投稿日:2015年9月7日

【活動レポート】遺贈寄付アドバイザー研修

遺贈寄付アドバイザー研修

8/25に遺贈寄付アドバイザー研修を実施いたしました。
今回は、パイロット版での開催のため、遺贈寄付推進会議(会議については後ほどご説明します)のメンバーが声かけをした弁護士、税理士、公認会計士、司法書士、行政書士、NPOの遺贈寄付担当者に集まって頂き、受講を通じてよりよい研修になるためのフィードバックをしてもらいました。

写真0 0

日本の年間相続額は37兆円~63兆円あるともいわれており、さらに40歳以上の約24%が相続の一部を寄付してもよいと回答しています。しかし、遺贈寄付額全体は明らかになっていませんが、国税庁把握分のみで見た場合、約200億円ともいわれており、遺贈寄付の意思と実際の遺贈寄付額との間には大きなギャップがあります。

このギャップを解消するために2014年8月、弁護士、税理士、公認会計士、行政書士、信託銀行担当者、NPO担当者など専門家が集まり遺贈寄付推進会議が立ち上がりました。定期的に話し合いを重ねていく中で、「遺贈寄付を検討している人への適切な助言」をする専門家の存在の重要性が明らかとなり、遺贈寄付相談に対応できるアドバイザーを育成する研修を開催することとなりました。

遺贈寄付は、法務、税務、信託、NPOなど、様々な領域の専門知識と、遺贈寄付者の要望を包括的に理解する必要があります。研修では各領域の専門知識を習得した後で、包括的なケーススタディを用いて実践的な考え方について講師から解説をしました。(講師プロフィールは、下部をご参照ください)

写真10

137ページにわたる研修資料の各パートの内容を抜粋してお知らせします。

・なぜ今、遺贈寄付なのか(講師:鵜尾雅隆)

日本ファンドレイジング協会代表理事の鵜尾より、遺贈寄付の現状の紹介と課題の説明、さらに短いケーススタディを行うことで、本日の研修の重要なポイントについて頭出しを行いました。

写真1

法的観点からの遺贈(講師:樽本哲弁護士)

「遺贈の受け入れの準備や広報をしたい」「遺贈したいとの相談を受けた」「遺贈を執行すると連絡を受けた」「遺贈を受けた財産を利用・処分したい」「遺贈に関するトラブルに巻き込まれた」これら5つの状況に適切に対応するための法的観点からの講義となりました。

まず、遺贈寄付の理解で重要となる遺言のパートでは、有効な遺言がなければそもそも遺贈ができないこと、「自筆証書遺言」「公正証書遺言」の違いと注意点、遺言は1度作ったら終わりではなく、変更や撤回ができることが説明されました。そして、遺贈の記載がある遺言であっても、遺言の効力が争われたり、「遺留分減殺請求(法律で定められた相続人の権利を侵害する遺言について効力を否定する請求)」により寄付に至らない場合があることの紹介がありました。そして、遺贈、遺言執行の各パートでは、遺贈寄付を受ける際にリスクとなり得る包括遺贈の注意点と特定遺贈の違い、遺贈の承認・放棄を検討する際のポイント、相続財産別の遺贈を受ける場合の留意点等が説明されました。

包括遺贈では遺言者の債務まで承継してしまったり、不動産の遺贈では処分困難なマイナス資産を受け取ってしまうリスクがあることを理解し、手に負えないと思ったら遺贈を断る判断も重要だということです。

最後に実務を想定した、特定遺贈と包括遺贈の両方のケースの遺言サンプルの解説がされました。

写真2

・税務的観点からの遺贈(講師:脇坂誠也 税理士)

遺贈寄付の税務的観点からは、「どの寄付についてどの税がかかるのか」がとても複雑で、それを整理することが重要なポイントとして解説されました。つまり、「遺贈による寄付なのか・相続財産の寄付なのか」を明確した上で、寄付されるものが「現金か、現物か」を分類し、それぞれにかかる「相続税と所得税」を確認することであるということです。

さらに、講義ではトラブルに発展する可能性が高い事例として、みなし譲渡について詳しく説明がされました。これは、含み益がある不動産を遺贈した場合は、所得税においてみなし譲渡課税がされ、なおかつその納税は相続人に義務が生じてしまう事例のことです。例えば、祖母が亡くなり含み益がある不動産を地元のNPOに遺贈寄付した場合、受け取ったNPOではなく、遺贈者となる相続人(長男など)がみなし譲渡税を払わなくてはいけません。この相続税負担が、不動産の遺贈寄付がすすまない一つの課題となっています。このみなし譲渡税は租税特別措置法40条を適用すれば非課税となりますが、40条を適用すると様々な制限があり自由な事業を妨げることになるので、NPOが不動産を売却する場合や賃貸する場合には40条は適用できないなどの説明もありました。

