「ソーシャルメディア」と呼ばれるインターネットを利用した情報発信・情報共有ツールを使っている人は多い。その中でもソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)をコミュニケーションツールとして利用する人が特に多くなっている。
ソーシャルメディアの利点は何か。2つ挙げる。テレビや新聞などはマスメディアとして数多くの人々に情報を届けることができる。しかしこのとき我々は情報の受け手であり、発信者になることはほぼ皆無である。かたやソーシャルメディアは、いつでも自由に情報を発信する機会を「個人」がもつ。もう1つの利点は、「双方向性」である。SNSで特にその機能が充実しており、日本では現在、LINEが最も多く利用されている。次いでFacebook やTwitterなどが利用されている。
この2つの利点により、NPOのファンドレイジングにとってもソーシャルメディアは(効果の是非や大きさは別として)情報発信ツールとして有用である。大きな資本を持たなくても、インターネットにアクセスさえできれば、個人・NPOが寄付の必要性や重要性を訴えるといった寄付を獲得するための情報発信を、従来の手法に比べれば手軽にできるだけでなく、ウェブなど相手が見にきてくれるのを待つのではなく、こちらから相手に直接働きかけることができる。
ここで問題となるのは、どのようにソーシャルメディアを利用すれば寄付獲得につながるのか、ということである。Nah & Saxton(2013)は、NPOがソーシャルメディアのアカウントを持っていることや発信量が多い団体の属性を分析している。しかし、それがどのように寄付獲得に寄与しているかには触れられていない。
日本においては、Okada et al.(2017)が東日本大震災の際にNPOがSNSをどのように活用し、どのように寄付獲得に寄与しえたかについて分析を行っている。なお図1および図2は、東日本大震災前後のNPOによるSNSの利用実態である。図1から、震災直後は団体が所有するウェブサイトやニューズレターなど団体独自のツールでの寄付の呼びかけが多かったことがわかる。図2は利用の変化を示しており、時間の経過とともにより多くの団体がSNSを利用している。
***図1 東日本大震災発生後3ヶ月の間に寄付獲得のために利用したメディア
出所: Okada et al.(2017)を翻訳の上、一部抜粋。
***図2 東日本大震災で震災復興事業に携わったNPOのSNS利用(震災前の利用を基準とした変化率)
出所: Okada et al.(2017)を翻訳の上、一部抜粋。
ではその効果はどうだったのか。Okada et al.(2017)は、SNSの利用と寄付収入額と照らし合わせて分析した結果、災害前から利用し、事後にも利用している団体の方がより多くの寄付を集められた可能性があることを示唆している。端的に言えば、「日頃から」が重要である。
またLovejoy & Saxton(2012)は、情報量だけでなく、その内容が重要であることを指摘し、①情報提供型(informational)、②行動促進型(action)、③対話型(community)という3つのメッセージ要素を挙げている。特に対話型の発信によって寄付獲得につながる可能性があると言われている。日本のデータを使って現在検証中である。
ソーシャルメディアを通じて発信されるNPOのどのような「声」がどのように支援者や一般の人々に届き、そして寄付行動に至るのか。エビデンスをもとにした寄付獲得のためのtipsとするには、ソーシャルメディアにかかわる様々なメカニズム解明が重要である。
参考文献
Lovejoy, K., & Saxton, G.D. (2012). Information, community, and action: How nonprofit organizations use social media. Journal of Computer‐Mediated Communication, 17, 337-353.
Nah, S., & Saxton, G.D. (2013). Modeling the adoption and use of social media by nonprofit organizations. New Media & Society, 15(2), 294–313.
Okada, A., Ishida, Y. & Yamauchi, N. (2017). Effectiveness of Social Media in Disaster Fundraising: Mobilizing the Public towards Voluntary Actions. International Journal of Public Administration in the Digital Age, 4(1), 49-68.
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