鵜尾:今まで様々なNPOのファンドレイジングや経営強化の支援に取り組まれ、ご活躍されていますが、まずは創業期から今までの経緯を教えていただけますか。
佐藤:2008年に起業する前は、システム開発などを行うIT系の会社の営業を行なっていました。自分が理想とする事業が当時勤めていた会社にはなく、起業を決意しました。ただ、当時はお金も人脈もなく、相当迷いながら、失敗しながら、うまくいかない5年間を過ごしました。
2011年に転機があり、大久保秀夫さん(株式会社フォーバル 代表取締役会長)と出会い、近くで学ぶ機会を得ることができました。
なかでも、大久保さんの「社会性を一番重視して事業をやりなさい。社会性が高ければ自ずと独自性が高くなる。経済性は滴り落ちる。」という教えが好きで、今でも実践しています。事業を儲かるかどうかではなく、困っている人を助けられるかどうかから発案すべきだ。それが起業家のあるべき姿だ、という考えです。
2013年から手厚い3年ほどの学びの期間を通して僕の素地ができ、2015年、ようやく「経営者」になれました。社名を「リタワークス」に変更したのもこの時期です。
鵜尾:今でこそ、ソーシャルプロバイダーの先頭を切っておられる会社だと思いますが、最初から「ソーシャル」に特化していたわけではなかったのですね。
佐藤:そうですね、最初は、ウェブやIT支援は民間企業などに向けてなんでもやっていました。自分たちの会社を維持するために事業を行っていたという感じです。ソーシャルに特化するようになったのは、社名変更をした2015年以降です。
社員にも「社会性」「独自性」「経済性」の順番で考える大切さを教えています。
鵜尾:まさに公益資本主義的な考え方ですね。社会性があることでさまざまな連携が生まれやすい社会になってきている印象です。
佐藤:今では、このような考え方がないと投資をしてもらえないなど、資金調達も難しい状況になっています。
鵜尾:変更後の社名「リタワークス」にはどんな想いが込められていますか?
佐藤:リタワークスは「利他の想いと行動で、世界をより良くする」と理念を掲げており、これは社名変更をした時からずっと大切にしています。
様々な場面で「利他」という言葉が出てきますが、会社のスタンスとしては、「利他はこういうものである」と型は決めないことにしています。リタワークスには、アルバイトも含め、学生から50代までのメンバーが関わっていますが、それぞれの従業員の経験から利他の心が届けられる範囲は異なります。
例えば、僕は身近な家族だけでなく会社の社員、NPO、そして日本全体に、事業を通して「利他の心」を届けていきたいと思っています。
しかし、新卒社員にはもちろん同じことはできません。そこで、まずは手の届く範囲から取り組むように伝えています。自分の周りに向けて利他の心を届けることを心がけると、その範囲はどんどん広がっていくのです。これがリタワークスのベースの理念、哲学であり、とても大切にしています。
鵜尾:「ファンドレイジング・バイト」をはじめ、リタワークスの若手社員やアルバイトの学生には魅力的な方が多いですよね。リタワークスからは常に新しい取り組みが起こっているイメージがあり、まさに理念を体現した動きですね。
佐藤:2015年に社名変更をした後に、自分たちはどの領域にコミットしていきたいかを考えました。マーケットから取り残されている領域を調べていく中で、「NPO」と「病院」への関心が高まり、事業ドメインにすることにしました。
特にNPOについては、2016年に「SOCIALSHIP ※1」を立ち上げ、今年で7年目になる助成プロジェクトです。7年間で200団体のエントリーがありました。さらに寄付決済ツールを提供する「congrant(コングラント) ※2」 の利用団体数も今では1,400超となっています。
※1 「SOCIALSHIP」は、NPOを、資金ではなく「自分たちのできることで」応援しようと、2016年にスタートした非営利活動のための助成プログラム。
※2 「congrant(コングラント)」は、コングラント株式会社が提供するNPO・非営利組織のための寄付管理システム。オンライン寄付決済から、寄付者管理、領収書発行まで寄付管理に必要な業務を一元管理できる。コングラント株式会社は、2020年にリタワークス株式会社より出資を受けて独立。
鵜尾:「コングラント」や「actcoin(アクトコイン) ※3」はどういう想いや発想で生まれてきたのですか?
