投稿日:2023年1月17日

ライフワークとして本気で挑み続ける。もったいない系寄付にとどまらない社会貢献の取り組みとは

家に眠る使わなくなった骨董品や貴金属、切手などのお宝を非営利団体への支援として集める「もったいない系寄付」の先駆的存在「お宝エイド」の創業者、三井恒雄さん。実は、三井さんはファンドレイジングの年次カンファレンスでのボランティアやSDGsカードゲームのファシリテーターなどさまざまな「顔」の持ち主です。今回は、お宝エイドに限らず、より良い社会づくりに向けてチャレンジを続けるお一人としての三井さんを深掘りすべく、お話を伺いました。

プロフィール

三井 恒雄

物品寄付型ファンドレイジングプログラム『お宝エイド』
2004年マーケティング会社を起業。東日本大震災後、ソーシャルビジネスに関心を持ち、リユースと社会貢献を組み合わせた物品寄付型ファンドレイジングプログラム『お宝エイド』を開始。2015年アメリカ「スティービーアワード:非営利組織資金調達部門」で金賞受賞。2017年アメリカサンフランシスコで開催された世界最大のファンドレイジングカンファレンスAFPに参加、IFC-ASIAバンコク「第一回Social Impact Awards」招待参加。AMEX社会起業家アカデミー合宿選出(ETIC)。『SDGsを自分ゴト化するワークショップ』を中学校や高校、企業などで延べ1000人以上に開催。ふるさと版のSDGsボードゲームの制作にも取り組み、SDGsの普及啓発、相続、遺贈問題、地方創生、サーキュラーエコノミーにも取り組む。モットーは「顔合わせ、心合わせ、力合わせ」。

聞き手

鵜尾 雅隆

日本ファンドレイジング協会 代表理事
JICA、外務省、米国NPOなどを経て2008年NPO向け戦略コンサルティング企業(株)ファンドレックス創業、2009年、課題解決先進国を目指して、社会のお金の流れを変えるため、日本ファンドレイジング協会を創設し、2012年から現職。認定ファンドレイザー資格の創設、アジア最大のファンドレイジングの祭典「ファンドレイジング・日本」の開催や寄付白書・社会投資市場形成に向けたロードマップの発行、子供向けの寄付教育の全国展開など、寄付・社会的投資促進への取り組みなどを進める。

※2018年にスペシャルパートナーとしてご登録をいただいた際のインタビュー記事はこちらからご覧いただけます。(当時のインタビューでは、お宝エイドを立ち上げた背景や経緯などをお話しいただきました。)

コロナ禍でさらに広まる「もったいない系寄付」

鵜尾:三井さんの取り組まれている「お宝エイド」のように、使わなくなった物品などを寄付する「もったいない系寄付」は、日本においても一つの重要な文化として広がり、根づいてきているように感じます。その社会的背景をどのようにご覧になっていますか。


2014年に始まったお宝エイドは「もったいない系寄付」の先駆的存在

三井:私たちお宝エイドの主な利用者様層は60代〜70代になっていますが、ここにはいくつか理由があると思います。

まず一つは、日本ファンドレイジング協会が出している「寄付白書2021」にもあるように、「年齢を重ねれば重ねるほど、社会の役に立ちたいという意識が強くなる」ということ、そしてもう一つは時代の変化です。

かつてはモノの豊かさが幸福感につながっていた時代でした。しかし、現代の人々はモノに幸福感を求めなくなってきています。リーマンショックや東日本大震災などを経て、さらに、終活や断捨離、ミニマリストなどの浸透もあるのではないでしょうか。

若い時に収集した切手やコインなどのコレクションを、自分の体と脳が健康なうちに、納得のいくかたちで手放したい。価値が理解されず、子や孫に譲っても迷惑がられるなら、社会により良い形で手放したい。こうした個人の想いと時代の変化が重なった結果、特に60代〜70代の方々の間でもったいない系寄付に共感をいただくことが増えているのだと思います。


