそれ以外の分野との差はかなり大きいといえる。
なぜこのような差があるのか。1つの理由として、「寄付先としての信頼度」の違いがあるように思われる。同調査では、「寄付先を選ぶ際に重視したこと」を尋ねているが、最も回答が多かったのは「寄付金の使い道が明確で、有効に使ってもらえること」(寄付者の46.1%が「該当する」と答えた)であった。
ここから、地縁団体、共同募金会、日本赤十字社などは伝統と実績があり、寄付先としてある程度信頼できる対象である(と人々に認識されている)からこそ、より多くの人々から寄付先として選ばれている、と推測することができる。逆に、各分野別の団体がそれほど寄付先として選ばれていないのは、「きちんと寄付を使ってもらえるかどうかがよくわからないから」なのかもしれない。
「寄付金がきちんと有効に使われているか」ということに対する一般の人々の不安感は想像以上に高いものがある。2017年に実施した最新の「全国寄付実態調査」(調査結果の詳細は、年内発行予定の『寄付白書2017』を是非ご覧いただきたい)では、「寄付したお金がきちんと使われているのか不安に感じる」という意見に対する賛否を尋ねてみた。その結果、8割以上の回答者がその意見に肯定的であった(「とてもそう思う」と「ややそう思う」の合計)。
回答者の属性別にみると、女性、40代、低学歴、高収入、昨年1年間に寄付やボランティア活動をしなかった者で、とくに肯定的回答が多い。しかし、男性、20代ないし70歳以上の高齢者、高学歴、低収入、昨年1年間に寄付やボランティア活動をした者などにおいても、3分の2以上は肯定的回答をしていることには変わりない。「寄付金がきちんと有効に使われているか」に不安を感じる人々は、属性にかかわりなく全般的に多い、と見るのが妥当であろう(図1)。
図1 「寄付金が有効に使われるか」についての一般の人々の不安感
このような寄付に対する不安感を取り除くためには何が必要なのだろうか。寄付の使い道や寄付がもたらす社会的インパクトを寄付者に対してしっかりと報告していくこと、寄付を集める団体の事業内容や財務情報を分かりやすい形で一般に広く公開していくことが重要であることは明らかであろう。
しかし、寄付に対する不安感はかなり根深い性質のものだとも考えられる。図2に示すように、寄付に対する不安感は政治不信と強く相関している。つまり、「政治家は自己利益ばかり考えて、国民のために働いていない」と考える人ほど、寄付に対する不安感は非常に強い。逆に、少数ながらも一定割合存在する政治不信に陥っていない人々の間では、寄付に対する不安感は相対的に弱い。
TV番組などで誇張されて描かれがちな政治家に関する偏った「腐敗イメージ」に影響されて、「『世のため、人のため』と言って活動している者たちは、どこか胡散臭い。結局は自己利益のために動いているのではないか」という不信感が、人々の心に深く刻み込まれている。そして、そのような心理が政治家のみならず、寄付を集めるNPOの公共的活動にも投影されている。このような可能性が図2からうかがえる。
図2 寄付に対する不安感と政治不信の関係
もしこのような見立てが正しいのであれば、寄付の使い道や財務情報などをわかりやすく公開し、一般の人々に伝えていくだけでは十分ではない。「公共問題を解決する」人々や彼らの公益活動に対する全般的な不信感を拭い去るような、一般の人々の大掛かりな意識改革が求められるのかもしれない。そして、そのような意識改革を実現するためには、青少年期に行われる主権者教育や社会貢献教育の抜本的な改善が急務といえよう。
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