写真3

・NPO的観点(講師:山北洋二)

遺贈寄付を受けるNPO側の観点での説明がされました。まず、NPOに対する遺贈寄付額の、海外と日本の比較を紹介し、米国や英国同様に日本でも遺贈寄付は増加傾向にあることが受講生に共有されました。欧米では寄付収入の半分以上が遺贈寄付のNPOも多くなっています。こうした見通しの中で、遺贈寄付を受けることができるNPOになるには、「営利目的でない」「資金の使い道が明確」「活動内容に共感が持てる」「遺贈の方法が明確」などの寄付者に安心感を持ってもらえるように準備をしていかなくていけないことが説明されました。

そして、具体的に不動産の遺贈寄付を受入れる際の手順(所有権移転登記や売却前手続きなど)と注意点が説明されました。多くの受入れ経験のある講師から、実際あった事例をふくめての話が多くありました。そして、多額になる遺贈寄付をNPO法人や公益法人がどのように会計処理をしたらよいのか分類、説明がされました。

最後に講師の山北様より受講者に対して「遺贈寄付を受けることは怖くない」「受贈者にとって最も大切なことは、遺贈者の気持ちを大事にすることだ」とメッセージされたのが印象的でした。

写真4

・遺贈先の選び方(講師:鵜尾雅隆)

遺贈寄付の窓口となる弁護士や税理士などが一番困る質問が、「遺贈寄付はしたいのだがどこにしたらいいかわからない。おすすめを教えて下さい。」です。社会問題解決のために活動している様々な団体を知ることや、それぞれの団体の運営状況を判断することは困難です。こうした寄付者と受けての団体とのマッチングをしていくことは、今後遺贈寄付を推進する上で避けてはとおれません。マッチングに関する質問がきたときにどう対応したらよいかを講師から具体的に説明がありました。

まず大切なことは、寄付者のニーズをきちんと把握することが挙げられました。これは、「自分が寄付したいと思った動機」「譲渡資産内容」「遺贈先の規模や特性といった選好」の3点を、きちんと聞き取るということです。

そして、寄付候補団体が健全な組織運営をしているかを判断するために、第三者の認証、表彰を利用することや、相談が可能な団体(全国コミュニティ財団協会加盟財団、日本財団、日本ファンドレイジング協会)の紹介がありました。

写真5

・信託の観点(講師:齋藤弘道)

遺言執行者は、弁護士や司法書士など様々いますが、信託銀行も多くの遺言執行を行っています。このパートでは、特定贈与信託、特定寄附信託、生命保険信託、財産継承信託など、信託銀行が扱っている商品のスキームや特徴を紹介し、日本でよく使われているもの、使われていないものなどを具体的に説明されていました。そして、遺贈意思を伝える方法(遺言信託、公正証書遺言、エンディングノート、手紙など)の特徴、メリット・デメリットを紹介し、遺言者の希望と意志に沿った対応をしていく考え方が重要であると説明されました。

写真6

・家族信託(講師:遠藤英嗣)

せっかく遺言者の意思で作成された遺言が、相続人により反故にされることがあります。法務的から見た遺贈でも紹介した、「遺言能力を争う」、「遺言の成立を争う」、「遺留分減殺請求」など、後で争うことができるからです。遺言者の意思を尊重し、確実に遺していくやり方の一つが家族信託です。長年、家族信託制度と向かい合ってきた遠藤様より経験に裏打ちされた様々な説明や対応方法が説明されました。

写真7

・ケーススタディ

ケーススタディでは、夫から相続を受けた76歳の女性からの相談という想定で行われました。相続した夫の遺産から寄付を行うことに加え、女性自身も遺贈の意思を含んだ遺言書を作成したいという相談です。今日の講座で紹介された法務、税務、NPO、信託など様々な切り口からの回答が求められました。

回答の際には、講師の方々が所属されている企業、団体での経験や実例に基づいた説明が成され、具体的かつ応用の効く知識を提供することにつながりました。

写真8

・ダイアログ

研修の各テーブルには遺贈推進会議のメンバーが配置されており、それぞれのメンバーをファシリテーターとして、今日一日の研修を振返り、参加者それぞれの経験や疑問を各テーブルでまとめ、代表的なものを全体に共有する時間が設けられました。

発表されたご意見で印象的だったものをお伝えします。

小さなNPOが遺贈の仕組みを活用するうえでは、人員不足のため家族とのコミュニケーションが十分に取れないのではないかという不安が挙げられました。その対策として、ワンストップで寄付者と受贈者をつないでもらえる「遺贈の窓口」のようなものが地域に欲しいという意見が出ました。