コロナ禍では貴金属や未利用切手など換金性の高いモノの寄付が増えた

鵜尾:コロナ前後でもったいない系寄付の傾向に変化はありましたか。

三井:コロナ禍で、送っていただくモノの量が増えただけでなく、内容にも変化がありました。以前は骨董品などが多かったのですが、コロナ禍以降は貴金属や未使用切手、未使用商品券などの割合が増えました。おそらく、初めての緊急事態宣言などで寄付者が社会不安を覚え、「みんなで助け合わなきゃ!」という気持ちと、「すぐにでも社会に役立ててほしい」という気持ちから、分かりやすく換金性の高いモノの寄付が増えたのではないかと考えています。

鵜尾:2014年にお宝エイドを始められて8年が経ちますね。8年間を振り返ってみてどうですか。

三井:鵜尾さんや日本ファンドレイジング協会との出会いはとても大きかったですね。事業を立ち上げた当時は、NPOや寄付の業界に知り合いがまったくいない状態でした。しかし、認定ファンドレイザーの鎌倉幸子さん(かまくらさちこ株式会社 代表取締役)に出会い、2014年にファンドレイジングの年次カンファレンス「ファンドレイジング・日本2014(FRJ2014)」に声をかけてもらったことをきっかけにご縁が広がりました。そこから、あれよあれよという間に、鵜尾さん達と一緒にサンフランシスコのAFP(世界最大のファンドレイジング年次大会)に参加したり、タイ・バンコクでの初のIFC ASIA(国際ファンドレイジング会議のアジア版)に招待参加したりと、全国各地の日本のファンドレイザーだけでなく、世界各地のチェンジメーカーの方々ともご縁をいただいて、現在に至ります。

お宝エイドは、自分自身のライフワークとして「社会に何かしら役に立ちたい」という気持ちで取り組んできましたが、本気で取り組んでいることを伝えたく、がむしゃらに奔走した8年だったと思います。私たちは、「顔合わせ、心合わせ、力合わせ」をモットーにしていますが、人と会うことを大切にしてきたことで色々な方とご縁をいただけたのかなと思います。


大切にしているモットーはさまざまなところに刻まれている

「ボランティア」「SDGsカードゲームのファシリテーター」… あえて別の顔を持つことで知見を広げる

鵜尾:三井さんはボランティアとしても日本ファンドレイジング協会に関わってくださっていますよね。三井さんにとってボランティアとはどういう存在でしょうか。

三井:私はボランティアだからこそできることがあると思っています。例えばファンドレイジング大会に一参加者ではなく、ボランティアとして関わることで、「一緒につくること」に関わることができます。ボランティアでの出会いは、魂が揺さぶられるような刺激を受けることも多く、非常に学ぶ機会も多いです。一スポンサーや一参加者として参加していたら見ることのできない景色や出会えない縁に恵まれ、自分の知識や経験の幅を広げるとても良い機会になりましたし、自分がとても幸せになれる場所でもありました。


2019年に駒澤大学で開催されたファンドレイジング大会「FRJ2019」にボランティアとして参加

鵜尾:さらに別の顔として、三井さんは「SDGsカードゲームのファシリテーター」もされていますね。SDGsカードゲームに懸ける想いや、実際にやってみての実感はいかがですか。

三井:SDGs(持続可能な開発目標:Sustainable Development Goalsの略)という言葉を、コロナ禍になって初めて聞いたという人も多いようなのですが、実は、そんなに新しいことではないんですよね。SDGsは2015年に国連で採択されましたが、その前身であるMDGs(ミレニアム開発目標)は2001年に採択されています。今思えば、私たちが学生の頃も、すでに大量生産・大量消費型の社会に警鐘が鳴らされ、次なる社会のあり方の模索として盛んに「ポストモダン」が語られていましたよね。しかし、大きな社会変化はなく、「いつかはいい社会になったらいいよね」という空気感のまま、多くの人が真剣に考えることなく最近までズルズルと来たんだと思います。


「神奈川県版SDGsボードゲーム」の製作にも携わり、ファシリテーターとして出張授業を行う

三井:それが、コロナ禍になり、経済が強制的に止まり、社会が停滞しました。社会が急速に変化するなかで、経済や働き方だけでなく、私たちが「どう生きるか」といった価値観の転換も迫られましたよね。そうやって社会全体が強制的に立ち止まらされ、一人一人がこの先の社会のあり方をちゃんと考えるようになった結果、SDGsに一つの光が向けられ、一気に社会へ浸透したのだと思います。

