NPOにとって民間の助成財団から提供される助成金は活動を進める上で重要な財源の一つです。まとまった資金が調達でき、団体の信用を高めることができる一方で、助成期間が終わった後、どのように事業を継続していくか悩みを抱える団体も少なくありません。助成する側の立場から数多くの団体を見てきたお二人に、「とって終わりにしない」助成金を活用し尽くす方法についてお話をお伺いします。
久保:助成財団の立場から数多くの団体を見てきた伊藤さん、助成財団で助成業務の経験もあり、助成財団業界や様々な助成プログラムにお詳しい山田さん、お二人にとって「助成したくなる団体」とはどのような組織でしょうか?
山田:一番はその事業の必要性を感じるかということです。社会や受益者、時代がその事業を求めているかという点と、革新性です。たとえ実績がなくても、今までにない新しい取り組みかどうかという点を見ています。他の財団からの助成が終了して、同じ事業で別の助成金を申請するような場合、それを好まない財団もいるかと思います。
久保:行政の補助金の場合、隣町で同様の事業を行っていることが採択理由になったりもしますが、助成金の場合「どこもやっていない」という先駆性が重視されるわけですね。
伊藤:事業の革新性をどこまで求めるかという点については、財団によって方向性が分かれるところだと思いますが、チャレンジングな事業に「失敗してもいいから」くらいの気持ちで助成して、それが数年後にすごく良い方向性を見つけて、次に進んでいく姿を見れたときは本当に嬉しいものです。
日本国際協力財団の場合、助成金の審査に際して面接も行います。30分程度の限られた時間ですが、団体として、あるいは担当者としてどのような想いでやっているのか、複数年度助成の場合はその想いで3年間続けていけるかという点も大切にしています。
山田:助成金を単発でとらえていないことも大事です。「これまでこういう活動をやってきて、今回はこういう事業に力を入れたいから助成金を獲得して、その結果将来こうなる」というストーリーが描けているかどうかということが、今の時代に好まれる要素の一つになります。
山田:ここ数年で生まれてきたベンチャー企業創業者が設立した財団の場合、成果や数字を求める傾向があるように感じます。そのため、実績や実力のある団体が採択されるケースが多くなります。一方で、地方だと、ボランティアで成り立っているような小さな団体が頑張っていること自体を応援しようという傾向がまだまだあります。
伊藤:日本国際協力財団の場合、一つのことに向かって頑張っている人をとことん応援しようという文化があります。だからこそ、長期での助成が可能なのだと思います。
山田:老舗の助成財団ほど、そういう傾向が強いのかなと思います。過去にそういう団体を支援をして、大きく花開いた経験をしていることで、団体が頑張ってやってくれれば何かしらいい結果が出るということを肌感覚で知っている。そのため、それを信じて支援しようと思えるのではないでしょうか。一方で、新設の財団は、そういったバックボーンが少ないため、数字やエビデンスというものが拠り所になってきます。
久保:最近では、認定NPO法人カタリバのような大型のNPOが助成金を出すケースも出てきました。NPOの事業の現場を理解していて、その感覚をもとに良い事業に助成するというスタンスが申請書のフォーマットからも伝わってきます。
山田:助成金のメリットは、必ずしも資金面だけに限られません。助成金をつかった事業で蓄積したノウハウを人材育成事業や研修といったかたちで提供して収益化したり、調査研究の結果得られたエビデンスを政策提言につなげるなど、助成金を他の財源の獲得や組織・事業の発展につなげていく方法はたくさんあります。
例えば、アートと障がい者の就労支援を組み合わせた事業の例でいうと、助成金をつかった事業でノウハウを蓄積し、そのノウハウを提供することで事業化につなげたケースがありました。助成金には、その事業や団体をオーソライズする側面があります。また、成果報告会を開催することで、その後のパートナーシップにつながるネットワークが形成できました。助成金を活用して自団体の知名度をアップし、その分野でのポジショニングをとることで団体の成長につなげた事例です。
助成財団側としては、その団体のビジネスモデルをつくるために支援しているのではなく、良いメソッドができてそれが世の中に広がれば、より多くの人達を支援できると考えています。
伊藤:ネットワークの形成といいますと、日本国際協力財団の場合、助成先のNPO同士の横つながりを強化することも大切にしています。素晴らしい活動をしている一つひとつの団体が、何とかしてお互いの力やノウハウを共有できないだろうかということを考えてきました。財団として、研修などを通じて助成先団体が集まる機会を意識的に作っています。
久保:なるほど、日本国際協力財団の助成金を受けることによって、コミュニティの一員になれるという付加価値があるわけですね。この図は、事業収入・寄付・会費、助成金といったNPOの財源は、それぞれが単独で存在するのではなく、お互いに影響しあっていることを表しています。
(認定ファンドレイザー講座テキストより)
先ほどのお話も踏まえて、助成金を起点に見てみると次のような展開が考えられます。
山田:説得性が高まるという効果があると思います。数多くの申請があるため、中には似たような事業も多くあります。仮に同じような事業であれば、ファンドレイザーがいて、助成金終了後の戦略設計がなされている団体を最終的には選びたくなると思います。ただ、助成財団側からすると良い事業であるということや緊急性が大前提で、出口戦略ありきではないと思います。
出口戦略は助成財団を意識して考えるものではなく、助成金を一過性で終わらせることなく、事業の持続性や団体の成長につなげていく上でNPO自身が自らに問うべきものだと考えています。
久保:成果が見えやすい事業助成に対して、組織そのものを育てるための組織基盤助成はある意味「地味な助成」と言えるかもしれません。日本国際協力財団が、助成する側にとって成果の実感がわきにくい組織助成にあえて取り組むのはなぜですか?
久保:組織基盤助成をやってよかったと思える瞬間はどのようなときですか?
伊藤:一番大きく感じるのは、どの団体も自分たちの事業や組織の課題が明確に洗い出されたことは、その団体が次に進んでいく上で大変有意義なことだったと思います。どんな組織にとっても、みんなで話し合って課題を抽出するという工程には痛みが伴います。かなりの労力を割いてでもそれができたのは、伴走支援者の存在が大きかったと思います。伴走者がいて、苦しくともその先があると思えたからこそ頑張れたのだと思います。その結果、団体側の助成財団への報告のポイントも非常に的確になったと感じています。
久保:一見内に秘めたような変化を、対話の中から受け取ってくれて、それを価値だと言ってくれる財団の存在は貴重だと感じました。
お二人のお話を伺って、助成金というものに私たちファンドレイザーがまだまだ活かしきれていない可能性があることを強く感じました。同時に、助成財団は新しいチャレンジをNPOとともにし、事業や組織の成長を一緒に考えてくれる存在だと知れたことで、とても心強い気持ちになりました。今日は貴重なお話を聞かせていただき、本当にありがとうございました!
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