佐藤:2015年の社名変更をしたときに、「社会性」「独自性」「経済性」の順で考えた結果、NPOを事業ドメインとすると決めています。必要とされるけど儲からないとされているNPO領域に、自分たちができることで社会のピースを埋めていくことが大事だと思いました。起業家は、社会をアップデートするために挑戦することであり、収益化をしていくのは後だと考えています。社会のために、普通では難しいとされることに取り組む、そういう起業家精神が好きですし、自分の支えでもあります。
鵜尾:日本を代表する経営者の中にも、最初は「無理だよ、できるわけない」と言われても、「喜ぶ人の顔が見える」と取り組み続けた人たちが多くいますよね。こうした感覚でソーシャルセクターで何ができるかを考えていくということですね。
佐藤:これから日本ファンドレイジング協会さんとも、「潜在的にあったらいいけど、難しいのではないか」と思われることに取り組んで、作っていきたいです。
鵜尾:今すぐは無理かもしれませんが、命がけで「この領域を突破したい」と思う人たちを業界全体で応援する生態系があるといいですよね。NPOを支援する領域がひとつのセクターとして育つことが、結果としてNPOセクター全体を盛り上げることにつながっていくと思います。
佐藤:2020年にコングラントはリタワークスから分社化しました。その際にリタワークスから出資をしています。その後、2021年9月にKIBOW社会投資ファンド等から、そして22年11月にジェネシア・ベンチャーズ等からの出資をいただくことができました。このような、リタワークスで事業を育て、外部からも資金調達が受けられるようになる、という事例をたくさん作っていきたいです。
※3 「actcoin(アクトコイン)」は、社会問題についての学びや、課題解決に向けた実践などの「ソーシャルアクション」を、独自のコインで可視化し、価値化するサービス
鵜尾:社会全体が変化していく中で、これからの事業の大きな方向性をどのように考えていますか?
佐藤:リタワークスの経営には「理念経営」「社会的事業」「長期経営」の3つ柱がありますが、これらをぶらさず事業を継続していきます。
まず、「利他の想いと行動で、世界をより良くする」という理念に沿った経営を行うことが第一です。新卒採用の拡大や、海外の人も含め、社内外の人材を積極的に取り入れるなど働き方自体も変えていくことで、世界に利他の心を広げていきたいと思っています。
また、「社会的事業」についても、病院とNPOの事業ドメインはぶらさずにしっかりと取り組みます。この二つの領域にもまだまだやることがたくさん残っています。
ここに、もう一つ事業の柱を加えようと思っています。ソーシャルビジネスへの投資です。自分自身がやってきた中で、ソーシャルビジネスの難易度が高いことをよく理解しています。そこで、これからは、事業を起業する人が独りであれこれやるのではなくて、「本当にこの課題を解決しなければいけない」と思う人を応援し、ソーシャルビジネスに事業者として取り組める人を増やしていく必要があると感じています。
鵜尾:最初の立ち上げが一番大変ですよね。資金もなく、独りで悩むことも多いですよね。
佐藤:僕自身もとても苦労してきたので、そのあたりの経験も活かしていきたいです。
鵜尾:実は、日本ファンドレイジング協会でも「チームJFRA」という新たな働き方の形を創ろうと進めています。直接専従雇用の関係だけでなく、ライフステージや個人の希望に応じて柔軟で多様な働き方を受け入れて、チームJFRA全体でビジョン実現に向けて取り組んでいこう、という発想です。セクター全体でそういう動きがあるといいなと思います。
最後に、寄付文化の醸成に向けて日本ファンドレイジング協会と一緒にやっていきたいことなどはありますか?
佐藤:各団体のファンドレイジング力を高めるために、多くの団体が無料でも学習できる環境があるといいなと思っています。非営利セクターに集っている人や情報が交流していく状態を増やし、団体の中でやっていることを他の団体でも活かせるようにしていきたいです。例えば、A団体でもB団体でも働ける、といったことがあってもいいと思います。
鵜尾:人事交流のようなものですね。自分の中に物差しができたり、新たな気づきや、組織間のノウハウの共有にもつながりそうですね。
佐藤:また、業界を発展させる上で、外から入ってくるお金をもっと増やしていくために、コングラントとしては企業に対して社会的に意義のあるお金の使い方の提案も進めていきたいと思っています。既存のデータベースでは寄付をしたいと思ってもどこを選んで良いか分からないという状況です。企業が投資先、寄付先を選べるようなデータベースの開発にも着手しています。
一部の団体だけが寄付を集めているのではなく、広い視野と目線で未来も見据えて社会がアップデートする状況を構築していきたいと思います。これからのリタワークス、コングラントにご期待ください。
リタワークス株式会社は「寄付・社会的投資が進む社会の実現」に向けて、
当会と一緒にチャレンジするスペシャルパートナーです。
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