無料 投稿日:2018年5月18日

かものはしプロジェクトがインドで取り組むコレクティブ・インパクトモデルとは?

松田 典子Noriko Matsuda
日本ファンドレイジング協会 社会的インパクトセンター プログラム・ディレクター



オンラインジャーナルでは、2017年6月よりコレクティブ・インパクトというテーマを取り上げ、これまで文京区のこども宅食や尼崎市のコレクティブ・フォー・チルドレンといった国内での取組を紹介してきました。今回は、コレクティブ・インパクトの具体的な活動事例として、インドでその取り組みを実践する日本の国際NGO「かものはしプロジェクト」共同代表の本木恵介さんよりお話を伺いました。つい先日、人身売買に関する新しい法案 がインドの国会に提出されたほか、これまで件数の少なかった人身売買の有罪判決、赤線の閉鎖など一定の成果を出してきた取り組みについて紹介し、その根底に流れる、「システム思考」や「システム・コーチング(1)」、「メンタルモデル(2)」といった、コレクティブ・インパクトを実践していく上で大切な思考の枠組みについても触れます。

かものはしプロジェクトは、「こどもが売られない社会をつくる」ことを目指し、もともとカンボジアで事業を実施していました。警察が動くことが児童買春問題の解決に直結するというカンボジアでの経験を元に、2012年よりインドにて、現地の約10のパートナーNPOと一緒に、児童買春の被害者「サバイバー」 支援と、行政側へのキャパシティビルディング や政策提言の2つの支援を行っています。かものはしプロジェクトは、課題全体を俯瞰し、全体の戦略策定を担う他、各関係者の声に耳を傾け、対話する場を設けるなど、ボックボーン的役割を担っています。

インドにおける児童買春問題は、複雑です。広大なインドでは、児童買春の被害者である女性の住んでいた村と、児童買春が行われる大都市が異なるため、そうした地域をまたいで、行政や警察、NGOが連携することが求められています。また、被害者本人の証言が非常に重要であり、そのために彼女たちをエンパワメントして いくことが求められるだけでなく、そうした被害者の声を拾い、捜査や裁判を通じて加害者がちゃんと罰せられる仕組みが必要です。

児童買春問題をシステム思考で捉えなおす

かものはしの本木さんから話を伺うと、「システムの声を聴く」「システム全体として、事象を捉えなおす」など「システム思考」を元に児童買春問題を捉え直し、活動していることが伺えます。システム思考とは、解決すべき対象や問題を「システム」として捉え、変化にもっとも影響を与える構造を見極め、さまざまな要因のつながりと相互作用を理解することで、問題解決を目指すための働きかけです。かものはしプロジェクトとパートナーNGOでは、児童買春問題を加害者と被害者という単純な構図で理解するのではなく、各関係者の価値観や役割を、対話を通じて理解し、システム全体としてあるべきそれぞれの役割を見出すことができるような場を作る努力をしている、ということでした。そのために、システム・コーチング(1)など対話を促す手法を使っており、それによって起きた変化には数多くの印象的なストーリーがありました。

例えば、弁護士やソーシャルワーカー、被害者との間で、被害者自身が経験した痛みについて話す機会を持ち、被害者が本当に何を求めているのか、その声を聴く対話の場を作ったときのことです。被害者は、その痛みを他の関係者と分かち合うことでその痛みが減るという経験をし、また、自分たちは単なる被害者なのではなく、サバイバー(被害を受けながらも「生き抜いてきた人」という意味)であり社会をより良くできる存在だと認識を深めていきました。



弁護士は、「私が罰してほしいと思っている相手は、売春宿の経営者であるマダムではなく、自分を売った男だ」という被害者の話を聞いて、メンタルモデル(2)が少しずつ変わっていき、弁護士としてこのシステムで本当にやるべきことに気づいていきます。ただ売春宿を取り締まるためにマダムを罰するのではなく、本質的に問題を解決するために、法律や法解釈を変えることに挑戦したり、時に警察や政府に対して外交的な「ファイト」 をすることで、問題の解決に携わるようになったということです。

すべての関係当事者がシステムの一部であるという感覚

かものはしプロジェクトの活動は、システム思考で課題を捉え、各関係者のメンタルモデル(2)を変えていくこと、すべての関係者がシステムの一部であるという感覚を共有し、彼らが課題解決のために本質的な動きをすることを促しています。
コレクティブ・インパクトをシステム思考の考え方を通してみてみると、コレクティブ・インパクトの5つの特徴のうち、「共通の議論課題」、「互いに強化し合う活動」、そして「継続的なコミュニケーション」が挙げられていることも改めて納得できます。こうした知見を、是非日本の社会的課題解決にも生かしてもらいたい、と本木さんは語ります。また、この様な手法をさらに学んでいきたい方には、システム・コーチング(1)がおすすめだそうです。
本ジャーナルでも、定期的にその状況をお伝えしていきたいと思っています。

(1) システム・コーチング
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(2) メンタルモデル:人間が実世界で何かがどのように作用するかを思考する際のプロセスを表現したもの。「これは、こういうモノだろう」とか「このヒトは、こういうヒトだろう」と心のなかで思っていることで、物事の見方や行動に大きく影響を与える固定観念や、暗黙の前提のこと。

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松田 典子 Noriko Matsuda

日本ファンドレイジング協会 社会的インパクトセンター プログラム・ディレクター

大学卒業後、金融機関で不動産ファンド業務に従事。働きながら、NPO法人Living in Peaceにて、国内の貧困に取り組む教育プロジェクトを立ち上げ、児童養護施設の子どもたちの環境改善のための寄付プログラム「Chance Maker」や、児童養護施設の子どもたち向けのスタディツアーを作る。現在は、日本ファンドレイジング協会社会インパクトセンタープログラムディレクターとして、社会的インパクト評価に関する業務に従事。

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