2018年4月に閣議決定した第五次環境基本計画で提唱された「地域循環共生圏」。これは、SDGsやパリ協定といった複数の広範な課題を、環境・経済・社会の側面から統合的に解決を目指していこうという世界的な動きを、地域起点で考えていくものです。
別名“ローカルSDGs”とも呼ばれる「地域循環共生圏」構想は、地域の特性に応じて、地域資源を最大限活用し、地域の活力の最大化を目指すものとして、今、注目が集まっています。
本記事は、この取り組みを推進するGEOC(地球環境パートナーシッププラザ)とともに、地域循環共生圏とは何か、ローカルSDGsの先進事例、ファンドレイジングの取り組みをかけ合わせることでどのような可能性があるのかを、シリーズでひも解いていきます。
江口 健介 一般社団法人環境パートナーシップ会議(EPC)リーダー 神奈川県生まれ。大学在学中、国際青年環境NGO A SEED JAPANに所属し環境活動を始める。大学卒業後、ベンチャー企業勤務を経て、2013年より現職。日本全国の環境パートナーシップ形成に関わる。 |
菅原 亮 一般社団法人環境パートナーシップ会議(EPC)コーディネーター(GEOC担当) 東京都生まれ。大学卒業後民間企業勤務を経て、青年海外協力隊でアフリカのマラウイで2年間活動、その後NPO職員としてフィリピンで資源循環に関わるプロジェクトコーディネーターを行った後にEPCに転職し、地域循環共生圏創造を推進する業務に関わる。 |
久保 匠 認定NPO法人日本ファンドレイジング協会 プログラム・オフィサー 北海道旭川市生まれ。大学卒業後、愛知県知多半島に拠点を置く福祉系NPO法人に就職し、障害者支援、地域包括ケアシステム構築に携わる。その中で、「制度の狭間」にニーズに応えるためにファンドレイザーへの道を志す。2018年4月より日本ファンドレイジング協会に参画し、法人向けのファンドレイジング力向上プログラムの事業を担当している。中京大学非常勤講師、(一社)アンビシャス・ネットワーク理事、(特非)きっかけ食堂理事、環境省中部環境パートナーシップオフィス協働コーディネーター等も務める。 |
菅原:「地域循環共生圏(以下、共生圏)」は、第5次環境基本計画で提唱された概念で、地域資源を活かして、各地域が自立・分散を実現し、地域同士で補完し合う社会のあり方を指した考え方です。
江口:共生圏は持続可能な社会を持続可能な地域づくりを通じて形成していくためのコンセプトであり、取り組みの形態は様々です。一つの島や過疎地域の継続を目的とした取り組みもあれば、もっと広範囲に取り組むものもあります。したがって、「これが地域循環共生圏である」という絶対的な正解はありません。
久保:環境と経済を両立することはできないと考えられていた時代もありましたが、今では、経済を発展させるためには、その資源となる自然資本を持続可能にしなければならないという認識が一般的になってきていると思います。共生圏は、そうしたSGDsの考え方を日本国内で具現化するためのものであると感じます。
江口:共生圏のことを「ローカルSDGs」と称しているように、SDGsを日本国内で実現した言葉として捉えていただければ良いと思います。これまでは、環境というのは、配慮すべきもの、対応すべきものという考え方が主流でしたが、これからは、環境への取り組みが新たな事業創出、価値創造の契機になる時代になってきていると感じています。
(出典:第5次環境基本計画)
菅原:環境省の事業として、「環境で地方を元気にする地域循環共生圏づくりプラットフォーム事業」(以下、PF事業)が令和元年度にスタートし、毎年35程度の組織がモデル事業に取り組んでいます。核となる主体は民間営利企業、NPO、自治体など多種多様です。あわせて、これら地域単位の共生圏の実現を支援するための全国的なプラットフォームの構築にも取り組んでいます。
例えば、岡山県真庭市では、阪急阪神百貨店と連携し、地域のサステナブルを表現する「GREENable HIRUZEN(グリーナブルヒルゼン)」というブランドを立ち上げ、地域づくりに取り組んでいます。
このPF事業を進めて行く上で、仮説として大切にしているのは次の3つの考え方です。
プラットフォーム構築の進め方にも特徴があり、持続可能性に寄与する「協働」と「事業」を二軸で構築していくことが求められます。
