無料 投稿日:2018年3月12日

リスクを好む人ほど寄付をする!? ―リスク態度と寄付行動の関係―

連載
坂本 治也Haruya Sakamoto
関西大学法学部教授

「虎穴に入らずんば虎児を得ず」ということわざがあるように、世の中、ある程度のリスクを取ってでもチャレンジしなければ、大きな成果はなかなか得られないものである。他方、「石橋を叩いて渡る」というように、用心深くリスクを回避して物事を行うことにも一理はある。とにかくリスクを回避することに価値を置くか、それともある程度リスクを受容してでもチャレンジして「果実」を得ようするか。帰結の不確実性を考慮して、どちらの選択肢を重視するのかは、人々の価値観に左右され、人それぞれといえる。
この「リスク回避的か、リスク受容的か」に関する人々のリスク態度は、さまざまな社会行動を説明する一要因として、学問の世界でも大きな注目を集めている。
筆者の専攻する政治学では、リスク態度と投票行動の関係が近年とくに注目されている。例えば、民主党から自民党への政権交代をもたらした2012年衆院選、あるいはトランプ氏が予想外の勝利を収めた2016年米大統領選挙などの大きな現状変更をもたらした選挙において、リスク受容的な有権者ほど、「安倍自民・トランプ」という大きな現状変更につながる選択をしたことが明らかにされている(詳しく知りたい方は、飯田健『有権者のリスク態度と投票行動』木鐸社、2016年、および飯田氏によるSYNODOSのコラムをご覧頂きたい)。
では、リスク態度は人々の寄付行動とはどのように関係しているのだろうか。まず確認しておきたいのは、寄付やNPOの実情に通じたファンドレイザーの方々とは異なり、一般の人々にとって寄付は一定のリスクを伴う行動である、という点である。筆者が以前コラム「寄付に対する不安感と政治不信」でも書いたように、「寄付金がきちんと有効に使われているか」について不安を抱く人は、現状では8割以上とかなり多い。一般の人々は寄付に際して「自分が寄付したお金が有意義に使われないかもしれない」というリスクを強く感じているのである。
それを踏まえると、リスク態度が寄付行動に一定の影響を及ぼしている可能性は十分考えられる。予測の方向としては、リスク回避的な態度をもつ人ほど寄付行動に消極的になり、逆にリスク受容的な態度をもつ人ほど寄付行動に積極的になる、と考えられる。
以下では、実際のデータによって、人々のリスク態度が寄付行動とどのように関係しているのかを検証してみよう。ここで用いるデータは、筆者が関西大学若手研究者育成経費を得て、共同研究者の秦正樹・北九州市立大学講師、梶原晶・関西大学准教授と共に2018年2月に実施したウェブ上のアンケート調査(調査対象:全国の18歳から80歳までの男女、有効回答数:1,528)によるものである。
同調査では、人々の一般的なリスク態度を測る設問として、以下を用いた。

「『虎穴に入らずんば虎児を得ず』ということわざがあります。
あなたはこのことわざの考え方に同意しますか、それとも同意しませんか。当てはまるものを1つお選びください。

o 同意する
o ある程度同意する
o どちらでもない
o あまり同意しない
o 同意しない
o 意味がわからない
o 答えたくない  」

この設問の回答から、「同意する=5」「ある程度同意する=4」「どちらでもない=3」「あまり同意しない=2」「同意しない=1」という変数を作成し、これをリスク態度の指標とした(「意味がわからない」「答えたくない」は欠損値扱い)。リスク態度スコアが高いほどリスク受容的、低いほどリスク回避的、という解釈ができる。
このリスク態度スコアが「これまでの寄付経験(あり=1、なし=0)」および「一万円以上の寄付をやってみたい(これからもやっていく)気持ちの有無(あり=1、なし=0)」にどのような影響を与えているのかをロジスティック回帰という統計手法により推定したものが図1、図2である。なお、ここでの推定では、リスク態度と寄付経験・意向の双方に影響を及ぼしうる要因である、回答者の性別、年齢、世帯収入、学歴などの社会的属性の影響はコントロールしている。


図1 リスク態度と寄付経験の関係
注:エラーバーは95%信頼区間を示す。
社会的属性変数の影響は平均値で固定している。


図2 リスク態度と一万円以上の寄付意向の関係
注:エラーバーは95%信頼区間を示す。
社会的属性変数の影響は平均値で固定している。

図1は、リスク受容的な者ほど、これまでの寄付経験ありと答える確率が高くなることを示している。この推定結果に基づくと、社会的属性が平均的であると仮定した場合、リスク態度が「1:リスク回避的」の者の間では寄付経験確率は62.2%であるのに対し、リスク態度がよりリスク受容的になるにつれ寄付経験確率は次第に大きくなっていき、「5:リスク受容的」の者の間では83.5%となる。最もリスク受容的な者と最もリスク回避的な者の間では、寄付経験確率が20ポイント以上異なるのである。
同様に図2は、リスク受容的な者ほど、「一万円以上の寄付をしたい」と答える確率がより高くなることを示している。最もリスク受容的な者と最もリスク回避的な者の間では、「一万円以上の寄付をしたい」と答える確率が12.3ポイント異なっている。
このように、リスク態度と寄付行動の間には密接な関係があることが、少なくとも本稿で用いたデータからはうかがえる。リスクを冒すことを恐れない人は、リスクを回避して安全策に走る人よりも、より寄付を行いやすい。さらには、高額な寄付をする意向も持ち合わせているのである。もっとも、この分析結果は、別のリスク態度指標を用いれば変わる可能性があり、さらなる厳密な検証を行っていく必要性があることは付言しておきたい。
本稿の分析結果を踏まえて、ファンドレイジングへの含意をさしあたり2点ほど指摘しておきたい。
第1に、概してリスク回避志向が強いとされる現代日本人の間で、寄付文化を今後さらに広げていくためには、リスクを恐れない態度を何らかの形で育てていく必要がある。例えば、初等・中等教育において、現状よりも「失敗を許容する」教育を行っていくことは、寄付文化の普及にとっても案外重要であるかもしれない。
第2に、現状において「リスクを好む人ほど寄付をする」という傾向があるのであれば、リスク受容的な人たちが集まりやすい場所や機会は、ファンドレイジングの重要なターゲットになるかもしれない。例えば、競馬場やパチンコ屋、あるいは投資セミナーのような場で寄付を募ることは、予想外に有効なファンドレイジング方法になる可能性がある。もし貴方がリスクを好む人であるならば、一度試されてはいかが!?

謝辞:本稿で用いたデータは、2017年度関西大学若手研究者育成経費において、研究課題「NPO・市民活動への参加意識の実証研究―サーベイ実験による因果効果の検証―」(研究代表者:坂本治也)として研究費を受け実施したアンケート調査によるものである。資金を提供して下さった関係各位に心より感謝する。

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Profileこの記事を書いた人

坂本 治也 Haruya Sakamoto

関西大学法学部教授

1977年生まれ。関西大学法学部教授。博士(法学)。政治学専攻。専門領域:政治過程論、市民社会論。大阪大学法学部卒、同大学院法学研究科博士後期課程単位修得退学。琉球大学講師・准教授、関西大学准教授、UCLA客員研究員を経て現職。主要業績:『ソーシャル・キャピタルと活動する市民』(単著、有斐閣、2010年、日本NPO学会林雄二郎賞、日本公共政策学会奨励賞受賞)、『現代日本のNPO政治』(共編著、木鐸社、2012年)、『市民社会論』(編著、法律文化社、2017年)。

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