無料 投稿日:2018年3月10日

「寄付を人件費に利用する」ことは理解されるのか?

連載
石田 祐Ishida You
宮城大学事業構想学群地域創生学類/社会工学系・准教授

「寄付の使途」に対する考え方においては、寄付を支出する者と寄付を受け取る者との間で大きなギャップが生まれやすい。一般に寄付をする人々は、困窮している人々や支援したいと思う人々を直接に間接に見ながら、またはそのような人々の状況を想像しながら寄付を行うだろう。特に悲惨な災害となった場合は、そのような姿がメディアを通じて映し出され、様々な悲しいストーリーが社会に伝播するため、人々の寄付をする動機として「助けたい」という気持ちが強く出ると言える。または、付き合いのある知人がNPOで活動していて、地域課題を解決しようとしているとか、インターネットで社会課題を解決しようとしているNPOを見つけて関心を持ったり、共感を得るなどによって寄付をしようと思うこともあるだろう。このように動機は様々ではあるが、いずれの場合においても、誰かの不幸や地域の不都合な状況、端的に言えば「現場」を改善することに期待し、寄付を行う。
寄付を受け取る者、たとえばNPOは、その現場を改善するためのプレイヤーであり、改善するための活動を展開する。そのプロセスにおいてNPOは、ヒトやモノ、場所や情報といったものを駆使したり、提供する。NPOの資金獲得の難しさについては古くから議論があり、解決策として様々な資金を確保するという手法は日本でもしばしばとられている(石田 2008)。その資金源の1つが寄付である。言い換えれば、NPOにとっての寄付は活動するための資金源の1つであり、様々な資金を組み合わせて活動に取り組めると円滑な運営がしやすい。
両者の立場から見ると、寄付者は支援される人に寄付が直接的に使用されることを望みがちであり、寄付を使う者は支援される人に支援が届くようにするプロセスに寄付を利用したいと考えるだろう。NPOがボランティアでないことを前提にすれば、活動をするからには費用がかかる。しかし時に寄付をする人々は(そして特にNPOという組織に理解が十分でないときに)、運営にかかる費用を認識することができず、寄付をその運営に利用することに拒否感を有することがある。
ここでの論点として挙げたいのは、「では、どのようにすれば寄付を運営に利用することが理解されるのだろうか」というものである。日本ファンドレイジング協会が2017年に発刊した『寄付白書2017』で人件費に寄付を利用することの是非を問うことにした。問う方法として、ランダム化比較試験という手法を用いた(『寄付白書2017』p.40に解説がある)。図1のように、統制群1つと5つの介入群を作った。具体には、それぞれの群に対して表1の質問を行った。簡単に説明すれば、介入群のBとCの説明文は、統制群の説明の仕方よりも具体的な説明があり、より優れたサービス供給のためには人材が必要であることや、その人材を雇用することで効果的に途上国支援が行えることが示されている。介入群A、D、Eは軸が異なり、Aは環境保護団体の人件費、Dは他国のNGOの職員の給与水準比較を理由にしたもの、Eは広告費や事務所費などへの利用の場合としている。

図1 調査における統制群と介入群
出所: 石田(2018)

表1 『寄付白書2017』調査票での説明文

出所: 日本ファンドレイジング協会編(2017)

さてその結果はというと、図2のとおりである。シンプルな説明に対しての利用の是非は、使っても構わないとそれ以外に分けると、35:65である。説明を追記した介入群BとCでは41:59となっており、使っても構わないという回答が6ポイント高くなっている。説明がまったく変わるが、介入群Dの他国職員との比較を理由に使って構わないかを訊くと、28:72となる。介入群Eも同様に21:79となり、統制群に比べて大きく下回る結果が示されている。したがって、途上国支援を行うことに変わりはないのであるが、何を理由にするかで寄付者側の捉え方が大きく変わってしまうことが指摘できる。

図2 自分が支出する寄付を人件費等に使うことの是非
出所:石田(2018)

この研究から得られる示唆としては、寄付を人件費やそのほかの運営にかかる費用に使っても構わないという寄付者は一定数存在するのであるが、寄付を募る際にどのような表現でアプローチするかによって、同じ人件費に利用したい場合でもより多くの人々から寄付を得られる可能性がある。今回の介入群Eのように広告宣伝費や事務所費などの使途であってもさらに説明を追記すれば使っても構わないと考える寄付者数は増えるだろう。つまるところ、運営費を寄付で賄うためには、寄付者が納得するような説明や表現をもって寄付を依頼するということが重要であり、それがファンドレイジングの結果に影響すると考えられる。すでに素敵な文面や謳い文句になっているかもしれませんが、周囲の人の意見を伺ってみて、さらなるブラッシュアップに努めてみてはいかがでしょうか。

参考文献
石田祐(2008)「NPO法人における財源多様性の要因分析―非営利組織の存続性の視点から」『ノンプロフィット・レビュー』vol.8, no.2, pp.49-58.
石田祐(2018)「ランダム化比較試験の一例:『寄付白書2017』から」佐々木周作・石田祐・坂本治也『寄付を科学する~行動経済学・NPO研究の最前線~』ファンドレイジング・日本2018発表資料.
日本ファンドレイジング協会編(2017)『寄付白書2017』日本ファンドレイジング協会.

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Profileこの記事を書いた人

石田 祐 Ishida You

宮城大学事業構想学群地域創生学類/社会工学系・准教授

1978年、大阪府生まれ。関西学院大学総合政策学部、同大学院総合政策研究科、大阪大学大学院国際公共政策研究科を修了。博士(国際公共政策)。ひょうご震災記念21世紀研究調査本部安全安心なまちづくり政策群研究員、国立高等専門学校機構明石工業高等専門学校准教授などを経て、2016年10月より現職。日本NPO学会理事兼事務局長。本稿関連研究として、"The State of Nonprofit Sector Research in Japan" Voluntaristics Review(共著, 2017年)、「非営利組織の財務情報に対する寄付者の選好分析」『ノンプロフィット・レビュー』(共著, 2013年)などがある。

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