江口:PF事業は、共生圏のコンセプトを大切にしながら、具体的な取り組み内容については、その地域の特性を活かして行うため、非常に自由度が高いものとなっています。取り組む主体となる団体は、地域内外の様々なステークホルダーとともに、「ステークホルダーリスト」「地域版マンダラ」「事業のタネシート」「目標シート」を作成しながら、環境、経済、社会を統合的に考え、取り組みを実行しています。
菅原:SDGsの採択、パリ協定、東日本大震災後の変化、新型コロナの影響などにより「持続可能な社会」を求める熱はこれまで以上に盛り上がっていますが、地域循環共生圏という概念は少しずつ認知されつつも、多くの組織においてこれまでのやり方や仕組みを変えるのは難しく、社会全体の変革につながりにくのが現状です。
江口:各地域の歴史や登場人物が異なる中で先駆事例を他地域に展開しようとしても、なかなか上手くいきません。多様で複雑な共生圏づくりのポイントをハウツーにまとめることは非常に困難であると感じています。むしろ、各地域のコーディネーターが「なぜやろうと思ったのか」、「どの資源に着目して、だれと一緒に実行したのか」などをストーリーとしてまとめるのが有効であると思っています
また、どんなに優れた取り組みにも仲間が必要です。私たちは、環境省と地域のNPOとの協働で設置された全国8か所の地方環境パートナーシップオフィス(Environment Partnership Office:EPO)と連携して、共生圏づくりに寄与していきたいと考えています。
菅原:『地域循環共生圏創造の手引き』では、地域で共生圏づくりに挑戦される方に4つのプロセスを提示しています。このプロセスは、ファンドレイジングを実践するプロセスと非常に親和性が高いと考えています。
例えば、取り組みを継続するために何が必要か整理することや、地域資源を棚卸しすること、地域の関係者との対話を通じて、「ビジョンを描く」という点は、ファンドレイジングの実践でも重要とされているプロセスです。
ファンドレイジングは、単に取り組みを継続するための資金調達ではなく、ファンドレイジングの取り組みを通じて、どんな社会をつくっていくのかそのビジョンを示し、様々な参加を得ていくことと言われていますよね。共生圏も同じです。
久保:ファンドレイジングの場合は、「自団体のビジョン」を明確化することから始めますが、共生圏の場合は、主たる団体、地域等を明確に定義・線引きできないケースが多いということですね。その曖昧さを抱えつつ、多様なプレイヤーと協働しながら「一つの主体」としてビジョンを設定し、資源を循環させていくことが大切であると感じました。
昨今、社会課題がより複雑化する中で、NPO単体ではなく、多様なプレイヤーと協働しながら包括的なビジョンを描き、地域・社会全体の資金循環をマネジメントできるファンドレイザーが求められています。これらはファンドレイザーにとっても必要なスキルであると感じました。
♦地域循環共生圏づくりのプロセス(出典:GEOC)
♦ファンドレイジング戦略の全体像(出典:「認定ファンドレイザー必修研修テキスト」)
江口:共生圏の視点を持つことの意義は、異なるプレイヤー同士の対話によって「全体最適」を生み出すことができることです。
これまでの環境系の取り組みは、環境問題の解決を真正面に掲げすぎてステークホルダーにとっての参加の動機づけができていないケースが多かったと感じています。しかし、真庭市などの事例は、共生圏という概念を用いて、企業、行政など地域の様々なステークホルダーに対してのメリットを構築しながら協働の座組を構築しています。
このように、対話によってモチベーションを引き出しあい、「全体最適」を考えたり構築したりしていくことが、共生圏の意義であると思います。
菅原:一人で社会全体の持続可能性を考えることは難しいため、社会課題解決を目指した取り組みを行う上でも、見落としてしまう領域が必ずあります。しかし、共生圏の概念を用いることで、多様なステークホルダーと対話し、取り組みを振り返り微修正しながら進めることで、本当の意味で持続可能な社会に繋がる取り組みが各地で展開されていってほしいと考えています。
次回は、徳島県で地域循環共生圏づくりに挑戦する「かみかつ茅葺き学校」の皆様へのインタビューを通じて、地域循環共生圏の具体例をご紹介します。
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