投稿日:2017年12月25日

社会貢献教育Learning By Giving 特別編(「社会的インパクト評価」の授業)

大澤 香織Kaori Osawa
認定ファンドレイザー

日本ファンドレイジング協会では、「社会に役立つ」を知り、自己肯定感を高める教育、社会貢献教育を全国の小中学校で展開しています。その柱である「寄付の教室®」や「社会に貢献するワークショップ」と並び、2016年度より取り組みを始めているのが「Learning By Giving」。子どもたちが実際にNPOに対して寄付をする体験を通じ、個人としての社会貢献のあり方や可能性について学ぶ社会貢献教育プログラムです。米国での当プログラムはLearning by Giving Foundationによる資金を基に米国の大学生に寄付を託すものですが、日本ではプログラム開発において彼らの協力を得ながらも、資金提供は受けず日本独自の資金源を開拓しながら展開しています。

実際に、日本におけるそのユニークな試みの現場となっているのが「社会に貢献するワークショップ」でもお馴染みの東京学芸大学附属国際中等教育学校。藤木正史教諭のご協力の下、高校生自らが選んだNPOに対して資金提供を行う日本ファンドレイジング協会Learning By Givingの取り組みは、2017年の今年で二年目になりました。

高校生が学ぶ!「社会的インパクト評価」

この東京学芸大学附属国際中等教育学校における社会貢献教育Learning By Giving「特別編」として、2017年12月4日に日本ファンドレイジング協会の事務局長/社会的インパクトセンター長の鴨崎貴泰さんによる「社会的インパクト評価」についての授業が行われました。センターとして取り組む「社会的インパクト評価イニシアチブ(SIMI)」のロードマップの評価文化醸成のなかでは、2020年までに学校などの教育現場で社会的インパクト評価について学ぶ/教えることが目標として掲げられており、今回は、そのことを見越した取り組みでもあります。

「社会的インパクト評価」というと、ややとっつきにくく、難しいイメージもありますが、実際に授業を受けた高校生たちはどのように受け取ったのでしょうか。

まず鴨崎さんから子どもたちに問いかけたのが、「社会を良くする活動」とは何か?という質問。「困っている人が、現状を変えようとする活動」、「障害を持っている人が仕事に就くのをサポートする活動」などなど、子どもたちからポツポツと答えが挙がります。

“社会を良くする活動には、子どもたちを笑顔にする活動、お年寄りを元気づける活動、環境を良くする活動等々、たくさんあるのだけれども、実際に「どのような視点で具体的に社会を良くしているのか」ということについては、分かるようで分からないことが多々あります。そうしたNPOやソーシャルビジネス団体が実際に実施している事業が、どう社会を良くしているのか、を具体的にしていくのが「社会的インパクト評価」です。”

今年、Learning By Givingの学びの一環として高校3年生の生徒たちが寄付先の調査対象に選んだのは、「公益財団法人 日本補助犬協会」、「一般社団法人more trees」、「特定非営利活動法人 日本クリニクラウン協会」の3団体。この秋までにゲストスピーカーによる授業なども受けながらNPOの役割などについても知り、各団体について少しずつ理解も深めてきました。

社会的インパクト評価はとりもなおさず、事業評価。しかしこの授業に先立ち、子どもたちが作成してくれた「評価したいことMAP」では、「団体の信頼性」や「資金の使い道」など運営やガバナンス、コンプライアンスに関わる語句が並び、子どもたちにとっても「評価」の言葉から受けるイメージとしては、むしろ最初に組織評価に目が行きがちであることが窺えます。

「もちろん共感してくれた寄付者に、財務諸表等をしっかり示して報告することは、非常に重要です」と鴨崎さん。「でも今日、皆さんに考えていただきたいのは組織評価ではなく、実際にその団体が実施している事業がどう社会をよくしているかという点で、それには、ロジックモデルを使って考えていきます」。ということで、子どもたちは自らが選んだ3団体それぞれのロジックモデルを作りに挑戦することになりました。

応援するNPOの「ロジックモデルづくり」に挑戦

ロジックモデル作成に必要なのは、アウトカムとアウトプット、活動について考えること。高校生にとっても身近な「ダイエット」を例に、まずはアウトカムとアウトプット、活動についての解説を受け、その後、子供たちがホワイトボードを前に実際に「日本補助犬協会」、「more trees」、「日本クリニクラウン協会」のロジックモデルづくりに挑戦しました。