しかし、SDGsという言葉は聞いたことがあるけれども具体的には分からない、という人が多くいます。そこで、カードゲームを使ってSDGsについて知ってもらい、ジブンゴトとして何かに取り組む一歩を踏み出すお手伝いなら自分にできそうだと思い、SDGsカードゲームに力を入れるようになりました。

SDGsがすべてとは思いませんが、SDGsを知っている人が100人いる村と、1万人いる村では見える景色も変わってくると思います。SDGsカードゲームの参加者からは、「こんな課題があることに気づいていなかった」という声をよく聞きます。カードゲームを通して、社会問題に気がつくヒントになったり、そこからさらに行動に移すきっかけになるという点も、SDGsカードゲームのような楽しく学べるツールの重要な役割だと感じています。

厳しいときこそ一緒に頑張りたい!みんなが支え合う優しい社会を目指して

鵜尾:日本ファンドレイジング協会のスペシャルパートナーとして、2年連続で(そして2023年度も)協会を支えてくださっていますね。今後、私たちとともに、どのような未来をつくりたいと思い描かれていますか?

三井: コロナ禍をうけて社会活動が強制的に止められてしまいました。社会が厳しくなればなるほど、社会の見えないところにはこれまで以上に困っている人がいます。このままでは、その人たちを支える非営利団体の活動が止まってしまい、本当に大変なことになってしまうと危機感を感じました。厳しいときだからこそ、私も踏ん張って一緒に頑張りたいと強く思いました。

そして、その中でも何をやるかを考えたときに、非営利団体と市民の架け橋であるファンドレイザーの仲間を牽引する日本ファンドレイジング協会の背中を後押ししたい!協会がアグレッシブに活動できれば、その力や想いが社会に伝播するのではないかという気持ちで、微力ながらスペシャルパートナー就任を決めました。平時と、社会情勢が動揺し混乱しているとき、どちらで力を発揮したいかと考えたときに、「今だろう!」と。勝手に今こそ私がやるべきだと変な使命感が湧いてきました(笑)。

私は、日本ファンドレイジング協会の皆様と一緒に、もっともっとみんなで支え合える、優しい社会作りに貢献できたらと考えています。あまり大きなことは言えませんが、社会が分断していたり、どこか他人事で、一部の身内だけで動かしているような感覚ではなく、地球上にいる人みんなが身内のような、地球規模の身内感を感じられるような社会を作っていけるといいなと思います。


2019年、母校・駒澤大学と日本ファンドレイジング協会の包括連携協定の締結にも尽力

鵜尾:三井さんの人生の歩みは、多くの若い世代にとって参考になるだけでなく、勇気を与えてくれると思います。最後に20代の若い世代へメッセージをお願いします。

三井:偉そうなことは何も言えませんが、私自身の経験から、色々悩んでも最後は自分の直観といいますか、衝動を大事にしてきました。やると決めたらとことんやる。何がなんでもやるんだ!という強い気持ちを持ち続け、さらに常にその気持ちを強く外に発信し続けることで、周りに応援してもいいよという仲間が現れ、そこから信頼関係にもつながり、できることがどんどん増えてきました。

若いうちに自分のやりたいこと、興味があることを把握しておくと、それが自分の「強み」になるかもしれないと思います。しっかりと把握し、コツコツと育てておくと、一気に花開くタイミングというものも来るかもしれません。その時に、大切なのは強烈なパッションだと思います。時々、「今の会社を辞めてNPOへ就職しようと思う」といった相談をいただくことがあります。しかし、一か八かの勝負に出るのではなく、会社に勤めながらできることから関わってみることをお勧めします。今のポジションだからこそできることもあるはず。期が熟するのを待て、そして、熟したら一気にGo!みたいな(笑)。

あまり偉そうなことを言えた身ではないのですが、私でお役に立てることがあればいつでも気軽に声かけてもらえると嬉しいです。


お宝エイドは「寄付・社会的投資が進む社会の実現」に向けて、
当会と一緒にチャレンジするスペシャルパートナーです。

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