日本カーシェアリング協会は、2011年に設立された宮城県石巻市の一般社団法人です。
寄付された車を地域コミュニティの中でシェアする取り組みや、災害被災地への車の無償貸出支援など、「寄付⾞」を活⽤した新しい⽀え合いの仕組みを、石巻から全国に広げる活動を行っています。
石渡さんがファンドレイジングを通じて得た学びや、これからNPOで働きたいと考えている方へのメッセージを、根掘り葉掘りお聞きしました。
昔から私は、自然と人の悩みや愚痴の聞き役に回ることが多かったです。
辛い状況にある方を、フラットな状態に戻すことが好きで、得意なのだと思います。
そんな私が、損害保険会社に興味を惹かれたのは、今思えば自然な流れでした。
しかし就職活動中に、あの東日本大震災が発生しました。
災害によって一瞬で日常が奪われます(写真は2018年西日本豪雨の様子)
津波で街が流される映像を目の当たりにして、自分も被災地のために行動したいと思い、損害保険会社に入社した後、宮城県への配属を希望しました。
しかし、年間1,000件以上の交通事故に対応する中で、交通事故は誰も幸せにならないことを痛感しました。
また、損害保険はお金がなければ加入することはできません。
本当に補償を必要としている方に、十分な補償を届けることができないジレンマを感じていました。
何より、希望どおり宮城県に配属されたものの、実際に被災地を支援できている訳ではなかったことに、当時の私はずっとモヤモヤとした感情を抱えていました。
そんな折に、「日本カーシェアリング協会」と「ファンドレイジング」の2つに出会いました。
2015年から日本カーシェアリング協会のボランティアに参加し始め、その過程で利害を超えて団体の活動に協力してくれる人たちの想いに触れました。
前職で得た経験が、そのまま現在のファンドレイジング業務にも活きていると思います。
営利企業のキャリアを経たからこそ、今はどちらの良さも理解することができます。
歪みなく、滑らかに回り、必要としている人に支援が届く。
そんな、関わる皆が満足する仕組みを作りたいと思っています。
いざ災害が発生したときに、迅速に支援を届けるために
日本カーシェアリング協会でのファンドレイジングを通じて、車の寄付を当たり前にしていきたいです。
車を活動の中心に据えたNPOは、他に類を見ません。
災害の時には、支援物資は全国から届く一方で、車が本当に不足します。
車を被災した方の日常生活の移動手段の確保のため、がれきを運搬するため、ボランティアさんを活動場所に輸送するためです。
日本カーシェアリング協会が行う被災地での車の無償貸出支援の活動は、被災した地域にとってなくてはならない存在となっています。
2017年の九州豪雨の際には、あるご高齢の方から、車を寄付していただきました。
それなりの値段で売れそうなくらい状態の良い車でしたので、「こんなに綺麗な車をなぜ寄付してくださったのですか?」と聞いてみたところ、「今まで皆さんのおかげで80余年、生きてくることができました。私はもう若い頃のように体を動かせないけれど、代わりに車が社会貢献をしてくれると思って」と、嬉しいお言葉をいただきました。
被災された方へ「寄付車」と「笑顔」を届けています
車の寄付にまつわるエピソードは、これだけではありません。
ある女性から、電話でお車の寄付のお問合せをいただいたのですが、寄付のご意思はあっても、声にまったく元気がありませんでした。
直接お会いして、よくよくお話を伺ってみると、実は亡くなった旦那様が生前に「日本カーシェアリング協会に車を寄付してほしい」と言い遺されていたそうです。
しかし、奥様にとっては、旦那様との思い出がたくさん詰まった車だったので、寄付をためらっていたのです。
「そういうことでしたら、気持ちの整理がつくまで寄付は大丈夫ですよ」とお声がけしたのですが、最終的に奥様は寄付を決断され、車を譲り受けました。
しばらく時間が経ってから、活動報告のご報告のために、寄付車が実際に使われている様子の写真を持参すると、本当に喜んでくださいました。
奥様の、「まるで旦那さんが動いて社会貢献しているみたい」という言葉は、今もずっと心に残っています。
まさに、寄付者の想いと人生が、自らの分身となって、寄付車に載っているのです。
スタッフの間でも寄付者の想いを共有することは、効果的なファンドレイジングを実行するために重要なことだと考えています。
先日、ちょうど600台目の車のご寄付をいただき、スタッフ全員で喜びを分かち合いました。
600台目の寄付車両と提供者様、感動もひとしお
中古車市場では「価値がない」と言われてしまうような車でも、まだまだ動きますし、それを必要としている方がたくさんいます。
そして大切にしていた車を使ってもらうことで喜んでくださる方も同じようにたくさんいるのです。
寄付車をどんどん循環させることで、困りごとを解消するだけでなく、ポジティブな寄付の経験をする人を増やしていけたらと思っています。
私も、転職を決意した2017年まで、2年ほどキャリアについて悩んでいた時期がありました。
その突破口になったのが、「ファンドレイザー」という職業との出会いでした。
アメリカでは、ファンドレイザーは職業として一般的に認知されていることを知り、これからは日本でも、もっと求められるようになると思いました。
ファンドレイジング・スクールで、ファンドレイジングの実践力が身につきました
NPOに転職しても、キャリアは行き止まりになりません。
この業界には、利害関係を超えて様々なサポートをしてくださる方が大勢います。
それが理由か分かりませんが、NPOに関わり始めてから、人や機会に感謝することが増えた気がしています。
確かに、安易に「こちらへ来た方が良い」とは言えない世界ではあります。
それでも、日々の活動や応援いただく方たちとのコミュニケーションの中で、自身の成長や幸福感を感じることができると思います。
だからこそ、私はNPOキャリアへ挑戦する人を応援したいですし、「何とかなりますよ」と声を掛けたいです。
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