また、現状では遺贈寄付が節税対策の一つとして見られることもあるが、今後は社会貢献という認識を強めるために、遺贈寄付者の要望をきちんと捉えた上でアドバイスしていくことが必要だという意見もありました。

写真9

・総括

遺贈寄付を切り口に、法務的、税務的、信託、NPOなど幅広い知識が提供された研修でした。今回は第一回目のため紹介制で各士業の方やNPOの方にお集まり頂きました。それもあってか、ご自身の遺贈寄付の取り扱い経験を活かした質問が多く、さらなる研修のブラッシュアップにつながります。

受講者の意見として「地方でも開催してほしい」「NPO向けの研修を行ってほしい」「ケーススタディをしっかりとやりこむ時間がほしい」など多く頂きました。これらのご意見を活かして次の展開を進めていきます。

(インターン 大矢将弘 / 遺贈寄付プログラム担当 今給黎辰郎)

【講師紹介】

鵜尾雅隆(NPO法人日本ファンドレイジング協会 代表理事)

国際協力機構、米国Community Sharesを経て、ファンドレイジング戦略コンサルティング会社(株)ファンドレックス創業。日本ファンドレイジング協会の創設に携わる。米国ケースウエスタンリザーブ大学非営利組織経営管理学修士、インディアナ大学The Fundraising School修了。寄付10兆円時代の実現に向けて、NPO・公益法人のコンサルティング、研修、講演などに全国各地を奔走中。著書に「ファンドレイジングが社会を変える」など。

樽本哲(弁護士 赤坂シティ法律事務所・NPOのための弁護士ネットワーク)

赤坂シティ法律事務所パートナー弁護士。1999年早稲田大学法学部卒、2003年弁護士登録第一東京弁護士会所属)。認定経営革新等支援機関、准認定ファンドレイザー(日本ファンドレイジング協会)。NPOの法的課題をNPO関係者とともに研究する「NPOのための志的勉強会」を主催。

脇坂誠也(税理士 NPO法人NPO会計税務専門家ネットワーク 代表理事)

国際協力事業団青年海外協力隊コートジボワールに派遣。1999年に脇坂税務会計事務所開設。「透明性の高い会計業務が出来てこそ、NPOの信頼性が向上 し、活動を拡大することができる」として、NPOの会計・税務の支援、サポートに活躍中。認定NPO法人NPO会計税務専門家ネットワーク理事長、NPO法人日本ファンドレイジング協会、公益財団法人さわやか福祉財団、東日本大震災支援全国ネットワーク 他 監事。

山北洋二(日本ファンドレイジング協会 理事・あしなが育英会 監事)

高校・大学時代に、視力障害の学生への朗読サービス、献血推進のボランティア活動に参加。1971年(大学3年生)に交通遺児育英の街頭募金に初めて参加したのきっかけで、72年に設立3年目の財団法人交通遺児育英会に就職。当時はNPOなんて言葉が無い時代で、周囲からは”まともな就職先”とは見られなかった。19年後の91年10月に交通遺児の恩返し運動で始まった「あしなが育英会」発足時の事務局長に就任。95年に理事、06年に常勤監事に就任。

齋藤弘道(野村信託銀行株式会社)

1988年東北大学卒業、富士銀行(当時)入行。2004年みずほ信託銀行へ転籍、遺言信託業務の顧客担当・管理を経て、本部にて企画・営業推進・受託審査に携わる。遺贈寄付を希望する遺言者の意思が実現されていない現実を知り、この状況を打破する手段を模索し始めた時に日本ファンドレイジング協会代表理事の鵜尾と出逢う。2014年現職にて相続関連業務を新規立ち上げ。

遠藤英嗣(遠藤家族信託法律事務所 弁護士・株式会社野村資産承継研究所 研究理事)

1971年より法務省検事として活躍し、2004年に退官。退官後は公証人として遺言や後見の相談を受けている中で、知的障がい者など財産管理ができない方の財産相続が適切にされていないことに疑問を感じ、2007年の信託法改正に伴い、信託という新しい仕組みを研究する。2015年に公証人を退官後、株式会社野村資産承継研究所の研究理事に就任。著書に「新しい家族信託」など。

 

 

Commentsコメント

会員限定コンテンツを読むために

ファンドレイジングジャーナルオンラインを運営する「日本ファンドレイジング協会」とは?

より良い記事をお届けするために、
皆さまからのご意見をお寄せください

※いただいたご意見には全て対応できない可能性がございますので予めご了承ください。