鵜尾:これからのチャレンジを教えてください。
白井:生徒に言われました。「校長は世の中からは自分のやりたいことをドンドン突き進んでやっているって思われているけど違うよね、全部やるべきだと思ってやってきたことだよね、自分で選んできてないよね」って。ほんとにそうなんですよ。自分で選び取ってない。この世界に飛び込んじゃって、飛び込んじゃったからやらざるを得ない、やりたいかやりたくないかを考える暇がなかった。
でも、自分の人生を生きた方がいいって、そのために手伝えること手伝うからって、昔の生徒たちが言ってくれて、ほんとに手伝ってくれているんですよ。それがすごく嬉しくて。先ほど話した、いろいろなお役目のお話をいただくことが初めて嬉しく楽しいことになってきました。自分でやりたいことを考えたことなかったので、やりたいことは何だろうって、この歳にして初めてです、自分で選ぶって。
鵜尾:すごいターニングポイントですね。
白井:埼玉にすごく素敵な学校法人があるんです。もともと保育園をやっておられましたが、小規模保育から子どもたちの放課後の居場所づくり、そして今度不登校の子たちのための場所作りと、どんどん活動を広げられています。そこの理事長さんに、何でもいいから、何か仕事をさせてほしいと初めて就職活動をしました。
もうひとつは、私なりの社会変革へのつながり方として、ノアの箱舟を作っているんだなって思ったんです。考え方が合わない人は必ずいる。そこで闘争が起きる、戦いが起きる。だけど違うものは違うし、いくら説得したって変わらないし、変えられたいとも思っていない。例えば不登校の子たちは差別されて苦しんできたんですよね。だから、差別をされない場所を求めている人たちにはノアの箱舟に乗ってもらって、同じように居心地の良い場所を作り続けている人たちとやっていきたい。戦って差別を受けて倒れていったりするのは見ていてすごく辛い。多様性を認め、好きな人たちと好きな場所で好きなことをして生きていけるという、そういう世の中にしたい。
自分の人生で今、ここに立っている、ここに連れて来てくれたのは子どもたち、生徒たちです。生徒たちが私をモチベートしてくれたし、次のステージに行ってこれを広げていかなくてはいけないとか、もっと助けられる子たちを助けたい、というところに連れてきてくれた。残りの人生はそこへの恩返しですね。
<<ここまでの取材を終え、その後、新型コロナウイルス感染症が拡大しました。一時中断をしたのち、改めてオンライン会議形式でお話をお伺いしました。>>
鵜尾:白井さんは今のこの新型コロナウイルス感染症に関わる一連の状況を、どのようにご覧になっていらっしゃいますか?
白井:今のように、1週間先が予測できない世界になるなんて、それこそ前回お話した昨年の年末には全く想像だにしていなかったです。
今年の4月に新公連の代表になって最初にやろうと思ったのは、どうやって資金を回せるか、ということです。本当に困っている人を助けるのと、資金を集めるのと、両輪で回していくのは難しい。であれば、現場の団体には、現場の活動に集中してもらう、そのために何かできないか、ということで新公連としては初めてとなるクラウドファンディングを立ち上げました。資金集めの差によって、若い団体や新しい団体がなかなか育ちづらいというのを感じていました。もっと若い人たちが入りやすい、やってみようかって思ってもらえるような世界を作らなくてはいけないな、ということを話していた矢先のこの状況だったので、勇気を出してクラウドファンディングをやろうと思いました。
「新公益連盟 新型コロナ緊急対策基金」クラウドファンディング(8月6日まで)」
https://readyfor.jp/projects/covid-fund
もうひとつは、今回、「自分ではどうしようもならないこと」を世界中の誰もが経験した、この経験は活かしていかなくてはいけないと思ってます。例えば、私は不登校の子どもたちを支えてきていますが、今まで不登校というと「なんで頑張らないの」とか「もうちょっと、ふんばればいいのに」といったことを言われていました。でも、今は、誰もが自分ではどうすることもできない理由で学校に行けない、という状況が生まれている。そこで初めて「あ、本当にどうしようもないことってあるんだ」って感じることができます。「外から見えない事情っていうのが色々あるんだね」っていうのが、以前よりも伝わりやすくなっている気がしてます。ですから、前は伝えるということを怖がっていたりとか、諦めてたりしていたところがあったけれど、今はちゃんと伝えていきたい、そしてそれを伝える方法を考えていきたいな、と思うようになりました。
鵜尾:今まで、例えばシングルマザーで貧困なのは本人の責任だ、ネットカフェにいる人は努力が足りない、というように過度な自己責任論があった。でも、この状況下では、誰もが家を失うかもしれないし、誰もが困難な状況になるかもしれない、ということへの共感が広がっているような気もしています。
白井:本当に計画通りにはいかないっていうことを誰もが認めざるを得ない。その中で大切なのは、現場で起きていることをキャッチできる立場のNPOが、その現状や誤った解釈を、政府や行政にきちんと伝えることだと思います。すると、数日で対処してくれたりすることがある。大阪の自宅から国会議員への要望ができる時代が来るなんて全く思っていなかったです。
鵜尾:これから、どんなことが大事になってくるか、白井さんの考えを教えてください。
白井:今回のコロナによって、今までみんながばかばかしいと思っていたけれどしがらみがあってやめられなかったことに対して、それを乗り越えていく状況に急激になってきている、と感じます。社会課題解決という面からみても、「おかしいよね」ということが遠慮なく言える場が増えてきたなっという感じがします。こういうときに、我々が欲しい世の中とは、という議論をリードしていくのがソーシャルセクターの役割ではないかと思っています。
社会的なシステムで、「これはいらないよね」っていうものはもう本当にいらなくなってくる。その前提で、新しい社会のあり方というのを、それこそリアルで会えない中で考えるしかない。でも、どうやって人の繋がりを保っていくかとか、子どもたちの育ちを保証していくかというところは結構深い問いですよね。
鵜尾:昨年の12月から始まったファンドレイジング・スクール生による伴走支援が、5月で終了となりました。振り返ってみて、いかがでしたでしょうか。
白井:一番の学びは、職員一人ひとりが共通認識を持つことの大切さです。我々がお金を集める、寄付を集めるというのは、決して自分たちのためではなくて子どもたちの環境を作っていくってことであったり、あるいは子どもたちの応援者を作っていくために行っていくことである、とスクール生の方々に教えていただきました。その中で、そういう共通認識がスタッフ間にも染み渡ってきたな、という感じがしています。今まではだれかお金は集めてくれるだろう、と思っているところがあった。ファンドレイジングが愛を広げていくっていうものなんだっていうところの共通認識ができたっていうのがこの半年間での一番の財産だったと思っています。
鵜尾:最後に白井さんから、読者の皆さんへのメッセージをお願いします。
白井:恥ずかしくても、照れくさくても、伝えていくこと。そうすると、伝わる人にはきちんと伝わるんだなということに、ファンドレイジングを通じて気づかされました。それが私自身が勇気をいただいたことでした。なので、これからは遠慮せずに、恥ずかしがらずに伝えて続けたいなと思っています。
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