日本とアジアの社会において、インパクト志向な資金提供が大きな変化をもたらしています。急速に成長するインパクト志向な資金は注目を集める一方で、社会課題の解決に向けた資金提供のあり方に関する問いも生まれています。ここでは、そうしたインパクト志向の新しい資金の動きと、投資や助成など異なる性質をもつ資金の連携について、現在積極的に議論が展開されている状況をご紹介します。
近年、様々な領域で「インパクト」の重要性が認識され、日本でもその流れが広がっています。ここでいう「インパクト」とは、社会課題の解決や新しい価値の創造に向けて、組織や事業によってもたらされる社会的・環境的な変化を指します。現在、このようなインパクトの創出を志向する資金の流れは大きな変化を迎えています。
財務的リターンと並行して、ポジティブで測定可能なインパクトの創出を目指すインパクト投資の国内投資残高は、2017年は約718億円だったものが、2022年には約5兆8千億円へと急速に拡大しています(※)。金融機関や政府・地方自治体もその動きに参加しており、インパクト志向の投資を推進する金融機関による「インパクト志向金融宣言」や、東京都による官民協働の「ソーシャルインパクト投資ファンド」の創設が挙げられます。
また、10年以上取引のない休眠預金を社会課題の解決や民間公益活動の促進のために活用する休眠預金活用事業においては、「社会的インパクト評価」の実施が求められており、のべ1,000以上の組織が社会的インパクトの追求に取り組んでいます。民間助成財団として非営利スタートアップを支援する「一般財団法人Soil」や、子ども・家族の社会課題解決に助成する「みてね基金」など、成功した起業家によるインパクトの創出を目指す新しいフィランソロピーの取り組みも拡大しています。
日本ファンドレイジング協会も事業者によるインパクトの向上と拡大の取り組みを進めるために、2023年5月にインパクト測定・マネジメント(IMM)の導入に関する伴走支援と、創出されたインパクトと連動した年間最大1,000万円の資金を提供する「アウトカムファンド for IMM」をスタートしました。
このように、より多くの資金が「インパクト」に向かう潮流の中で、社会課題解決につながる資金提供のあり方が重要な問いとなっています。
インパクト創出を加速する「アウトカムファンド for IMM」
日本では、財務的リターンと並行してインパクトの創出を目指すインパクト投資と、財団や企業・富裕層等による社会貢献としてのフィランソロピーの取り組みは、それぞれ独自に発展し、関わりあったり、混ざりあったりする機会はほとんどありませんでした。一方で、世界を見てみると、異なる性質の資金がいかに連携しその役割を最大化していけるのかという議論が盛んになされています。
例えば、これまで見過ごされてきた地域や人々を対象とした事業や、初期段階のプロジェクトに対しては、インパクト投資の対象とならない場合があります。こうしたリスクが高いためにこれまで投資の対象とならなかった領域に、フィランソロピーの資金や公的な資金などを投入し、新しい取り組みや初期段階のプロジェクトをサポートすることで、新たな資本を惹きつけていくことが可能となります。
このようにフィランソロピーの資金が新しい役割を担い、またインパクト投資という持続可能でスケール可能な支援をする資金が組み合わさることで、社会的課題に対する包括的なアプローチが可能になると注目されています。
「AVPN(Asian Venture Philanthropy Network)」は2011年にシンガポールで設立され、現在、インパクト投資やフィランソロピーに関わる600以上のメンバーから構成されるアジア最大の組織です。アジアにおいて、インパクト志向の資金循環の拡大とフィランソロピーとインパクト投資の融合を推進する組織であり、年次カンファレンスや協働事業、ワークショップ、セミナー、研究事業などを展開しています。
日本ファンドレイジング協会は、これまでAVPNの日本における活動をリードしていた伊藤健氏(特定非営利活動法人ソーシャルバリュージャパン 代表理事)をアドバイザーに迎え、2023年7月より、AVPNの日本代表パートナーとしてアジアにおけるインパクト創出のための資金循環のエコシステム構築に取り組んでいます。
また、2023年12月1日には「AVPN Social Investment Forum Japan 2023」と題したイベントを東京で開催します。このイベントでは、社会的投資に関する知見やベストプラクティスの共有が行われ、日本・アジアにおけるインパクト投資やフィランソロピーのキーパーソンとのネットワーク構築、協力の可能性が探求されます。
当協会は、今後も、日本とアジアにおけるインパクト創出のための資金循環のエコシステム構築を進め、社会的課題の解決に向けた取り組みを強化していく予定です。
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