本コラムの前編に続いて、後編では、オンライン活用の分野別の傾向を分析する。ここでは、40件以上の回答が得られた下記の3分野を分析対象とした。
回答数 | 回答者の平均年齢 | ファンドレイジング業務の 平均経験年数 |
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国際協力・交流 | 40人 | 46.2歳 | 10.6年 |
保健・医療・福祉 | 49人 | 48.7歳 | 8.6年 |
教育・研究 | 48人 | 46.0歳 | 4.4年 |
「国際協力・交流」は、個人寄付のファンドレイジングに長く取り組んできた分野である。主な活動地域が海外であることが多く、コロナ禍によって日本の社会や経済が多大な影響を受ける中、海外の活動やその活動のためのファンドレイジングを控えざるをえない組織もあっただろう。「保健・医療・福祉」は、コロナ禍の直接的な影響を最も受けたであろう医療機関が含まれる分野である。また、社会福祉法人等も本分野に含まれる。現場の奮闘が報道された結果、高額寄付や物品寄付を含めて多数の寄付を受けた組織もあっただろう。「教育・研究」は、大学を中心に、近年ファンドレイジングに力を入れ始めた分野である。経済的に困窮した大学生を支援する寄付や、感染症関連の研究への寄付が増えただろう。
これら3分野について、「対面/オンラインでのイベント開催」「対面/オンラインでの個別面会」の頻度の増減を集計した結果をまとめた。現時点における予備的な分析結果ではあるが、主な傾向を紹介したい。まず、どの分野でも、対面のコミュニケーション頻度が減り、オンラインの活用頻度が増える傾向が見られた。オンラインのイベント開催や個別面会の頻度が増えたと回答したファンドレイザーの割合が一番多かったのは、国際協力・交流の分野だった。オンライン手段を過去に一度も利用したことがないと回答したファンドレイザーの割合が一番多かったのは、教育・研究の分野だった。
対面/オンラインでのイベント開催
イベントは、寄付を呼び掛けたり、寄付者に活動成果を報告したりする場として位置づけられ、広く開催されてきた。3分野ともに、対面イベントは「減った」(青色)、オンライン・イベントは「増えた」(赤色)と回答したファンドレイザーが多数派だった。ただし、保健・医療・福祉分野は、対面イベントで減った分をオンライン・イベントで補完できている割合が、他分野より低い傾向にあるようだ。また、教育・研究分野は、オンライン・イベントを過去に一度も行ったことがない(緑色)という回答比率が、他の分野より多い傾向にあった。
対面/オンラインでの個別面会
個別面会や訪問は、高額寄付に対応するために実施している団体が多いだろう。どの分野でも、対面の個別面会・訪問は減ったと回答し、オンライン面会は増えたと回答したファンドレイザーが多数派だったが、オンラインの面会は、オンラインのイベント開催ほど増えたわけではなかったことがグラフから見て取れる。イベントのオンライン対応よりも個別面会のオンライン対応の方が、組織にとっては進めづらいのかもしれない。
以上のように、いずれの分野でも、対面コミュニケーションの頻度が減り、オンライン手段の活用頻度が増える傾向があることが分かったが、その傾向は、分野によって少しずつ違っていたようだ。このような分野間の違いは、何から生じているのだろうか。可能性のある説明を整理してみよう。例えば、国際協力・交流分野では、コロナ禍の以前から海外の活動場所とオンラインでコミュニケーションを取ることが多く、そのため、オンライン手段を使ったファンドレイジングに対応しやすかったのかもしれない。また、教育・研究分野のファンドレイザーは、寄付募集業務の平均経験年数が他分野よりも短く、そのことがオンライン対応の違いに影響したのかもしれない。さらに分野や団体によっては、寄付者がオンライン手段に不慣れであるなど、組織側というよりは寄付者側の理由によって、オンライン手段を活用しづらかったケースもあったかもしれない。
本コラムの後編では、個人寄付のファンドレイジングのためのオンラインのコミュニケーション手段の活用頻度に、各分野でどのような違いがあったかを概観した。今回の調査では、回答者に対して、コミュニケーション手段の頻度がコロナ禍の影響でどう変化したかを尋ねており、各分野において、オンラインのイベント・面会が開催されている回数の多寡を把握した調査ではないことには留意する必要がある。オンラインのイベント開催が増える中で、ツールに不慣れであるために参加できない人は、情報が取得しづらくなり団体から気持ちが離れてしまうかもしれない。オンラインのイベントや面会をただ増やせばよいわけではないことにも留意が必要だろう。
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