「“誰の”“どのような状態を”“どう達成するのか”」がポイントですが「あれ?この表現はアウトカムになっているのかな?」など、ロジックモデルの中で正しく語句を選んでいくのに苦労するのは、大人も子どもも同じようです。しかしわずか20分程度のワーク時間内でどのチームも見事に団体のロジックモデルを完成し、全体での発表にこぎつけました。

子どもたちの作成した3団体それぞれのロジックモデルがあり、うまく表現できたところ、整理できなかったところなど見られたものの、色々な気づきがあったようです。例えば、日本クリニクラウン協会さんのアウトカムである「入院中の子どもたちがこどもらしく過ごせるように」と、more treesさんのアウトカムである「地球温暖化と森林破壊が止まった世界」あるいは「森と人がずっとともに生きていける社会」というのでは、活動との間の距離感、抽象度がずいぶん違うね、という発見や、アウトカム、アウトプット、活動がちゃんと「ロジックでつながっているか」が重要そうだ、という気づきなど、社会的インパクト評価を考える上でも大切な学びが得られたようでした。

社会貢献教育の中で社会的インパクト評価について学ぶ意義について、藤木教諭に尋ねると以下のようなコメントを下さいました。“「社会的インパクト評価」は、非営利組織をいかに評価するのか、という部分についてその活動の効果や影響を評価する試み、です。もちろん、現段階での組織や事業にたいする評価ですが、未来に期待した評価とも言えるでしょう。生徒たちは目の前の情報だけで物事を判断しがちです。そうした中、事業評価、その組織が行なっているプロジェクトにたいして評価する、という視点を持つことが、生徒の視野を広げることにつながると思います。社会貢献教育の観点で言えば、自分の中で軸をつくって判断できるようになる、ということが、大きな意義で、「社会的インパクト評価」という視点・視座を持つことは、生徒の軸を形成する一つの要素となると考えています。”

寄付先として各団体が本当にふさわしいのか、子どもたち自らが手掛けたロジックモデルを基に、今後、実際に団体に質問をするなどの交流を通じて団体側も学びが得られ、また子どもたちが思いつかなかったような新たな視点が得られるかも知れません。いわゆる「正解」のないロジックモデルづくりを扱った授業を通じて、そうした点でも社会貢献教育Learning By Givingの可能性を感じました。

Learning By Givingは、社会貢献教育プログラムの中でも比較的長期の学校側の協力を得て実施されるもので、①社会貢献に関する日本の状況を知る、②NPOなど非営利組織の役割を知る、③社会変革とお金の使い方(寄付)を知る、④ファンドレイジングプランを作る、⑤寄付先を決める、⑥企業の社会貢献活動を知る、⑦社会貢献と自分のキャリアについて考える、等のステップを踏みながら、年間を通じて学びのプロセスを深めていきます。(https://jfra.jp/ltg/class

12月の寄付月間の始まりに行われた社会貢献教育Learning By Giving特別編「社会的インパクト評価」の授業でしたが、寄付月間企画の一環として子供たちが壁に貼っていたGiving Treeを眺めながら、樹木が育つ姿を想像するように、十年、二十年先の未来をありありと思い描くことができるのが、まさに学校現場で行われる社会貢献教育事業の魅力だと感じました。
 

社会貢献教育の全国の実践事例についてもっと知りたい方はこちら!

 
子ども達の学びを寄付で応援したい方はこちら!

 

Commentsコメント

Profileこの記事を書いた人

大澤 香織 Kaori Osawa

認定ファンドレイザー

東京外国語大学外国語学部卒業、イーストアングリア大学修士課程修了(MSc in Development and Environment)。特定非営利活動法人メコン・ウォッチの中国雲南省・北京駐在スタッフを経て、2009年6月より公益財団法人トヨタ財団のプログラムオフィサーとして、助成事業の企画運営を担当。

会員限定コンテンツを読むために

ファンドレイジングジャーナルオンラインを運営する「日本ファンドレイジング協会」とは?

より良い記事をお届けするために、
皆さまからのご意見をお寄せください

※いただいたご意見には全て対応できない可能性がございますので予めご了承ください。